45 推しの魅力ならいくらでも
子爵令嬢 ニーナ・ヴァロワ
皇太子 アルフレッド・クロムウェル
公爵 ジークハルト・ベルシュタイン
「いや。ごめんね。母さんが、君への教育は自分がやるってきかないから、俺が折れたんだけど。まさか、使用人がやるようなことをやらせていたなんて思ってなくて」
ジークハルトがそう言って、額を押さえながら深く息を吐いた。
ソファの背にもたれ、珍しく疲れた表情を見せる。
「あ…お義母様は私に、家のことをよく知ってほしかったのかもしれないし。そんなに気にしないでくださいね」
私がそういうと「気にするよ」と即座に返されてしまった。
「公爵夫人になるための勉強については、俺があらためて講師を手配するから。母さんに言われても、もう、あんなことはしないで」
そう言われた。
それは…なかなか難しい。
ジークハルトが少し躊躇って、言葉を選ぶように間を置き、覚悟をしたように話し始めた。
「どこかでわかると思うから、言っておくけど。俺、母さんと血は繋がってないんだ」
ジークハルトにそう言われて驚いた。
「戸籍上は実子になってるんだけどね。母さん、子どもができない体質で。父さんが外で作らせた子が、俺。その俺を、実子としてこの家に入れたの」
静かな部屋の中で、その言葉だけが重く落ちる。
カーテンが風に揺れた音さえ、妙に大きく感じた。
衝撃的な告白すぎて、なんて言っていいかわからない。
「恥ずかしい話だけど、俺の実の母親も王家の人みたいで。…会ったことはないんだけどね。まあ、王家の血を引いてるってことで…それだけで母さんには愛されてる」
ジークハルトがそう言って、視線を少し逸らし、寂しそうに笑った。
その笑みは、いつもの彼よりずっと弱々しい。
ほかっておけなくて、気がついたらジークハルトの背中を擦っていた。
ジークハルトに抱きしめられる。
抱きしめられるというか、私が抱いているみたいな気がする。
どちらが支えているのかわからなくなる。
こんなに大きな体をしているのに、小さくなってしまったみたい。
私が知らないこと、いっぱい抱えているんだろうな。
そう思って、何も聞かずに静かに頭を撫でてあげた。
王家の血を引いているから。
お義母様がジークハルトを息子だと思う理由がそれだけなのだとすれば。
ますます、低い爵位の私の血が入ることは嫌だろう。
なんとなく、嫌がらせをされている理由にも納得できた。
ジークハルトが用意してくれた講師は、とてもわかりやすくベルシュタイン家のことを教えてくれた。
広い書斎で資料を広げながら、落ち着いた声で説明が続く。
「それで、この伯爵家が…」
そう言って、次々と教えてくれる。
地図や家系図が丁寧に並べられていた。
この人はジークハルトの親戚筋の方で、私より少し年上のアドルフ・シュバルツシルト。
シュバルツシルト家というのは、お義母様のご実家なのだそうだ。
「ニーナ嬢は、ジークハルトのどんなところが好きなの?」
アドルフにそう尋ねられて、思わず顔を上げる。
目が輝くのが自分でもわかった。
久しぶりに聞かれた。
ジークハルトの好きなところ。
「聞きたいですか?言ってもいいですか、アドルフ様!」
そう言って、椅子から身を乗り出す。
それから、しっかり1時間、ジークハルトの魅力を熱弁した。
途中で身振り手振りまで加わり、アドルフが何度か頷きながら、徐々に遠い目になる。
「うん、わかったから、もうやめて」とアドルフにストップをかけられてしまった。
話足りない…
ショボンとしていると、ジークハルトが帰宅された。
廊下から足音が近づいてくる。
もう、そんな時間でしたか。
「おかえり、ジーク。いやあ、面白いお嬢さんだね」
アドルフがそう言って、ジークハルトと何かを話している。
軽く肩をすくめながら笑っている様子だ。
お義母様とは色々とあるみたいだけど、親戚の方と話しているジークハルトは、そういうごちゃごちゃしたものを感じさせない。
すごいな。




