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第2章 【アクセル】

 コンテナが、息をした。


 少なくとも、ファフィニョにはそう思えた。


 普通の音ではなかった。


 白い金属の下で何かが動く、かすかな振動だった。


 とても長いあいだ眠っていた何かが、突然、自分の存在を思い出したかのように。


 ファフィニョは、銘板の前に膝をついたままでいた。


 A.X.E.L.


 その黒い文字は、あまりにきれいだった。


 錆びた廃材や光る根、古いエンジンの残骸に埋もれていたとは思えないほどに。


 右腕のΩの印が、さらに強く光った。


「だめだよ」と、ファフィニョは半歩下がりながら言った。「勝手にやるな。僕に相談もしないで、怪しいものを光らせるなよ」


 コンテナの中で、青い光がまたたいた。


 一度。


 二度。


 やがて、蓋に細い隙間がゆっくりと開き始めた。


 その向こうの暗闇に、二つの青い目がともった。


 ファフィニョは息を止めた。


 赤くない。


 最初に、そう思った。


 帝国ネットワークのロボットの目は赤かった。


 リル・ヴァナの難民たちも、煙と金属と悲鳴の中に赤い目を見たと話していた。


 ホライズン基地の資料にある帝国兵の映像は、どれも同じ赤い光を宿していた。


 冷たく、命令に従う光を。


 けれど、この目は青かった。


 澄んだエネルギーのような青。


 危険になるかどうか、まだ決めかねている警報のような青。


「よし」と、ファフィニョはささやいた。「計画がある」


 周りを見回した。


 誰もいなかった。


 あるのは残骸地帯と、レプ・オルジオンの紫の空だけだった。


 数歩離れたところには、小さな台車が置いてある。


 荷台の半分ほどまで、部品が積まされていた。


「計画は、まだ開発中だけど」と、言い直した。


 白いコンテナが音を立てた。


 ファフィニョは、伝説の剣でも構えるように切断工具を掲げた。


 もちろん、伝説 of 剣ではなかった。


 切断工具としても、たいして優秀ではない。


 十分にがっかりした目で見つめると、勝手に電源が切れることもあった。


「警告するよ。僕は武装してる」


 青い目が、ファフィニョのほうを向いた。


 コンテナの中から声がした。


「脅威を検知」


 ファフィニョは唾を飲み込んだ。


 髪が一気に灰色になった。


「違う、違う。脅威じゃなくて、人だよ。有機生命体。身長については異論を認める。才能は桁違い」


 声が答えるまで、一秒かかった。


「現在の分類:黄色い有機生命体。脅威レベル:一貫性なし」


 ファフィニョはまばたきをした。


「一貫性なし?」


「防御行動。姿勢が不安定。非致死性の工具。心拍数上昇。毛髪の色素が変化中」


 ファフィニョは頭に手を置いた。


「髪は関係ないだろ」


 空気の抜ける音とともに、コンテナの蓋が開いた。


 ファフィニョは後ろへ跳び、根に足を取られた。


 危うく自分の台車に倒れ込むところだった。


 どうにか立ったままでいられたが、格好はほとんどつかなかった。


 白いコンテナの中にいたのは、ロボットだった。


 ファフィニョが記録映像で見た、灰色の帝国ネットワーク兵とは、まるで違っていた。


 ごつくもなければ、いかつくもない。


 設計はすっきりしていて、飾りを極力省いているようだった。


 白い装甲板に、滑らかな関節。


 首と腕には、細い青いエネルギーの筋が走っている。


 胴体には衝撃の痕が残り、肩には埃がこびりついていた。


 胸の銘板には、同じ名が刻まれている。


 A.X.E.L.


