33 モブからアリアナの侍女に
子爵令嬢/生徒C ニーナ・ヴァロワ
皇太子 /攻略対象 アルフレッド・クロムウェル
公爵 /攻略対象 ジークハルト・ベルシュタイン
伯爵 /攻略対象 リュカ・モンパルナス
伯爵 /攻略対象 オスカー・ウィリアムズ
伯爵令嬢/悪役令嬢 クロエ・ラングレー
皇太子妃候補 アリアナ・エグランティーヌ
教室で生徒に囲まれるアリアナのところに行く。
机の間を縫うように進むと、視線が一斉にこちらへ向いた。
「あの、アリアナさん。少しよろしいでしょうか?」
わざわざ教室でアリアナに声を掛けたのは、ここなら、裏の顔は出せないはずだと思ったからだ。
「…あら、ニーナさん。どうしたんですか?」
そう言ったアリアナの眉がピクピクしている。
笑顔は完璧なのに、目だけが笑っていない。
「…この間、少しキツイことを言ってしまったので謝りたくて」
私がそう言うと「そんな、気にしていませんわ」と微笑んで私の手を握る。
…痛い。
思いっきり爪を立てて、握られている。
「それで私、改心いたしましたの。だからこれからは、アリアナさんの侍女の代わりみたいにお傍にいさせてもらえないかなって思って」
そう言って、アリアナの手を握り返した。
無理矢理、目尻を下げた。
アリアナが少し驚いた顔をする。
ジークハルトをアリアナへの怒りで闇落ちさせない方法。
それは、アリアナの我儘を私が代わりに引き受けること。
それしか思いつかなかった。
「…あら、そんな。ニーナさんったら…少し、あちらでお話しませんか?」
アリアナがそう言って、困ったような顔をして私を別室へ連れていった。
誰も来ない、倉庫のような部屋だ。
窓も小さく、光が薄く埃の粒が浮いて見える。
「で、どういうつもり?」
さっそく、ダークアリアナが現れた。
「どうって…先ほどお伝えしたとおりです。アリアナさんは、皇太子妃になられるんでしょ?私、王宮で勤めたいと思っていたんです。ぜひ、侍女として連れていってください」
そう言って微笑んだ。
アリアナはしばらく私を見て「そう言うこと」と言って笑った。
「なんだ。あなたも、結局、そういうことね」
アリアナが勝ち誇ったように笑っている。
笑わせておけばいい。
これでジークハルトの平穏が守れるなら、安い、安い。
それから、本当に侍女のようにアリアナに扱われた。
朝の呼び出しから夜の雑務まで、自分でやれよというものを含めて色々と。
具体的には、寮から学園への送り向かい、制服の準備、宿題、ランチの手配、などなど。
アルフレッドから我儘だとは聞いていたけど、かなりの我儘だった。
「これが王族か…」
ぼそっと声が漏れた。
「何か言った~?」
アリアナがそう言いながらお茶を飲んでいる。
「いえ。王族の方は、やっぱり所作が違うなって思って」
そう言ってごまかす。
私がアリアナの身の回りのことをするようになって、ジークハルトがアリアナに呼びつけられることもなくなったようだ。
よかった。
アリアナの我儘に慣れてきて、クロエの様子もチェックするようになった。
クロエがジークハルトを巻き込んで何かしないように注意しないと。
ときどき、クロエがアリアナに絡んでくるけど、腹黒さでいえばアリアナが一枚上手だ。
表面では完全に聖女を演じ切っている。
誰か人がいるところで「ひどいですわ、クロエさん」と言って泣いて見せて、クロエが周りの人に白い目で見られて退散していく。
その一連の流れが、すでに完成された劇のようになっていた。
アリアナの傍で格闘しているうちに、ジークハルトの婚約者候補にクロエの名前が挙がっていることが広がっていた。
「ああっ!また宿題…ちょっと、奴隷っ!これもやっといてっ!」
アリアナが私にノートを投げつけた。
紙が空中でばさばさと音を立てる。
物を投げてはいけませんって、子どものときに言われなかったのか?
「はい、アリアナさん。他には何もないですか?」
ノートを拾い上げながらそう言うと「何かあったときに呼ぶわよ」とおかしを食べ始めた。
さいですか。
そう思いながら近くの机で、アリアナの宿題と、私の宿題をする。
最初はイヤイヤやっていたけど、こうやって2回、宿題をするから、授業の内容はよくわかるようになってきていた。
予習復習って大切よね。
「…あの。感想文の宿題もあるんですが」
「それもやっといて~」
アリアナは、全然、勉強をやろうとしない。
これで、皇太子妃教育は大丈夫なんだろうか?




