36 踏み込み過ぎてしまいました
子爵令嬢/生徒C ニーナ・ヴァロワ
皇太子 /攻略対象 アルフレッド・クロムウェル
公爵 /攻略対象 ジークハルト・ベルシュタイン
伯爵 /攻略対象 リュカ・モンパルナス
伯爵 /攻略対象 オスカー・ウィリアムズ
伯爵令嬢/悪役令嬢 クロエ・ラングレー
皇太子妃候補 アリアナ・エグランティーヌ
「い、いやぁ!ちょっと、待ってくださいね。あの、なんていうか。ちゃんと、正規のルートで入れたらなって。皇太子さまからの推薦とか、やっかみが?…やっかみが、アレなんでっ!」
あたふたとしていると、キラキラ皇太子がニヤニヤしながら私を見た。
こいつ、気づいてるな。
「まあ、そうね。皇太子からの推薦なんて、みんな羨ましがるかもね」
アリアナが楽しそうに笑っている。
この人、本当にヒロインなんだろうか。
ともかくその場ではお茶を濁して、ちらっとアルフレットを睨みつけておいた。
アリアナの我儘を片付けつつ、自分の勉強もして、毎日とても忙しい。
あれ以来、クロエはおとなしくしてくれているみたいで、今のところ、ジークハルトも闇落ちしそうにない。
よかった。
このまま何ごともなく卒業できれば…いいのか?
整理してみよう。
ジークハルトが闇落ちせずに卒業する。
アルフレッドとアリアナが結婚する。
ジークハルトとクロエが結婚する。
アリアナがジークハルトを愛人として囲う…
これって、ジークハルトは幸せなのか?
百歩譲って、ジークハルトがアリアナに好意を持ってるなら、あり、かな?
アルフレッドとクロエには申し訳ないけど。
ということは、ジークハルトがどう思っているか確認しないと。
以前は、あまりいい印象を持っていなかったみたいだけど。
今はもしかしたら…そういう感じになってたりするのかな?
ちらっとジークハルトを見る。
なるべく気づかれないように様子をうかがう。
席が前というのは、盗み見るのが難しい。
視界に入る角度も限られていて、ほんの少し首を動かすだけでも周囲の目が気になる。
特に授業中は教師の視線もあるため、思うように観察できないもどかしさがあった。
学園にいる間はほとんどアリアナと一緒にいる。
寮に帰ってからも、アリアナが寝るまでは呼び出しに応じるために待機しておかないといけない。
だから、ジークハルトに気持ちを聞くタイミングがつかめずにいた。
少し焦っている。
もうすぐ2年目が終わってしまうからだ。
2年目が終われば、ジークハルトとクロエの婚約はほぼ決定。
そうなればもう、愛人へ一直線だ。
ジークハルトがそれでいいなら、いい。
でも、嫌だと思ってるなら、なんとかしてあげたい。
気持ちはあるんだけど、時間がない…
焦りだけが増していき、時間はガンガン過ぎていった。
本日も、アリアナの最後の我儘をききおえると、すっかり夜もふけていた。
窓の外はすでに深い闇に沈み、寮の灯りだけがぽつぽつと残っている。
なんだか疲れてしまって、中庭の散歩に出てみた。
静かな夜風に誘われるように、自然と足が向く。
誰もいない空間が、かえって思考を整理させてくれる気がした。
いつだったか、ジークハルトと散歩したっけ。
思い出すと、あのときの空気まで蘇るようだった。
ジークハルトと出かけると、雨に降られることが多くて…
思わず、空を見上げる。
曇ってはいるけど、雨が降る気配はない。
モブごときが、そんなに簡単に攻略対象と会えるわけがないか。
でも、思い出だけでも、こんなに幸せな気分になれるんだと初めて知った。
これから何が起こるのかはわからないけど、この思い出があれば大丈夫だと思わせてくれた。
ジークハルトのお気に入りの場所に座って、空を見上げた。
夜の静けさが一層際立つ。
見慣れた場所なのに、今は少し違って見えた。
「曇りか…残念」
ぽつりと漏れた声は夜に吸い込まれていくように消える。
雲がなければ、満天の星が見えたかもしれないのに。
「そうだね…残念」
すぐ隣から返る声は、静かな夜に柔らかく響いた。
驚きで体が跳ねそうになる。
イケボが耳をくすぐった?
このイケボの正体は、見なくてもわかる。
「ず、ずいぶんと遅くまで…あ、護衛のお役目ですよね。おつかれさまですっ」
慌てて振り返ると、そこにいるのは予想通りの人物だった。
緊張で声が少し裏返る。
ジークハルトだ。
暗がりの中でも推しの姿ははっきり見える。
アリアナの寮の前の見張りでもしていたんだろう。
お役目の邪魔になってもいけない。
「それでは、その…おやすみなさい…ませ」
言い終えると同時にその場を立ち去ろうとして、目が合った。
ほんの一瞬のはずなのに、時間がゆっくり流れたように感じられる。
久し振りに、生ジークハルトと目が合ってしまって、固まる。
胸の奥が急に熱くなり、どう動けばいいのか分からなくなる。
「最近、よく、俺のこと見てるけど…なにかあった?」
そう言われて、顔が熱くなる。
見てたの気づかれてたようだ。
どうしようかなと思ったけど、今しか聞くタイミングはなさそうだ。
周囲に人はいない。
「あの…ア、アリアナさんのこと、どう思ってますか?」
直球で尋ねてしまった。
「アリアナ嬢?…どうって」
ジークハルトが少し困ったように視線を落として頭を掻いてる。
元カノにそんなこと聞かれたら、嫌な気分になるかな。
他になにかいい聞き方はあるだろうか。
「それ、聞いて、どうするの?」
ジークハルトにそう尋ねられて、困る。
『愛人にしたいって言ってるんですけど、前向きにご検討いただけますか?』
違うな。
頭の中で一瞬浮かんだ最悪の言い回しを即座に打ち消す。
「その…アリアナさん、アルフレッド様と結婚しても、ジークハルト様と一緒にいたいって、以前おっしゃっていたので。ジークハルト様は、どう思われてるのかなって…」
愛人という言葉を使わないように言葉を選ぶ。
「なんていうか。その…政略結婚ですし。ジークハルト様がアリアナさんに好意があるなら…」
そこまで言って、口を閉じる。




