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モブ令嬢に転生したので推し活していたら極悪令嬢に昇格しちゃいました  作者: 西園寺百合子


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3/50

03 ジークハルトの笑顔

子爵令嬢/生徒C ニーナ・ヴァロワ

皇太子 /攻略対象 アルフレッド・クロムウェル

公爵  /攻略対象 ジークハルト・ベルシュタイン

伯爵  /攻略対象 リュカ・モンパルナス

伯爵  /攻略対象 オスカー・ウィリアムズ

伯爵令嬢/悪役令嬢 クロエ・ラングレー

男爵令嬢/ヒロイン アリアナ・ロゼ

ジークハルトがお昼休みにこっそり中庭に来るのは、彼なりの配慮だった。

彼がいると、周りの人が怯えるから。

傷跡だけで恐れられるなんて、本当に理不尽だと思うけれど。


ジークハルト自身は傷のことは気にしていないけど、誰かを嫌な気持ちにさせてしまうことを気にしている。

そういう、優しい人なのだ。

不器用で、誤解されやすくて、それでも他人を思いやれる。

だからこそ、推さずにはいられない。


そんなジークハルトは、ヒロインであるアリアナに恋をする。

アリアナと結ばれるジークハルトルートのときは、アリアナがジークハルトに寄り添う。

孤独な彼の隣に立ち、少しずつ心を溶かしていく。

そうして、悪役令嬢であるクロエが障壁となって、愛を育んでいく。

数々の困難を越えてこそ、真実の愛を知ることとなるわけで。


ジークハルトルート以外をヒロインが選択すると、ジークハルトは闇落ちして、クロエと共にヒロインと攻略対象の障壁となる。

特に、皇太子であるアルフレッドルートになると、ジークハルトは王家を滅亡させようとして、結果、その悪事が露見して処刑されてしまう。

思い出すだけで泣けてくる。

攻略対象でありながら、酷い扱いを受けるのが、ジークハルトだ。

推しに対する運営の仕打ちがひどすぎる。


ゲーム内では『極悪人のジーク』とされるジークハルトだけど、乙女ゲームの攻略対象でもあるわけで。

当然、かっこいい。

鋭い視線も、低い声も、不器用な優しさも、すべてが刺さる。

だから、私みたいなコアなファンも多かった。

ネット掲示板でも、救済ルートを望む声は絶えなかったなと思い返す。


本日も中庭でジークハルトを観察していると、ジークハルトがむくりと起き上がった。

また、ランチを食べて寝るのかなと思っていたら「おい」と声を掛けられた。

低く響くその声に、心臓が飛び跳ねる。

周りを見てみる。

他に誰かいるのかと確認するが、人影はない。

「そこの…俺の、隣の席のやつ」

そう言われて、私しかいないと気がつく。


え、私!?

脳内で警報が鳴り響く。

「あ…すみません。お昼寝…ランチ?の邪魔をしてしまって」

そう言いながら、おずおずと前に出る。

草陰から小動物のように現れる自分が情けない。


「…いや。毎日ここに来てるけど。もしかして、この場所に何か用でもあったのか?…邪魔してたんだったら、申し訳なかった」

そう言われて、泣きそうになった。

推し、優しすぎる。

こういう優しい人なんだよね。

自分が恐れられている立場なのに、先にこちらを気遣うなんて。


ジークハルトは、王家と同等の位にあたる、公爵家の人だ。

子爵令嬢である私に、頭なんか下げる必要がない。

それでも自然に気遣えるその姿に、胸がいっぱいになった。

「いえっ!違うんです!ジークハルト様が、気持ちよさそうに寝ていらしたので…」

私はぶんぶんと首を横に振りながら、必死に否定する。

慌ててしまって、思わず本当のことを言ってしまった。

しまった、何を口走っているんだ私は、と顔が熱くなる。


「寝てたの、知ってたんだ。日当たりがいいんだよ、ここ」

そう言って、ジークハルトが頭を掻いた。

少し照れたように視線をそらしながら、無造作に前髪を撫でるような仕草が自然すぎて、胸に矢が刺さる。

知ってる。

お気に入りの場所なんだよね。

ちょっと、寝ぐせついてて可愛い。

ふわりと跳ねた髪先が、普段の鋭い印象を和らげていて破壊力抜群だった。


「君は、俺が怖くないの?席、代わってほしいって言ったとき。後で考えたら、俺が怖くて、隣が嫌だったのかなって思って。余計な事したかなって思ってたんだけど」

低く穏やかな声でそう言いながら、ジークハルトは少しだけ眉尻を下げる。

その表情には、本気で相手を気遣っている優しさが滲んでいた。

そうして「ごめんね」と言われた。

子犬ですか?

あなたは、うるるん瞳のチワワか何かで?

鋭い容姿とのギャップが凄まじすぎる。

きゅん死する…


「そんな!そんなことありません!ジークハルト様の隣の席なんて、光栄すぎてっ!毎日、幸せすぎてっ!ノートの文字が綺麗なのも見えてしまうのも感動でっ!!」

勢いのまま、私は両手をぶんぶん振りながら熱弁してしまう。

心の奥底に溜め込んでいた推しへの愛が、滝のようにあふれ出した。

そこまで言って、自分がおかしなことを言ってるのに気がつく。

はっと口を押さえ、硬直する。

ジークハルトも困惑しているようだ。

そりゃそうだ。隣の席の令嬢が急にノートの字まで褒めだしたら怖い。


「ち、違うんですっ!じっと見ているわけじゃなくて…じっと見てるんですけど。それは、つまり…ファンで!ジークハルト様の、大ファンで!!」

しどろもどろになりながらも、なんとか無害であることを伝えようと必死になる。

推しという言葉がこの世界にはないから、伝わる言葉に変換してみた。

「ふぁ…ファン?俺の…?」

ジークハルトが首を傾げて、くすっと笑った。


その瞬間、春風みたいな柔らかい笑みがこぼれる。

破壊力が半端ない。

心臓が限界突破した。

「可愛い…」

思わず、心の声が漏れる。

しまった。完全に漏れた。

「あはは!この極悪人のジークに可愛いなんて言うの、君くらいだよ」

ジークハルトが楽しそうに笑っている。


どうしよう。

泣きそうなくらい、幸せ。

推しが笑ってる。

しかも私との会話で。

生きててよかった、と心の底から思った。

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