焚火サナトリウム
その晩遅くから、とりあえずMIROC西日本の連中が大挙して船で押しかけ、まだ鼻血の止まらないケンザキと、その他五人を回収して歩いた。文字通り、回収という感じだった。
山の中腹に積んであったオリも、全て回収してもらった。もちろん、空のオリも。
西日本の連中は、タイベックスに身を包み、マスクまでしっかりと装備していた。
ローズマリーにはたっぷりと抗生剤が投与された。熱はあるが、例のウィルスではなさそうだった。
ちょうど気づいたローズマリーに傷を縫合しよう、すぐ病院に運ぶ、と西日本のミズホ・リーダーはそう言ってくれたが、彼は急にけろりとした顔になり
「もう一晩、キャンプしてから帰る」と言いだした。
ミズホ・リーダーはローズマリーの西日本時代の同僚だという話だった。
ローズマリーの言いだす事には慣れているらしく、特に反論もせず
「博士はどうする?」
脇のストレッチャーにそのまま寝ている博士をちらっと見てローズマリーに聞いた。
「リーダー、どうする?」
ローズマリーが聞いてきたので、サンライズはもらったマスクを少しずらして
「感染者を隔離するには、この島が一番かもなあ……少しここにいるか」
山口の総合病院に隔離されていた船長と息子はすでに、熱が下がったということだった。
心配されたような他への感染もなく、まだ手足に少し痕が残ってはいるものの、特に後遺症も認められないとのことで明日には退院が許可されるという。
結局、博士、サンライズ、マヤラの三人が完全に解熱してから四十八時間後に島を離れる、ローズマリーも少し様子見、という話に決まり、西日本の連中は正直安心したように去って行った。
彼らがそそくさと帰って行き、あたりがようやく静かになった。
たき火の元に、戦い終わりし者たちは集った。
とはいえ、サンライズもマヤラもまだ少し熱が残っているし、ローズマリーは足を引きずっている。
テントの中では、点滴をつけた博士がぐっすりと眠っていた。
「とんだサナトリウムだな」
ローズマリーが小枝をくべると、オレンジ色の炎がちらりと燃え上がった。
「まったくだ」
サンライズも脇に積まれた新たな食糧の箱を見ながら、うなずいていた。
「カップめんばっかりだなあ、西日本のヤツらの趣味なのか?」
「うどんが多いだろ? ミズホは香川出身でうどん大好きなんだ」
「金ちゃんうどん? 聞いたことねえ」
「モグリだなあ、サンちゃんは」ローズマリーとマヤラは顔を見合わせて笑っている。
「うまいんだぞ、徳島製粉の金ちゃんヌードル」「うどんもね」
「口の中が痛いんだよ、もっと刺激のないゼリーとかないの?」
サンライズが言ったところで、テントの中からよろめきながら、博士が出て来た。
「博士」あわててマヤラが立ち上がる。
「どこ行く?」
「トイレ」点滴バッグを自分で肩のあたりまで持ち上げ、足を引きずりながら草むらの方に入っていった。
「だいぶ、いいみたいだなあ」ほっとしたように、ローズマリーが見送った。
少ししてから戻ってきた博士は、テントの入り口でぐずぐずしていたが、ふり向いて
「あの」三人を見比べている。誰に話したらよいのか考えあぐねていたが、一番話しやすそうだと思ったのか、サンライズに向かって切りだした。
「ボクも、そこに座ってていいかな?」
サンライズは目だけで「どうぞどうぞ」と招き、横に一つ、椅子を置いた。
博士は安心したように座って、少し椅子を前にやったり後ろにやったり、ようやく腰をおちつけた。サンライズは脇の柱に点滴のバッグをひっかけてやった。
「コーヒー飲みます?」ローズマリーが片手鍋とブリキのカップを差し出すと、ありがたそうに受け取り、そっとすすった。「うまい、ですね」
「でしょ?」にんまりとローズマリーが笑った。
「少しゴミっぽいけど、前歯で漉して飲んでくださいね」
しばらくは、静かな時が流れた。
やがてぽつりと、博士がつぶやいた。
「たくさん、ご迷惑おかけしてすみません」
少し黙っていたサンライズが、彼の方を見て訊ねた。
「また、全部聞かせてもらいたいね、今でなくてもいいけど。一部始終」
「そうだよね……」博士は覚悟をきめたように顔をあげた。
夜空には、ややおぼろに霞んだ大気に光をにじませて星がいくつもまたたいている。
「話すなら、今が一番いいんだろうな」彼は語り出した。