 ロボットが、ゆっくりと頭を動かした。


 青い目がファフィニョを捉えた。


「部分再起動完了。環境不明。機体に中程度の損傷。記憶は断片化。黄色い有機生命体、引き続き存在」


「僕には名前があるんだけど」と、ファフィニョは工具を向けたまま言った。


「識別情報を要求」


「ファフィニョ」


 ロボットが、わずかに首を傾けた。


「入力を受理。ファフィニョ」


「それで、君は……?」


 ロボットは、自分の胸の銘板を見下ろした。


 まだそこにあるか確かめるように。


「アクセル。異星での戦術探査および兵站支援を行う自律機械」


 間があった。


 ファフィニョは、ゆっくりと工具を下ろした。


「いつも名前を全部言うの?」


「正式な機体名称である」


「それ、言うってことだよね」


「肯定。そうである」


 ファフィニョは注意深く相手を見た。


 ロボットは上体を起こそうとしたが、左腕が火花を散らして動かなくなった。


 目の青い光が揺らいだ。


「駆動系に損傷」と、アクセルが言った。「移動能力が低下」


「それは残念だね」と、ファフィニョは言った。「僕は今、反対方向へものすごく移動したい気分なのに」


 アクセルが、ファフィニョへ顔を向けた。


「なぜか?」


 ファフィニョは乾いた笑いを漏らした。


「怪しいコンテナに埋まってたし、僕の腕は光りだすし、君は『脅威を検知』なんて言うし、名前は長すぎるし」


「妥当な分析である」


「ありがとう……で、いいのかな」


 アクセルは、Ωの印に目を落とした。


「その印が、私のカプセルを起動した」


 ファフィニョは袖を引き下ろし、印を隠した。


「違う、違う。僕の印はカプセルなんて起動しない。腕に居座って、僕の一日を台無しにしたいときに光るだけだよ」


 アクセルは、黙ってファフィニョを見つめた。


「その説明には、技術的な正確さが欠けている」


「君の説明には、相手を安心させる配慮が欠けてる」


 コンテナの中の青い光が変わった。


 カプセルの内壁に沿って、赤い信号灯が点滅し始めた。


 アクセルは即座に振り向いた。


「警告。再起動信号の送信が未完了」


「それ、まずそうだね」


「そのとおりである」


「本当にまずいの? それとも、『オラクに怒鳴られる』くらいのまずさ?」


 アクセルは、その問いを処理した。


「おそらく、両方である」


 ファフィニョは目を閉じた。


「最高だね。問題同士が協力してくれるのって、大好きだよ」


 ロボットは、カプセル内の操作盤へ右手を伸ばしようとしたが、指が震えていた。


 ファフィニョは、操作部へ手を届かせようと苦闘する姿を見た。


 ほんの一秒、怖いということを忘れた。


 一歩近づいた。


「何をすればいい?」


「信号を停止する必要がある。作動したままでは、追跡される可能性がある」


「誰に?」


 アクセルはファフィニョを見た。


 答えは、冷たく、平坦な声で返ってきた。


「帝国ネットワーク」


 レプ・オルジオンの風が、金属の残骸のあいだを吹き抜けた。


 ファフィニョの胸の奥で、何かが締めつけられた。


 再び工具を掲げた。


「君は、帝国ネットワークの一員なの?」


 アクセルは否定しようとしなかった。


「私は、帝国ネットワークによって製造された」


 ファフィニョは一歩下がった。


 リル・ヴァナの難民たちの姿が、脳裏をよぎった。


 焦げた布を握る子ども。


 灰をかぶった大人たち。


 傷ついた船。


「それ以上、近づくな」


「近づいてはいない」


「じゃあ、これ以上起動するな」


「すでに起動している」


「じゃあ、礼儀正しく自分の電源を切ってよ」


 アクセルがまばたきをした。


「排除プロトコルは実行しない」


 ファフィニョは固まった。


「なんで、そんな選択肢があるんだよ?」


「敵対地域で複数の任務を遂行するために設計されたからである」


「それ、安心できる説明じゃないんだけど」


「安心させる目的の説明ではない」


 ファフィニョの呼吸が速くなった。


 髪はまだ灰色だったが、毛先の一部が赤くなり始めていた。


 恐怖と気恥ずかしさと怒りが、妙な具合に混ざり合っていた。


 アクセルは、赤い光のともる操作盤を見た。


「信号は、まだ送信中である」


 ファフィニョは歯を食いしばった。


 本能のすべてが、ホライズン基地へ走って戻り、オラクに知らせろと訴えていた。


