41 ジークハルトへの罰
子爵令嬢 ニーナ・ヴァロワ
皇太子 アルフレッド・クロムウェル
公爵 ジークハルト・ベルシュタイン
「ジークハルト・ベルシュタイン。君も不貞行為をおこなった罪を償ってもらわないといけない」
アルフレッドがそう言った。
どうしたら、彼の罪が軽くなるだろうか。
考えているけど、頭の中がぐるぐるして、何も思いつかない。
「あの…アルフレッド殿下、その…」
何か、ジークハルトをかばうことができる情報はないだろうか。
アルフレッドはジークハルトの友達だから、友達を助けてほしいと言えば、助けてくれないだろうか。
胸の前でぎゅっと手を握りしめながら、アルフレッド殿下に目で訴えてみる。
キラキラ皇太子が、ふっと優しい視線になった気がする。
…信じていい?
この優しい瞳を、信じてもいいんだろうか。
アルフレッドがジークハルトに視線を向けた。
「本来なら、ベルシュタイン家の爵位を下げるところだけれど。今回はジークハルトから申告があって不貞行為を明らかにできた。それを考慮して恩赦を与えることにした」
アルフレッドがそう言うと、ジークハルトがうやうやしく頭を下げる。
「1か月の謹慎と、贖罪金の支払い。それと、現在、話を進んでいる伯爵家との婚約の話を白紙にして、極悪令嬢と名高い子爵家の令嬢との婚礼を命ずる」
アルフレッドがそう言って、私を見る。
また、ふわっとアルフレッドが微笑んだ。
その瞬間、体育館にいる人の視線が一斉に私に向けられたのがわかった。
でも私は、なぜか現実逃避中だった。
公爵家の次に爵位が高い公爵家との婚礼は、家格を保つために大切なことだ。
爵位が低い家との婚礼は、一般的に嫌がられる。
だから、子爵家との婚礼は罰になると言えばそうだけど。
婚約をとばして、婚礼なんだ。
ジークハルトと結婚できるなんて羨ましいぞ、その子爵令嬢。
って。
極悪令嬢と名高い子爵令嬢…?
顔を上げてみた。
キョロキョロと辺りを見回す。
どういうわけか、みんなが、私を見ている。
私もたしかに、子爵令嬢なんだけど…
少しずつ、顔が熱くなっていく。
耳の先までじわじわと熱が広がる。
そんなこと、あるわけがないと思いながら、期待してしまう自分がいて。
恥ずかしくて、情けない。
心臓がうるさい。
壇上からジークハルトが降りてきた。
「ごめんね。こんなことに巻き込んで。…でも、どうしても、君と結婚したかった」
ジークハルトがそう言って、私の手を取る。
ポロポロと涙がこぼれた。
これは夢なんだろうか。
「ごめんね。君との婚礼を、過ちの『罰』になんてしたくなかったんだけど。これしか方法を思いつかなかったんだ。ごめんね」
ジークハルトが何度も「ごめんね」と言って、私を抱きしめてくれた。
周囲の視線も、壇上のざわめきも遠くなっていくようで、ただ胸の中だけがいっぱいになる。
夢なのではないかと思うほど、嬉しい。
「私、ずっと、ジークハルト様と一緒にいても、いいんですか?」
もう少しでお別れになるものだと思っていたのに。
結婚していいって言ってもらえた。
信じられない…
「うん。ずっと、一緒にいてください」
ジークハルトがそう言ってくれたから、遠慮なくポロポロと泣いた。
さんざん泣いて落ち着くと、すごく恥ずかしくなった。
みんなの視線が痛い。
ここ体育館で、みんなが集まってて、王族の方までいる。
やってしまった感がある。
「では、解散」
アルフレッドがそう言うと、バラバラと生徒たちが体育館から出ていったようだ。
私が泣いている間、ジークハルトは私を抱きしめてくれていて。
今はニコニコしながら私を見下ろしていた。
さっきまでの緊張感が嘘みたいに、柔らかい空気が2人の間に戻っている。
「…す、すみません。私、人前で泣いちゃって…ご迷惑を…」
あたふたとしていると、ジークハルトがまた私を抱きしめた。
今度は少しだけ強く腕が回る。
「俺、明日から謹慎なんだ。ひとりで寂しい…会いに、来てくれる?」
そう言われて、また顔が熱くなった。
「だ、男子寮、ですよね…無理ですぅ…」
周囲の目も気になって、慌てて顔を隠すと「隠さないで」と言われた。
その声がやけに近くて、余計に心臓が落ち着かない。
「家で謹慎になるから、家に来て?」
ジークハルトがそう言って私をじっと見る。
このチワワのような目に弱い。
「あの…じゃあ、授業が、終わったら…」
3年はそれほど授業の枠がない。
教室の予定表を思い出しながら、午前中に終わる日も多いから、午後から行けると伝えた。
ジークハルトは小さく頷き、その日のうちに寮から家に移動したようだった。
私はそのまま寮に戻って、ぐったりする。
部屋に入った瞬間、力が抜けた。
すごい幸せだったのに、すごく疲れた。
天井を見上げながら、頭の中で今日の出来事がぐるぐると回る。
アルフレッドが婚約破棄して、アリアナが強制送還されて、ジークハルトと結婚することになって…
色んな事が一気に起こった。
ひとつだけ気になっているのは、クロエだ。
クロエはジークハルトとの婚約を白紙にされたことになる。
怒ってるかな…
クロエのことを考えながらウトウトして、そのまま眠ってしまった。




