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モブ令嬢に転生したので推し活していたら極悪令嬢に昇格しちゃいました  作者: 西園寺百合子


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12/50

12 面倒な皇太子とランチボックス

子爵令嬢/生徒C ニーナ・ヴァロワ

皇太子 /攻略対象 アルフレッド・クロムウェル

公爵  /攻略対象 ジークハルト・ベルシュタイン

伯爵  /攻略対象 リュカ・モンパルナス

伯爵  /攻略対象 オスカー・ウィリアムズ

伯爵令嬢/悪役令嬢 クロエ・ラングレー

男爵令嬢/ヒロイン アリアナ・ロゼ

ゲームを思い出す。

アリアナと恋を育むジークハルトは、とても幸せそうだった。

優しく笑い、心から満たされた表情をしていた。

スチル画でしか見てないけど、だ。

それでも、その幸せは本物に見えた。


だからこそ。

彼から幸せの可能性そのものを奪うことが、本当に正しいのか。

私は初めて、自分の「推しを守りたい」という願いの難しさに直面することになった。

本当に、ジークハルトはアリアナのことを好きにならなくていいんだろうか?

窓から差し込む柔らかな昼下がりの光をぼんやりと眺めながら、私はその問いの答えで迷っていた。

彼が恋をしなければ、闇落ちは防げるかもしれない。

でも、それが本当に推しの幸せなのだろうか。

恋をする喜びも、心を通わせる幸福も知らないままの未来で、本当に彼は救われるのだろうか。


「ジークハルト様の幸せって、なんだろう…」

休憩時間にサロンでお茶をしながら考える。

優雅なティーカップから立ちのぼる紅茶の香りも、可愛らしく盛りつけられた焼き菓子も、今日はどこか味気なく感じた。

周囲では令嬢たちが楽しげに笑い合い、煌びやかな学園生活そのもののような空気が流れているのに、私だけが1人、推しの未来について深刻に悩んでいる。


「そんなに、ジークに幸せになってほしいの?」

不意に背後から声が降ってきて、私は肩を揺らして振り返る。

そこには、相変わらず無駄にキラキラした皇太子、アルフレッドが立っていた。

陽光を背にして立つその姿は、まるで乙女ゲームのキャラクター設定の画面そのもの。

面倒だけど立ち上がって「これは、皇太子殿下」と挨拶をした。

礼儀は大事。

推しの平穏のためにも、余計な火種は避けたい。


「あはは。君くらいだよ。僕が声をかけて、そんなに嫌そうな顔をするのは」

そう言われた。

アルフレッドは楽しそうに目を細めている。

いや、こっちは本当に面倒なんですが。

「嫌なのではなく、立つのが面倒だなと思っただけですわ…あ、すみません。本音が」

そう言って口元を隠す。

しまった。

また本音が漏れた。


でも学園内だし、これくらいなら許されるだろう。

たぶん。

「あははっ!君、面白いね」

アルフレッドは声を出して笑ってる。

爽やかイケメンの笑い声。

そのせいで、近くにいた令嬢たちの視線が一斉にこちらへ向く。

声を出すから、他の女子が集まってくるじゃん。

面倒…

嫉妬とか誤解とか、そういうフラグは全力で避けたい。


「それでは私はこれで」

そう言って席を立つ。

逃げるが勝ち。

すると「え?せっかくだし、ランチ、一緒に食べようよ」と軽やかに言われた。

軽い。

誘い方が軽い。

皇太子のくせに距離感の取り方が…軽い。


「申し訳ありませんが、先約がございまして」

そう言って、きっちり礼をする。

今日は、ジークハルトにランチボックスを買っていく。

食堂のごはんが食べてみたかったなんて、可愛い。

その願いを叶えるのは、ファンとして当然の使命である。

「先約?大切な用、ではなく?」

「先約です」

「誰と?」

「殿下にお伝えする義務はありませんので」

ぴしゃりと言い切る。

我ながらアルフレッドへの態度は悪いと思う。


でもこれ以上、推しとの時間を邪魔されたくない。

面倒だ。

そう思っていると、またアルフレッドは笑った。

「僕にそこまで言えるの、君くらいだよ」

そう言われた。

キラキラ皇太子、うざい。

なぜそんなに楽しそうなんだ。

「では」とその場を立ち去ろうとすると、アルフレッドがついてきた。

足音まで軽やか。

しつこい。


「あの…本当に、先約がありますので」

「うん。僕もたまたま、こっちに行くんだよ」

絶対嘘だろ。

そう思いながらも、結局食堂までついてきて、結局中庭までついてきた。

うざい…

推し観察タイムに乱入しないでほしい。

「あ…アルフレッド殿下も一緒でしたか」

中庭で待っていたジークハルトが、少し困ったような顔をした。

その表情に、胸がちくりと痛む。

こんな顔をさせたいわけじゃなかったのに。


「す、すみません。殿下が、ついてきちゃって…あ、でも、タマゴサンドのランチボックス、買えたんです」

そう言って、急いでジークハルトにランチボックスを差し出す。

推し優先。

何よりも優先。

「あ…ありがとう」

少し照れたように受け取ってくれるジークハルト。

尊い。

やはり世界は推しで回っている。


「そうか。ここでランチボックスを食べる約束をしてたんだ。じゃあ、僕もご一緒させてよ」

キラキラ皇太子がそう言った。

さらっと。

当然のように。

この国のどこに、皇太子の申し出を断れる人がいるだろう。

私一人なら、断る。

全力で断る。

だが今は、公爵家のジークハルトがいる。

私の我儘で、ベルシュタイン家にご迷惑はかけられない。

そんなわけで、3人でのランチタイムが始まった。

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