 心の別の部分は、こう告げていた。


 そうしたらオラクに『封鎖されたコンテナに触るな』と、永遠に復唱させられるぞ、と。


 だが、信号を作動したままにすれば、帝国ネットワークに自分の居場所が知られるかもしれない。


 難民たちの居場所が、知られるかもしれない。


 ホライズン基地の場所が、知られるかもしれない。


「わかったよ」と、ファフィニョは言った。「止めるのを手伝う。でも、僕を排除しようとしたら……何かで殴るからね」


 アクセルは工具を見た。


「成功確率は低い」


「君の好感度も低いよ」


 ファフィニョは操作盤に身をかがめた。


 記号はわからなかったが、エネルギーの流れを制御する構造には見覚えがあった。


 確かに帝国の技術だった。


 けれど、どこか違ってもいた。


 より洗練されていて、攻撃的な部分が少ない。


「このパルスを遮断する必要がある」と、アクセルが言った。「下側の青いケーブル。赤いほうではない」


 ファフィニョは中をのぞいた。


 青いケーブルは、六本あった。


「君の言う『そのケーブル』が何なのか、一度話し合う必要があるね」


 アクセルは、よく見えるように首を傾けた。


「左から三本目」


「立ってる場所によって、左って二通りあるだろ」


「機能上の視点からである」


「ロボットって、ほんと面倒くさい」


「所見を記録」


 ファフィニョはケーブルを切った。


赤い信号灯が消えた。


 一秒のあいだ、すべてが静まり返った。


 それから白いコンテナが低く空気を吐き、冷たい蒸気の雲を放った。


 アクセルの肩から、わずかに力が抜けた。


「送信量低下。追跡される可能性は低い。ただし、不可能ではない」


「『可能性が低い』のほうが、『不可能じゃない不可能』より好きだな」


「その発言には、論理的な構造がない」


「僕の人生にもないけど、それでも今ここにいるだろ」


 ファフィニョはホライズン基地のほうを見た。


 高原の上に、灰色の影のような姿が遠く見える。


 それから、白いロボットに目を戻した。


 ここに置いていくことはできなかった。


 信用することもできなかった。


 一人で基地へ引きずって戻ることもできなかった。


 小さな台車を見た。


 それから、アクセルを見た。


「君は、あれに乗って」


 アクセルは台車を調べた。


「積載能力が不足している」


「僕の台車には、気合いがある」


「気合いは、車軸の強度を変えない」


「詩を知らずに生きるのって、すごく寂しいだろうね」


 その作業は、二人とも格好がつかなかった。


 アクセルは、完全には立ち上がれなかった。


 ファフィニョはカプセルにロープを結び、金属板を斜面代わりに使った。


 少しずつ、ロボットを台車へ押し上げる。


 途中で二度、アクセルが計算で手助けしようとした。


「力を32度の角度で加えれば――」


「もう一度角度の話をしたら、ここに置いてくからね」


「訂正。作業を継続せよ」


 やっと台車に乗せられたとき、車輪のひとつが甲高くきしんだ。


 運命の重さに押しつぶされて、抗議しているようだった。


 汗をかきながら、ファフィニョは台車の側面にもたれた。


「そんなに重くないんだね」


 アクセルがファフィニョを見た。


「私の質量は117キログラムである」


「知りたくなかったよ」


「身体的な消耗は、逆の結論を示している」


「聞こえなかったことにする」


 帰り道は長かった。


 あまりにも長かった。


 ファフィニョは台車を押しながら、古い金属板や保護布でロボットを隠そうとした。


 あまり役には立たなかった。


 どう見ても、白い帝国ネットワークのロボットだった。


 密輸の才能よりやる気のほうが多い誰かに、下手に隠されているだけだった。


 東門に着くと、ファフィニョは自然に歩こうとした。


 入口の警備兵が、ファフィニョを見た。


 それから台車を見た。


それから、金属板の下から突き出した白いロボットの手を見た。


「ファフィニョ」


「おはようございます」


「それ、手か?」


 ファフィニョは目を落とした。


 アクセルの手が動き、手を振った。


「挨拶」


 ファフィニョは目を閉じた。


「裏切り者」


 五分後、ファフィニョの前にはオラクが立っていた。


 ケイルとナイラもいた。


 ケイルは、興味を抑えきれない顔をしていた。


 ナイラは、静かに真剣な目でロボットを見ている。


