39 不貞行為の証拠
子爵令嬢/生徒C ニーナ・ヴァロワ
皇太子 /攻略対象 アルフレッド・クロムウェル
公爵 /攻略対象 ジークハルト・ベルシュタイン
伯爵 /攻略対象 リュカ・モンパルナス
伯爵 /攻略対象 オスカー・ウィリアムズ
伯爵令嬢/悪役令嬢 クロエ・ラングレー
皇太子妃候補 アリアナ・エグランティーヌ
あれから、ときどき、ジークハルトとアリアナの噂が耳に入るようになった。
誰かのささやきが、教室の隅や廊下の角で断片的に聞こえてきてしまう。
2人で楽しそうに街を歩いていたとか、手を繋いでいたとか、密室にいたとか…
聞きたくない噂もあったけど、ラブラブらしい。
アルフレッドを含めてどういう関係になっていくのかわからないけど、ジークハルトが幸せならいい。
ジークハルトとアリアナがラブラブになってから、侍女の仕事が楽になった。
アリアナは、デートのときには私を連れていかないからだ。
その日は寮も教室も静かで、妙に時間が余る。
アリアナがデートをしている間に、宿題をして掃除ができる。
窓から差し込む光の中で、久しぶりに時間に追われることなく掃除をした。
「…終わった」
もろもろの仕事が終わると、アリアナが帰ってくるまで自分の時間が作れる。
のんびりできて幸せなはずなのに、アリアナがジークハルトと会っていると思うと、胸が痛んだ。
ジークハルトが幸せなら、相手が私である必要はない。
胸が痛むたび、自分にそう言い聞かせた。
3年になると、一気にイベントが少なくなる。
そんなある日、全学年の生徒が体育館に呼ばれた。
入学式でも卒業式でもないのに。
こんなイベント、あったかしらと頭をひねる。
いまだにゲームに関する記憶が戻り切っていないから思い出せなかった。
思い出せたとして、ゲームのストーリーと今のストーリーはだいぶ変わってきてしまっているけど。
ぞろぞろと体育館に人が入っていく。
靴音が反響して、天井の高い空間が少しずつ埋まっていった。
私もその流れに従って入っていって驚いた。
なんと、壇上に王家の方々がいらっしゃる。
何ごと?
そこで、ハっとした。
結婚の日が決まったのかも。
一応、婚約者は隣国の王女だし。
学園で盛大に祝おう、みたいなことかな?
私以外の生徒も、そうではないかと話している。
アリアナは生徒たちが話しているのを聞いて、ニマリとしている。
周囲のざわめきが少しずつ大きくなる中で、その視線の中心に自分がいることを楽しんでいるような、余裕のある笑みだった。
やっぱりそうなのかな?
「私に関係があることのようだから、前に行きましょう。あなたもついてきていいわよ?」
本日は聖女スマイルのアリアナがそう言った。
周囲の視線がちらちらとこちらにも向くのを感じながら、彼女はすでに壇上へ向かう流れを当然のものとしているようだ。
「いえ…私はこちらで見守らせていただきます」
そう伝えたのだが「はあ?」という目で睨まれて、ご一緒させていただくことになった。
1番前で立ってるの、恥ずかしくて嫌なんだけどな。
そう思いながら小さくなっていると、学園長が話し始めた。
「突然、全員に集まっていただいて申し訳ない。今日は…ごほん。我が国の皇太子殿下から、お話があるとのことで…す」
声がわずかに震え、咳払いもいつもより多い。
学園長が緊張している。
王家の方々がいらっしゃるからだろうか。
ああいう人を見ると、頑張れって応援したくなる。
学園長に紹介されて、キラキラ皇太子が演台に立った。
「本日は、突然の招集に集まっていただきありがとうございます。さて、僕が2年のときに婚約をしているのは、皆さんもご存じのことと思います」
キラキラ皇太子がキラキラしながら話す。
視線を一身に集めても微笑みが崩れないのがすごい。
こうやって人前で話すアルフレッドを見ると、やっぱり皇太子なんだなと思わされる。
なんというか、話し方に説得力がある。
聞き入っちゃう。
「婚約者は隣国の第三王女、アリアナ・エグランティーヌ。学園で共に学んできたので、彼女を知っている方も多いでしょう」
アルフレッドがそう言うと、アリアナにみんなの視線が集中した。
「嫌ですわ…そんなに見られたら恥ずかしい」
アリアナがそう言って頬を赤らめている。
その仕草すら計算されたように見えるのは気のせいだろうか。
「ただ、残念なことに。僕は彼女と結婚できなくなりました」
皇太子がそう言って、場が凍った。
アルフレッドの言葉に、アリアナが首を傾げている。
理解できないというより、状況が飲み込めていない顔だった。
どうやら、アリアナも知らなかったことらしい。
大勢いるはずの体育館が、しんと静まり返った。
「どういう…」
アリアナがそう呟くと、アルフレッドはとても残念そうに話し始めた。
「アリアナが重大な不貞行為を犯していると、密偵から連絡を受けたのです」
そう言って、アルフレッドは俯く。
視線を落とし、まるで自分も苦しんでいるかのように見せる仕草だった。
不貞行為?
結婚後、愛人囲うのも公認していたのに、そんなことで婚約解消するの?
「ふ、不貞行為なんて、していませんわっ!」
アリアナが大きな声でそう言った。
声が体育館の天井に反響して、やけに響く。
「皆さんも、もしかしたら、噂が耳にはいっていたのではないでしょうか。アリアナ嬢が公爵令息と幾度となくデートしている現場を見たとか…」
アルフレッドがそう言った。
一拍遅れて、視線がざわっと揺れる。
ドクンと心臓が跳ねる。
公爵令息なんて、この国に1人しかいない。
ジークハルトだ。




