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スカボロー・フェアで逢いましょう 弥勒の決死圏 #15  作者: 柿ノ木コジロー
野郎ども、死地をくぐり抜けんとす
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 ケンザキvs ロージィ

 ケンザキは、水を滴らせて浜辺に上がってきたローズマリーを冷ややかに見守っていた。

 同時に、ボートから飛び込んだシャンピオンのことも目の端で追いかけていた。船に戻ったのか、アイツ。全然指示に従わない。ワクチンのことについても自分に逆らって、GH‐65という株の方が作業が早いから、と勝手に仕切っていた。本当に有効かどうかは実際にアイツらの様子をみているしかない。この、目の前の男が持っている物が効けば、それに元株さえ手に入れば怖いものはもう何もない。

 後は裏切り者も嘘つきも正直者もまとめて始末するだけだ。

 今までは、CDCだのWHOだのにいちいち指図されてひどい目にあっていたが、ようやくオレの天下がやってくる……ケンザキの頬が醜く歪む。

 すべてのウィルス制御をこの手に収め、人類にとって神とあがめられるまでになってやる。こんな場末なウィルスでも、まずは重要な第一歩だ。

 最初にCDCの極東オフィスにいて、ドクターコウダの研究について知った時には、つまらない話だと思っていた。しかし、コウダがEV71に変種を見つけたらしい、致死率や感染力は生物兵器並みと予想される、という調査員の報告を聞いた時、すぐにその調査員の口を封じ、身内だけを集めて極秘で追跡を始めた。

 自分の組織すら出しぬいてやったのだ。

「ワクチンをまずいただこうか」


「言っただろう? 取引だ」

 ローズマリーの答えを聞いて、ケンザキはさもおかしそうに笑ってみせた。

「この期に及んで、まだ売れると思ってるんだな。他に切り札もないのに」

 ローズマリー、自分の頭を指した。

「撃ち殺したらこの中の情報はあげられなくなるなあ」

「この島ならば、二日も捜索すれば全て見つけられるさ」

 まずワクチンを取り上げ、それからゆっくり捜索するのか。それはさせられない。

「ワクチンは、偽物だ」

 元々、面倒臭いことが嫌いなローズマリー、試験管を放り出した。

 小石に当たり、ガラスが割れて中身がこぼれて元の浜に吸い込まれていった。

「では撃ってくれ」ローズマリーは両手を挙げる。

「二日、いや三日かけて山の中をはいずり回るがいいさ。そのうち感染するだろうから、オマエらも。潜伏期間は二十四時間以内だ」

 ケンザキは親指であごをかいた。それから通信機を取り上げる。

「オクダ、船を移動させる準備だ、もうすぐここから移動する」

 船に残ったヤツに連絡したようだ。ローズマリーは背中越しに祈る。サンちゃん、頼む。

「キミは痛いのには弱いか?」急にケンザキが聞いた。

「かなり弱いね」そう答えると、ケンザキは隣の男につぶやくように言った。

「アンドレ、左の脛」

 男が発砲した。瞬間避けたが、間に合わない。足首のすぐ上に一発入った。



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