そしてもう一人
ローズマリーからまとめて連絡を受けたのは、日没後30分くらい経ってからだった。
こちらの状況と、博士から聞いた話をざっと伝える。
ローズマリーからはまず、日没前にボートを南の入江に先に運んでおいた、とのこと。
「ここの潮は複雑でね」ローズマリーの声は落ち着いていた。
「よく見ていると、一日に二回くらい、南の入江から島を巻くように東へ潮が流れることがある。その時にボートを出せばエンジン無しでも楽に洞窟まで着ける」
「オマエ、詳しいな」
「遊び場だったからね、この辺は」
もしかしたら南東の洞窟も知っているのか聞いたら、
「一度だけ行けた。一度は行き損ねて遭難しそうになった」と。
それでも陸続きで渡るのは考えたこともなかったと言う。
「オマエじゃあ溺れるだろうから、さっきは言わなかったけどな」
だからガケにへばりついてナメクジのマネしているんだ、アホ。と悪態をつく。
ローズマリーにかなり無理をさせている。本来ならば施設や機具の移動はマヤラ担当、ローズマリーはベースに残って連絡統括と他二人の生活管理が担当のはずだったが、今ではあちこち動き回りながら、外部との連絡も取らなければならない。
「他には何か?」口調はあくまでも冷静に保たなければ。
「博士のラボから資料押収。オマエが聞いた話と大筋で一致している」
「ならば分かるよな? 絶対ボートで迎えに来るなよ」
「オレを何様だと思ってんだ? 危ない橋は渡らねえ、安全第一のオトコだ」
偉そうに言っている顔が浮かび、サンライズは短く笑った。
「じゃあまたな、ネズミが出たら直接触るなよ、マヤラにも伝えてよ」
「ネズミじゃねえ。モルモットだろ? 分かったよ。オーバー」
通信が切れた途端、急に寒気が襲ってきた。マヤラの声で「ヤッバいよ」と聴こえてくる。
サンライズは洞窟の入り口、岩のへりに腰を落ち着ける。海に落ちないように体を低くして、くぼみに半分体をうずめた。奥で寝ている博士の足もとだけがぼんやりと見えた。
少しして、ようやく自分でも認める気になった。畜生、仕事中にまたコレだよ、前回は任務大失敗だったよな。身を起こして博士を呼んでみる。
「コウダ博士、」
何度目かの時にようやく「はい」だみ声の返事。
「オレも熱が出て来た」そう告げると
「じゃあ、離れる必要もないんじゃない? そっち寒いでしょう」と言ってくれた。
しかし奥だと通信機が使えない。仕方なく風を避けるように、ますます身を縮める。
意味はないとは思ったが抗生剤を飲んで、自分も4か所に冷却シートを貼る。一番効果的に熱を冷ます効果があると言われているが、貼った瞬間あまりの冷たさに悲鳴を上げそうになった。
星がまたたいていた。歯がガチガチと鳴る中、サンライズは眠らないように星の名前を一つずつ思いだしていた。マヤラも星を見ながら、一人で熱とたたかっているのだろうか?




