21 アルフレッドの大きな傷
子爵令嬢 ニーナ・ヴァロワ
皇太子 アルフレッド・クロムウェル
公爵 ジークハルト・ベルシュタイン
「それに君、ジークが悪く言われた時、本気で怒ってくれたでしょ。だから、君にだったら、ジークを任せてもいいかなって思ったんだ」
アルフレッドはひとしきり笑うと、そう言った。
「ジークはね。僕をかばって顔に大きな傷が残った。極悪人とか言われて、ヒドイ扱いも受けただろうに、僕に恨み言のひとつも言わないんだ。…僕の近くにいると、僕が気にするだろうからって気まで遣って」
アルフレッドはひとりで話している。
もしかしたら、誰かに話したかったのかもしれない。
ゲームをプレイしていたし、設定資料を読み込んでるから、だいたい知ってるけど。
ぐっと我慢して聞くことにした。
「だから、君が、僕とジークを仲良くさせようとしてくれたの、本当はすごく嬉しかった。ありがとう」
キラキラ皇太子がそう言って、また、キラキラした。
なんだ、いい奴じゃん。
「仲良く、なれたんですか?」
「どうかな?これからも君がちょっかい出させてくれたら、仲良くなれるかもね」
アルフレッドがそう言って、思いついたように「よかったら、ジークじゃなくて、僕と付き合ってみる?」と冗談を言った。
本当に、心にもないこと言う皇太子だなと思った。
「…はい、はい。冗談は」
そこまで言うと、誰かが私の前に立ちはだかった。
「ジ、ジークハルト様っ?ど、どうされました?」
後ろ姿ですぐにわかる。
これぞ、推しへの愛だ。
「アルフレッド殿下!」
私の問いに答えるのではなく、アルフレッドに話しかけるんかい、と思いながら後ろから2人を見た。
「なに?ジーク」
アルフレッドが…ニヤニヤしている?
「アルフレッド殿下に、まだ、申し上げていなかったのですが!そのっ!ニーナ嬢と、お、お、お付き合いをさせていただくことになりましてっ!」
ジークハルトが、そう大きな声で言った。
「ジークハルト様…サロンです、ここ…みんなの憩いの場です…」
私がそう後ろから小さい声で訴えたのだけど、聞こえていないのか話を続ける。
「ですからっ!殿下であろうとも、ニーナ嬢を口説くのは、やめていただきたいっ!」
ジークハルトがそう言って、耳まで真っ赤にしている。
私の推し、可愛すぎないか。
「そうか、そうか。ジークはニーナ嬢とお付き合いをしているんだ。へえ…知らなかったなぁ」
アルフレッドがニヤニヤしたまま、私を見た。
知ってたよね、知ってましたよね。
どうしてジークハルトみたいな清い心の人と、アルフレッドみたいな腹黒がセットなのか。
正反対の2人だから、セットなのかな…
「そういうことなら仕方がない。ニーナ嬢のことは、きれいさっぱり、諦めるよ、ジーク!」
アルフレッドがそう言って顔を覆った。
泣いてないじゃん。
むしろ、肩を震わせて笑ってるのバレバレなんだけど?
「あ、ありがとうございます!…その、すみません」
ジークハルトがアルフレッドに頭を下げている。
ジークハルトが本当に申し訳なさそうな顔しちゃってるじゃん。
「アルフレッド様。いい加減にしないと、殴りますよ」
私がそう言うと、アルフレッドが顔を上げて「ごめん」と言って舌を出した。
「でも、君。それ、立派な不敬罪だからね」
「残念でした。ここ、学園内なんで。不敬罪は成立しません~」
私がそう言うと、アルフレッドは大きな声で笑った。
「本当に君、面白いね。ジークも大変だな。こんな人が恋人では」
そう言ってアルフレッドがジークハルトを見ると、ジークハルトは頭を掻く。
…また、傷を隠そうとしている。
「ジークハルト様は、お顔が見えたほうが、かっこいいと思いませんか?」
そうアルフレッドに尋ねてみた。
「…うん。そうだね。ジークは、かっこいいんだから、顔はしっかりと見えたほうがいいよ」
アルフレッドがそう言って、困ったように笑った。




