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ずっと母と妹に搾取されていたことに気付けたので縁を切りました  作者: 朔晦 月陽


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11/11

ライナ


私とシュルベスト辺境伯様の婚約が整い、リリーの結婚式の少し後に私は辺境に向かうことになった。婚約期間も含めて辺境の地で過ごすことをお母様にも認めてもらった。

今日はリリーとロベルト様の結婚式。本来ならば私の結婚式だった。シュルベスト辺境伯様と出会えていなかったらこれほど穏やかな気持ちで祝福できていただろうか。

無事に式は終わり、披露宴としてローゼンフィル侯爵家の大広間でパーティーが行われている。


「おめでとう、リリー」


いの一番お祝いを言いにいった。私がにこやかに2人を祝福している姿を見て、今2人はたくさんの貴族からの挨拶を受けている。

式の間も、大広間に2人が姿を現した時も、皆私の反応を伺っていたことが分かる。

2人がローゼンフィル侯爵を継いでいくのだと皆分かってる。なので表向き2人に対して非難するような目を向ける者はいない。

けれど皆知っているのだ。ロベルト様が5年婚約していた私を捨て、婚約期間中に妹と懇意にし乗り換えたことを。リリーが姉の婚約者を奪いローゼンフィルの跡継ぎという立場さえ奪ったことを。

貴族の蹴落とし合いは腐る程ある。奪われた私を嘲笑う人ももちろん多いが、リリー達2人の人間性を疑う人も多く、どう付き合うのが正解が皆探っているのだ。

しかし私がにこやかに2人を祝福する姿を見せることで、あなた達の考えているようなことはない、これは双方望んでのことなのだと見せることができる。そうして見せたことによって、大体の貴族が今まで通りの付き合いをしようと考え、祝福の挨拶をしに2人の周りに集まっている。

耳の早い人達は、私にもシュルベスト辺境伯様との婚約の祝いの言葉をかけてくれる。周りにいる人達が、顔はそっぽを向いていてもこちらの会話に耳を傾けているのが分かる。

きっと私とシュルベスト辺境伯様の婚約の話は、瞬く間に社交界に広がるだろう。




荷造りもほとんど終え、あとは普段使っている身の回りのものを入れるだけとなった。


「思ったよりは荷物が多くなったわね」


辺境までの道のりが長いし、あまり多くを持っていくつもりはなかった。必要なものは向こうで買えばいい。

シュルベスト辺境伯様もそう言ってくれているし、私もお金がないわけじゃない。持参金やらはもちろんだが、実は私は個人の商会を持っている。シャルフラワーの香水を作っているのは私の商会だ。ローゼンフィルのものではない。

私が個人的に始めたもので、今もその商会は私個人のものだ。ここを離れる際リリーかお母様に譲ることも考えたが、いちから育てた商会である。シャルフラワーの香水も、研究員達と鼻がバカになるぐらい何度も何度も香りを嗅いで作り上げたのだ。お店を任せている商会長も信用しているし、商会長からも誰にも譲らず私の商会のままでいて欲しいと言われた。

ロベルト様とももちろん話はつけてある。ロベルト様は不服そうであったが、元々ローゼンフィル侯爵家の名前ではなく私の名前での事業なのでとやかく言われることではない。


それでも私はローゼンフィルではなくなる。ローゼンフィル領でオルデア・シュルベストが事業をすることになるので後々問題にならないよう書面できちんと整理はした。

そんなわけで、商会のこともあるのでお金には困っていない。あちらで揃えればいいので荷物は少なくとライナにもお願いしたのだが、目の前には私が思っていたより多くの荷物が用意されていた。


「ねぇライナ、もう少し減らそうと思うのだけど」

「いいえ、オルデアお嬢様。これでも厳選したのです」

「そう?でもあちらで用意すればいいし、ドレスなんかもう少し置いていっても良いのではないかしら?こちらに帰って来た時に必要だし」

「失礼ながら私の考えをお話ししてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろん」


珍しい物言いのライナに先を促す。


「こちらに置いていく物はドレスでも宝飾品でも家具でも、全てオルデアお嬢様の物でなくなると考えた方がよろしいかと」

「私の物でなくなる……」


言われて気付いた。今でも私のものを平気で取っていくリリーのことだ。私がいなくなったら気まぐれにこの部屋のものを自分の物にするだろう。なにせそれを咎める私はいないのだ。


「なるほど。ありがとうライナ、その通りね。だから私のお気に入りのものはほとんど詰めてくれたのね」

「はい。これでも全てではないのです。オルデアお嬢様ももう一度ここに残していく物と辺境に持っていくものを見直してくださいませ」


私は部屋の中を見渡した。ここに置いていくものはリリーの物になってもいいもの。そうした目でもう一度見ることにした。しかし、ライナは優秀だ。私が置いていきたくないものは既にそこにはなかった。


