50 私は極悪令嬢です
子爵令嬢 ニーナ・ベルシュタイン
公爵 ジークハルト・ベルシュタイン
皇太子 アルフレッド・クロムウェル
皇太子妃 クロエ・クロムウェル
アルフレッドとクロエの結婚から3か月後、私とジークハルトの結婚式をおこなった。
白い大聖堂には光が差し込み、参列者の影がゆっくり揺れていた。
色々とあったお義母様も、この日ばかりはニコニコとしていた。
目尻の皺まで柔らかくなっていて、以前の厳しさが嘘のようだった。
田舎の両親も喜んでくれて、とても幸せだ。
心配をかけたこともあったから。
遠くから来てくれた2人の笑顔が、胸の奥をじんわりと温めた。
それから、さらに数年後。
季節がいくつも巡り、庭の木々も少しだけ背が伸びた頃。
結婚でめでたしと終わる話は、やっぱりファンタジーだなということを実感した。
「お母様、全寮制の学園には行きたくありません」
息子のヴィクトールが、駄々をこねている。
腕を組んでふくれっ面をしていた。
ジークハルトの瞳と同じ色の瞳を持つ息子。
我が子ながらイケメンだ。
「どうして全寮制の学園に行きたくないの?」
私がそう言うと、ヴィクトールは少し困った顔をして頭を掻く。
頭を掻くクセは、ジークハルトと一緒なんだから。
「お父様には内緒にしてくれますか?」
ヴィクトールがそう言って私を見る。
周囲を気にするように声をひそめている。
「もちろん」
そう伝えると、小さい声で教えてくれた。
「みんなが、お父様のこと、『極悪人のジーク』って言うんです」
その言葉を聞いて、まだそんなことを言う人がいるのかとため息が漏れた。
昔よりは減ったと思っていたけど、完全には消えていないらしい。
「お父様がそう言われる理由を知っていますか?」
「顔の傷が、怖いからです」
ヴィクトールにソファへ座るように促すと、素直に座ってくれた。
ふかふかのクッションが少し沈む。
「ヴィクトールは、お父様の顔の傷を怖いと思いますか?」
私がそう言うと、ヴィクトールは首を横に振った。
「かっこいいと思います」
「私も、お父様のお顔の傷は、とてもカッコよくて魅力的で、猛々しくて最高にクールで…」
そこまで言って、気持ちが盛り上がりそうな自分を抑えた。
勢いで語り始めると止まらないのは、昔から変わらない。
これはオタクの性だ。
「…素敵だと思っています。ですから、他の人の言うことなんて気にしなくていいんですよ」
そう言って微笑むと、ヴィクトールは安心したように笑った。
「それにね。実は、お母様も極悪令嬢って呼ばれていたんですよ」
そう伝えるとヴィクトールがビックリして私を見た。
目を丸くして、信じられないといった顔をしている。
可愛いんだから。
「ただいま。…どうしたの?」
ジークハルトが帰宅して、驚いた顔をしているヴィクトールに話しかけている。
「お父様っ!大変です。お母様が、極悪令嬢って呼ばれてたってっ!」
ヴィクトールがあたふたとしている。
両手を振り回しながら必死に説明している。
ジークハルトはヴィクトールの頭を撫でて、私を抱き寄せてくれた。
「大丈夫だよ。ニーナがなんて呼ばれようと、俺の愛しい人であることに変わりはないから」
そう言って私にキスをする。
息子の前なのに。
「そうね。それに、極悪人の愛しい人が極悪令嬢…極悪公爵夫人なんて、ぴったりですよね」
私がそう言って微笑むと「そうだね」とジークハルトも微笑んでくれた。
私の推しは、やっぱりカッコいい。
この幸せを得るのも、保っていくのも、容易ではないけれど、その価値がある。
推しとずっと一緒にいられるだけじゃなくて、推しに似た子を育てることまでできるんだもの。
何度もジークハルトの手をはなそうとした。
不安で、逃げたくなることもあった。
ジークハルトが私の手を何度も掴みなおしてくれなければ、今の幸せは叶わなかっただろう。
この手を掴むたびに、私も強くなれた気がしていた。
きっと、これからも色々あるだろう。
私は弱いから、また、この手をはなそうとするかもしれない。
「ジーク、ずっと一緒にいてくれてありがとう…これからも、手をはなさないでね」
そう言って、彼の顔の傷を撫でた。
ジークハルトが私を抱きしめてくれる。
「ニーナをはなすことなんてないから、安心して」
そう言われて、幸せで涙が溢れた。
極悪令嬢?…どんとこいだわ。
モブ令嬢が極悪令嬢になって極悪公爵夫人になったのに。
幸せになって、ごめんあそばせ。
「モブ令嬢に転生したので推し活していたら極悪令嬢に昇格しちゃいました」、完結となります。
珍しく、1話から50話までいっきに書いた作品です。
こんな自慰小説を、多くの方が目にとめてくださるのが嬉しくて、本当に執筆の励みになりました。
読んでいただいた皆さま、ありがとうございます。
普段は18禁の小説をメインで書いております。
18歳以上の方はよければ、のぞいてみてください。