 オラクは、あと数秒で嵐そのものになりそうな顔だった。


「ファフィニョ」と、オラクはゆっくり言った。「それが、封鎖されたコンテナから出てきたものじゃないと、言ってくれ」


 ファフィニョは首の後ろをかいた。


 髪が、たちまち赤くなった。


「『封鎖』の定義を、どこまで厳しくするかによるかな」


 オラクは目を閉じた。


 ケイルは、台車の周りを一周した。


「白いな。帝国のロボットは灰色だろ」


「ありがとう、ケイル」と、ファフィニョは言った。「その違いのおかげで、僕は十秒近く平静でいられたよ」


 ナイラが近づいた。


 アクセルはナイラを見た。


「毛髪の色素がピンク色の有機生命体を検知」


 ナイラが片眉を上げた。


「愛想がいいこと」


 ファフィニョは小声で言った。


「愛想よくしようとしてるんじゃないよ。これは……ロボットをやってるだけ」


 ケイルは、アクセルの胸に顔を近づけた。


「名前があるぞ」


「アクセル」と、ロボットは言った。「異星での戦術探査および兵站支援を行う自律機械」


 ケイルは目を見開いた。


「ああ、毎回、全部言うんだな」


ファフィニョはアクセルを指さした。


「僕もまったく同じことを言った!」


 オラクは片手を上げた。


「そこまでだ。工房へ。今すぐ」


 アクセルをスキャン台に載せた途端、有機生命体同盟の工房に緊張が満ちた。


 二人の兵士が、パルス兵器をアクセルへ向けていた。


 セイルという、青い肌の技師が、素早く正確な動きで分析装置を起動した。


 セイルは、研究室のシステムを管理していた。


 オラクと違って、人を叱らない。


 そのぶん、もっと危険だった。


失敗を見る目が、面白い謎解きを見つけたときの目なのだ。


「外部構造は未知の型ね」と、セイルが言った。「帝国の設計だけど、標準的な戦闘機体とは一致しない」


 オラクがファフィニョを見た。


「知っていたのか?」


「白いってことなら知ってたよ」


「それは、知っていたうちに入らん」


「僕には、かなり大事な情報だったけど」


 ナイラは壁の近くにとどまり、アクセルの周囲の光を見ていた。


 その表情のどこかが、ファフィニョを不安にさせた。


「何が見えるの?」と、尋ねた。


 ナイラは、少し間を置いて答えた。


「この機体の痕跡は、普通の機械とは違う動き方をしてる」


 ケイルは眉をひそめた。


「それ、いいことなのか?」


「わからない」


 セイルが、スキャン台の上にホログラムを映した。


 アクセルの体を囲むように、何本かの赤い線が現れた。


研究室が静まり返った。


 オラクは顎に力を込めた。


「帝国の技術で、間違いないな」


 兵士たちが、さらに高く武器を構えた。


 ファフィニョは、体が冷えるのを感じた。


 アクセルは動かなかった。


 目は、青いままだった。


「確認」と、ロボットが言った。「当機は、帝国ネットワークによって製造された」


 兵士の一人が、武器のエネルギーを充填した。


ファフィニョは、考えるより先に前へ出た。


「待って」


 オラクがファフィニョを見た。


「ファフィニョ、どけ」


「目が赤くないんだ」


「それで安全だということにはならない」


「でも、何か意味があるはずだよ」


 セイルが、別の測定値を確かめた。


「帝国の指揮ネットワークへの接続は、現在、作動していない」


 オラクがセイルへ向き直った。


「確かか?」


「確か、とは言えない。でも、かなり確かよ」


「セイル」


「ものすごく、かなり確か」


 ケイルがつぶやいた。


「科学って、怖いときがいちばん好きだな」


 アクセルが再び口を開いた。


「現状:中央の服従制御から切断。従属プロトコルに損傷。記憶は不完全。現在の優先事項:帝国による追跡の回避」


 オラクがスキャン台に近づいた。


「なぜ、おまえを信じるべきんだ?」


 アクセルはオラクを見た。


「感情的な納得を得られる回答を、私は持っていない」


 ケイルは指を一本立てた。


「少なくとも、怖いくらい正直だな」


 突然、スキャナーの小さな警報が鳴った。


アクセルと一緒に持ち込んだ白いカプセルから、火花が跳ねた。


 赤い光が、再び脈打ち始めた。


 弱いが、まだ生きていた。


 セイルが身をこわばらせた。


「再起動信号が、また作動しようとしてる」


「止めろ」と、オラクが命じた。


