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ずっと母と妹に搾取されていたことに気付けたので縁を切りました  作者: 朔晦 月陽


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母の許し


アルフレッド様から返信をいただいたその日に、私はお母様の部屋を訪れた。手には調査報告書とダナン男爵家からの返信を持って。

お母様は疲れた様子でお茶をしていた。


「お母様、結婚式の準備お疲れ様です。最終確認は終わりました?」

「それがリリーがベールをやっぱりもっと長いのにするって言い出してね。今から新しくしたら刺繍が間に合わないでしょって言ったら拗ねて部屋にこもってしまったのよ」


なるほど、後で刺繍をせずにすむレースでもロベルト様にすすめておこう。


「それは大変でしたねお母様。あとでドナウティ公爵子息から話してもらいましょう。彼の言うことならリリーも納得すると思いますわ」

「そうね、そうしましょ」

「ところでお母様、あれからもうすぐ1年です。私の縁談もすすめたいと思っておりますの」

「ええ、そうよね。結婚式の準備で後手にまわってしまってごめんなさい」

「リリーの大事な結婚式ですもの。引き継ぎも終えて私の手もあいたので、私の方で調査を致しました。こちらが報告書です」


お母様は調査報告書に目を通すと、少しして眉を顰めた。トルマーニ子爵家子息のところを読んでいるのだろう。

報告書を閉じて、私の方に目を向ける。

「トルマーニ子爵家はないわね。ダナン男爵家にしましょう。うちからの打診なら向こうは断れないでしょう」

「ええ、私もそう思ってダナン男爵家に釣り書を送りましたの。先程返信を受け取りましたわ」


まだ封を開けていない手紙をお母様に渡す。


「ダナン男爵子息には想い人がいるとの話です。たしかに家格の高い我が家からの打診ではありますが、ダナン男爵子息は騎士様です。騎士として命をささげて独身を貫く方はいらっしゃいますし、断られることも多いにありえます。私ドナウティ公爵子息に婚約を白紙にされ、ダナン男爵子息にも断られたら、もう結婚は諦めて遠い修道院にでも行くべきかと思ってますの」


悲しげに、思ってもいないことを言う。


「お母様、私その返信を自分で見るのは怖いのです。お母様が開けてくださいな」


お母様の侍女がペーパーナイフを渡す。お母様はさっと目を通して青褪めた。


「お母様、ダナン男爵家はなんと?」

「……光栄な話だけれど聡明とお噂のオルデア嬢に愚息はもったいなく、恐れ多くてお受けできないと」


騎士として生きるから断る、と書かれているだろうことを予想していたが、どうやらずいぶんとお優しい返信をお願いしてくれたようだ。


「まぁ、やっぱりお断りの返信でしたか。ダナン男爵家に断られたらたらもう近くの領で縁談を持って行けるところはありませんわ。いつまでもここにいては妹夫婦に迷惑ですし、ローゼンフィルに帰ってこれなくなるのは寂しいですがやはり修道院に入るしかなさそうですわね」

「お、お待ちなさいオルデア、少し離れたところでもいいから縁談を探しましょう。早まっては駄目よ」

「でもお母様、もう私も19になりました。同年代で婚約者が決まってない方なんてほとんどおりませんわ。政略結婚で歳上の方の後妻に入らなければならない程うちの家は困っていません。私もそのような方に嫁ぐより修道院の方が……」

「お待ちなさいって。だ、誰か、誰かに紹介していただくわ」

「良いのですお母様、婚約が白紙になった後に釣り書を送ってくださったのは辺境伯様ただ1人。私は誰にも求められていないのですわ。良いご縁だったのに無下にしてしまった罰なのかもしれません。リリーの結婚式が終わったら、修道院に入れるよう手配致します」

「そ、そうよ!辺境伯様!ええっと誰かの紹介でって言ってたわよね?」

「ええ、フレッドからの紹介です」

「フレッド!誰かフレッドを呼んでちょうだい!」


ライナが出ていってすぐにフレッドを連れてきた。


「お呼びでしょうか」

「あぁフレッド!ねぇあなた以前辺境伯様の縁談を持ってきてくれたでしょう?辺境伯様はもう婚約者様をお決めになられたの?」

「いえ、つい先日届いた手紙にもまだ婚約者は決まっていないと。優秀なオルデアお嬢様に断られたのはとても残念だと書かれていました」

「今すぐこちらから釣り書を送りましょう!フレッドの紹介なら信用できますし、確かまだ22歳とかよね?オルデアと年も近くて評判もいいもの、考えてみればいい縁談だわ」

「でもお母様、辺境は遠いですわ。よろしいのです?」

「仕方ないわ。修道院に入るよりあなたには結婚して幸せになって欲しいもの」

「嬉しいわ。手紙も送りますし、何かあったら帰っても来ますわ。私ローゼンフィルのこと大好きですから」

「ふふ、分かってるわ。ロベルト様も頼りになるし、オルデアが少し遠くに行っても大丈夫よ」

「……ありがとう、お母様。それじゃあ私さっそくシュルベスト辺境伯様にお手紙と釣り書を送ります」


にこりと笑ってお母様の部屋を出た。一直線に部屋へと戻る。

部屋に入りソファーに腰掛けると、ライナがお茶を淹れてくれた。ふわりとハーブの香りが鼻をくすぐる。


「いい香り……」

「心が落ち着くハーブティーです」

「そう……ありがとう」


ハーブティーを一口飲む。


「ねぇライナ」


後ろに控えているライナに話かける。


「なんでしょう、オルデアお嬢様」

「私、辺境に行けるわ」

「ええ。聞いておりました」

「好きな人に嫁げるのよ。私、幸せ者よね」

「ええ。楽しみでございますね」

「お母様を説得できたの」

「ええ。お二人で頑張られました」

「望んでいたことよ」

「ええ。喜ばしいです」


「……なんで、涙が出るのかしら」


作戦は成功した。辺境に行ける喜びは確かに私の中にある。でも、虚しい。数カ月前には泣いて止められたのに。今は笑顔で送り出そうとしている。

近くに嫁ぐか家にいてくれなければと泣いていたのに。ロベルト様を頼れるようになったら私はいらないと言われてるようで。

私の幸せのためにとお母様は言ったけど、私は数ヶ月前と何も変わってない。


「その涙は、お嬢様がローゼンフィルのために頑張った証です」

「どうしてあの時は私の幸せのためにと送り出してくれなかったのかしら……なんてそんなことを思ってしまうのよ」

「……考えたら良いと思います」

「考える?」

「はい。辺境の地で、ゆっくりと今のお気持ちについてや、ご家族のことを考えたら良いと思います。シュルベスト辺境伯様と一緒に」

「一緒に……」

「お嬢様に見えないものがシュルベスト辺境伯様には見えるかもしれません。今答えを出さなくても良いと私は思います」

「……ありがとうライナ」


涙は止まった。

ライナの淹れてくれた優しいお茶を飲んだら、リリーのベールの話をしに行こう。その後にシュルベスト辺境伯様にお手紙を書かなくちゃ。

ライナが淹れてくれたお茶は、私のもやもやした気持ちを一緒に流し込んでくれたようで、シュルベスト辺境伯様へのお手紙になんて書こうか考えて、私の口元は知らず緩んだ。






お読みいただきありがとうございます

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