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モブ令嬢に転生したので推し活していたら極悪令嬢に昇格しちゃいました  作者: 西園寺百合子


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21 ジークハルトの大きな声

子爵令嬢 ニーナ・ヴァロワ

皇太子  アルフレッド・クロムウェル

公爵   ジークハルト・ベルシュタイン

田舎に手紙を書く。

机の上で便箋を広げ、震える指でペンを握った。

学園を辞めたい、帰りたいと綴って送った。


悪役令嬢が最後、どんな風に退場したのか覚えていないけど。

本の中のページを必死にめくるように記憶を探るが、靄がかかったままだった。

ざまぁされて、退場するんだろう。

どうしても思い出せないけど、その光景はありありと浮かんだ。

本来は卒業式のときにするんだろうけど。

少し早めに、ざまぁされて、退場しよう。

その方が、きっと誰にとっても都合がいい。


しばらく様子を見れていないけど、アリアナは誰ルートに入ったんだろう?

ジークハルトのルートに入ってくれているのが1番いいのだけれど。

明日、様子を見て、因縁をつけて、サクっとざまぁされようと覚悟を決めた。


翌日、教室に向かう。

廊下を歩いているだけで、悪意のある視線とひそひそと話す声で押しつぶされそうになる。

今日だけだからと、なんとか足を教室へ向かわせた。

ところが、階段で突然、小突かれた。

肩にぶつかる衝撃に、足元がふらついて、カバンが手から離れていく。

そのカバンを拾った誰かが、窓から外へ投げた。

自分の体が床に落ちる鈍い音が、やけに大きく響いた。

これだけ派手にイジメられるとは思わなかった。


当然、誰も助けてくれるはずもなく。

仕方なく、体を引きづるようにしてカバンを取りに行く。

なんとか教室にたどり着いて、アリアナを見る。

視線を上げると、真正面から刺すような目が返ってくる。

なんか、睨まれてる…

ヒロインの顔が崩れてますよ、アリアナさん。

心の中でだけ、そう呟く。


教室の中をぐるりと見渡すと、主要人物たちが揃っているのがわかる。

心臓の鼓動だけが、やけにうるさい。

アリアナがどのルートにいるのかわからないけど、とりあえず、因縁をつけてみよう。

そう思っていたら、アリアナのほうからやってきた。

靴音がまっすぐこちらへ向かってくる。

「どういうつもり?よく、教室に顔を出せたわね」

鋭い声が飛んでくる。

そう言われて戸惑う。


「…授業を受けられるのは生徒の権利ですから」

そう言って胸を張る。

悪役令嬢、じゃなくて、極悪令嬢なのだし、ちょっと頑張ろうと思った。

「まあ!権利!?この極悪人が、よく、権利なんて主張できるわね!」

アリアナがそう言って、私の肩を押した。

ぐっと押されて、体が前後に揺れる。

暴力はダメだよ、アリアナ。


そう思ったけど、極悪令嬢として私も何かを言い返さなければ。

何か、極悪令嬢らしいことを…

「け…権利ですから!」

かっこいいことが言いたかったけど、何も思いつかなかった。

声だけがやけに響いて、余計に空回りする。


「ニーナさん、あなた、子爵令嬢のくせに、公爵家のジークハルト様に色仕掛けで迫ったらしいじゃありませんか。ジークハルト様は大変ご立腹で、その場を足早に立ち去られたと、多くの生徒が目撃しているんですよ!」

アリアナにそう言われて、顔を赤らめる。

あの場面を、多くの人に見られていたとは恥ずかしい。

なんか、色々と違うけど訂正するのもだし。

まあ、細かいところはいいか、と思うことにした。

ざまぁをされに来たのだから。


「あの日のことを…」

極悪令嬢っぽく「見られていたとは思いませんでしたわ」と言うつもりだったのだが。

優雅に言い切るはずだった台詞が、言葉になる前に消えていってしまった。

突然、あの日のことを思い出して、切なくなってしまった。

ジークハルトのことを吹っ切るのは、もう少し時間がかかりそうだなと思った。


「それは違う」

そう言って、ジークハルトが立ちあがった。

椅子がわずかに軋む音が教室に響き、空気が一瞬で張り詰める。

違うけど、違わなくていいのよ。

せっかく、みんながいい感じで誤解してくれてるんだから、そのままでいい。

「ち、違いません!その通りです。ごめんなさい」

そう言って、頭を下げる。


ジークハルトが何かを言う前に、謝ってしまうことにした。

…間違えた。

心の中で即座に後悔する。

「じゃなくて!それが、どうしたというんですか!と、言いたかったんです!!」

拳を握りしめて言い直す。

声が少し裏返りながらも、なんとか顔を上げる。

ぽかんと見ていたアリアナが、はっと我に返ったようだ。


「問題はジークハルト様のことだけではありません。ニーナさんは、私やクラスの女子生徒の教科書やらノートやらを破って捨てたんです!」

アリアナがそう言って目に涙をためている。

両手を胸の前で握りしめ、いかにも被害者らしい仕草をしている。

そういうことになってるよね、噂では。

刺すような視線が私に注がれた。

うん、うん。

それでいいよ。


「さらに言えば、私は階段から、突き落とされそうになったんです、アルフレッド殿下ぁ」

アリアナがそう言って、アルフレッドにすり寄った。

いつの間にかアルフレッドが近くに来ていたようだ。

アリアナの様子を見て、アルフレッドルートを進んでいるらしいことがわかる。

ただ、ちょっと様子がおかしい。


キラキラ皇太子は、誰にでもキラキラしてるんだけど。

今日はやけに、アリアナから距離をとっているようにみえる。

アリアナが近づくと、アルフレッドがはなれる。

まるで磁石のN極とN極。


「ちょっといいだろうか?」

ジークハルトが、少し大きい声を出した。

あまり声を出さないジークハルトが大きな声を出すから、みんな、しんとしてしまった。

教室の空気が一瞬止まる。

みんなの視線がジークハルトに集まって、誰も動こうとしない。

そういえば…授業はいつ始まるんだろう。


そう思って入口をみたら、入口で先生が固まっていた。

扉のところで完全に動きを止め、どう入ろうか迷っているように見えた。

入れなくなってたか…ごめんね。

心の中でそっと謝る。

いつも静かなジークハルトが大きな声を出したから、先生もビックリしたんだろう。

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