「ライナ、あなた優秀すぎるわ」

「お褒めいただき光栄です」

「1番置いていきたくないのはあなただわ」

「オルデアお嬢様……」


ライナは私の侍女だけど、ローゼンフィル侯爵家に雇われている身だ。本来侍女を連れて行くのは当たり前だが、ライナは連れてはいけない。

ライナは結婚している。相手はローゼンフィル侯爵家の料理人だ。ライナが結婚しても侍女でいてくれるのは、旦那様もローゼンフィル侯爵家で働いているからだった。2人とも住み込みで働いてくれている。

ライナ以外の侍女も遠い辺境に連れて行くのも申し訳ないし、あちらで侍女と一から関係を築いていこうと思っていた。


「私……やっぱり置いていかれるのですか?」


ライナが絶望の表情で呟いた。


「え?だってライナ、あなたは結婚していて、旦那様もここで働いているのだから連れてはいけないでしょう?」

「誰を侍女に連れて行くのです?」

「侍女は連れて行かないわ。辺境は遠いもの。あなたじゃないならあちらで侍女を用意してもらってもあまり変わらないし、そうするつもりでいたわ」

「なるほど……道理で。オルデアお嬢様は当たり前に私がついて行くと思ってくださってるのか、でもそれにしてもオルデアお嬢様の性格上何も言われないのはおかしいと思っていて。ならば他の侍女を連れて行く気なのかと思えば誰もそんな素振りは見せないので……ここ最近私は辺境に連れていってもらえるのか不安でおりました」


いつもと変わらず完璧に仕事をこなす彼女が思い悩んでいたことに気付なかった己が腹立たしい。


「ごめんなさい、ライナ。あなたとお別れするのは寂しくて、泣いてしまいそうだったから何も言わずあえていつもと変わらないよう過ごしていたの」

「そうだったのですね……それでオルデアお嬢様、私は連れて行っていただけるのでしょうか?」

「ついてきてくれるなら、これほど嬉しいことはないわ。でも私はあなたの幸せも、あなたの生活も大事にして欲しいの」

「私の幸せはオルデアお嬢様にお仕えすることです。もちろん旦那のバルムも理解してくれています。バルムもオルデアお嬢様が大好きですから。夫婦で辺境に移り住むつもりでおりました。バルムは辺境伯家で雇ってもらえなくても街で働いても良いからと。料理人はどこでも働けるからと言ってくれました。ですからオルデアお嬢様、私も連れて行ってください」

「ライナッ!ありがとう!」


私は思わずライナに抱きついた。本当は少し、いやかなり不安だった。シュルベスト辺境伯様に嫁げるのは嬉しい。それでも私はずっと住んでいたローゼンフィルから出て、初めての場所で暮らすのだ。

シュルベスト辺境伯様と彼の従者のモートン、それ以外は本当に知らない人達の中に行くのだ、そこにライナがいるといないじゃどれほど差があるだろう。


「バルムにもお礼を言いにいくわ」

「一緒に辺境へ向かうのですから、その時言えます」

「いいえ、私とっても嬉しいの。感謝の気持ちを今すぐ伝えたいぐらいに!夕飯までにはまだ時間もあるし、バルムも忙しい時間じゃないでしょう?」

「それならガゼボでお茶にしましょう。バルムにお菓子を持ってきてもらいます。オルデアお嬢様はここ最近食が細いですから、食べれたらお菓子でもいいので食べてください」

「今日からはいつも通り食べられそうだわ。やっぱりちょっと不安で食欲が落ちてたの。でもライナが一緒だと分かったら不安はだいぶ無くなったから食欲も戻ってきたわ。だってもうお腹空いてきたもの」


ふふふ、と笑い会って私達は庭のガゼボに移動した。

お菓子を持ってきてくれたバルムにお礼を言うと、恐縮されてしまった。


「辺境伯家で雇っていただけるよう私からも辺境伯様にお願いするわ」

「有り難いですが、勝手についていって雇えと言うのは厚かましい。私は街でも働けますから良いのです。オルデアお嬢様の立場に負担になるようなことは望んでいません」

「大丈夫よ、私個人で雇うこともできるのだから。ついてきてくれる2人を守れない程弱くないのよ?」

「「ありがとうございます」」


2人して頭を下げるものだから、お礼を言うのはこちらなのにと慌ててしまう。

仕事に戻るというバルムは、去り際にライナに良かったなと微笑んで行った。その言葉に嬉しそうに微笑むライナと、そんなライナを慈しむ目で見ていたバルムを見て、こんな夫婦になれたらいいなとシュルベスト辺境伯様を思い浮かべる。

優しい笑顔を思い出して、辺境に旅立つのがどんどん楽しみになっている自分に気付いた。




お読みいただきありがとうございます

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