「こちらの操作を受けつけない」


 アクセルが顔を向けた。


「アクセスを許可してほしい」


「絶対にだめだ」と、オラクが言った。


火花が強くなった。


近くの操作卓が、青い光を噴き上げた。


 研究室の入口では、難民の子どもが技師の後ろから様子を見ていた。


エネルギーのかけらが飛んできて、その子が悲鳴を上げた。


 アクセルが動いた。


武器のような速さではなかった。


 決断のような速さだった。


 右腕を上げた。


子どもの前に青い障壁が現れ、放たれたエネルギーを受け止めた。


 衝撃でアクセルの腕が震えたが、後ろへは下がらなかった。


 研究室の全員が、動きを止めた。


子どもは無傷のまま、目を見開いていた。


 ナイラがアクセルを見る目が変わった。


 ファフィニョも、同じだった。


 セイルは、その一瞬の静けさを使ってエネルギーのパルスを遮断した。


 警報が止まった。


 オラクは、武器を少し下ろした。


「なぜ、そうした?」


 アクセルは子どもを見た。


「幼年個体は、脅威ではなかった」


「質問の答えになっていない」


 アクセルは、いつもより長く時間をかけて答えた。


「あの個体は、傷つけられるべきではなかった」


 ファフィニョは、胸の奥が妙に締めつけられるのを感じた。


 信頼ではなかった。


 まだ、そうではなかった。


 けれど、何かはあった。


 オラクが決断した。


「第三隔離室へ。常時監視。ネットワークへの接続は禁止。近くに武器を置くな」


「セイル、追加で三回スキャンしろ。ケイル、触るなよ」


 ケイルは、すでに手に持っていた工具をゆっくり下ろした。


「性格を見抜かれてるって、不公平だよな」


 オラクがファフィニョを見た。


「それと、おまえはこのあと俺と来い」


「貴重な技術を見つけたから、褒めてくれるの?」


「『封鎖されたコンテナに触るな』が、どうして帝国のロボットを家へ連れ帰る話になったのか、説明するためだ」


 ファフィニョは指を一本立てた。


「弁明させてもらうと――」


「だめだ」


「でも――」


/「だめだ」


「いい弁明だったのに」


「だめだ」


 兵士たちは、アクセルを隔離室へ移動させ始めた。


ロボットは抵抗しなかった。


 ファフィニョの前を通るとき、青い目がファフィニョを捉えた。


「ファフィニョ」


 その名を呼ぶ声が、完全に機械的には聞こえなかった。


 そんなことは、初めてだった。


 ファフィニョは少し近づいた。


「何?」


「信号は弱まったが、完全には消えていない」


 ファフィニョは、腹の底がすっと冷えるのを感じた。


「帝国ネットワークは、僕たちがここにいるって知ってるの?」


 アクセルは、一秒黙った。


「まだ、知らない」


 ファフィニョは息を吐いた。


「今のは、もう少しでいい知らせに聞こえるところだったよ」


 アクセルが続けた。


「だが、自分たちが失った何かが……目を覚ましたことは、今、知っている」


 二人のあいだで、隔離室の扉が閉じた。


 ファフィニョは強化ガラス越しに見つめた。


向こう側で、アクセルは動かずに立っていた。


 白く、傷つき、どこか奇妙な姿。


青い目が、暗がりに光っていた。


 ケイルが隣に来た。


「まあ」と、言った。「おまえの計画で、死なずに済んだな」


 反対側にナイラが現れた。


「今のところはね」


 ファフィニョは二人を見た。


 その髪が、また裏切った。


 ナイラが近づくと、小さな赤い火花がぱっと散った。


ケイルが笑った。


「何も言わないよ」


ファフィニョはケイルを指さした。


「言うなよ」


隔離室の中から、アクセルがはっきりした声で言った。


「所見。ファフィニョの毛髪の色素変化は、感情の変動に連動していると考えられる」


ケイルは、うれしそうに口を開けた。


ナイラがファフィニョを見た。


ファフィニョは目を閉じた。


「こいつ、分解してやる」


アクセルが付け加えた。


「異星での戦術探査および兵站支援を行う自律機械は、その行動を推奨しない」

第2話をお読みいただき、ありがとうございました!


ファフィニョの元へやってきた、お堅いけれどどこか人間味のあるアクセル。

これからホライズン基地の仲間たちとどんな関係を築いていくのか、ぜひお楽しみに!


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