第1章 【ホライズン基地】
ファフィニョは、はっと目を覚ました。
息が喉につかえた。
目を見開き、シーツを両手で握りしめたまま、勢いよく起き上がる。
まだ避難船の中に閉じ込められているかのように、心臓が胸を激しく打っていた。
数秒のあいだ、自分がどこにいるのかわからなかった。
火はなかった。
悲鳴もなかった。
頭上で裂けていく青空もなかった。
あるのは、ホライズン基地の自分の部屋だけだった。
低い天井には、根が放つやわらかな光が満ちていた。
青みがかった石と再利用した金属パネルでできた壁が、動き始めた基地の振動をかすかに伝えてくる。
丸い窓からは、レプ・オルジオンの朝の光が差し込んでいた。
窓の外では、山々の上に紫の空が広がり始めている。
三つの太陽がゆっくりと姿を現した。
まるで、宇宙は何ひとつ急いでいないかのように。
ファフィニョは深く息を吸った。
一度。
二度。
三度。
それから、右腕に目を落とした。
黄色い皮膚の下で、Ω(オメガ)の印がかすかに光っていた。
「またかよ……」と、つぶやいた。
手で覆えば光が消えるとでもいうように、印を隠した。
消えなかった。
髪も、気持ちを隠してはくれなかった。
普段は緑の毛先が、恐怖で灰色に変わっていた。
ファフィニョは両手で髪をかき上げた。
そのせいで、さっきよりもひどい寝ぐせになった。
「最高だね。朝から髪まで大騒ぎか」
堂々とベッドを降りようとした。
自分で床に放り出した金属部品を踏んだ。
部品が転がった。
ファフィニョはバランスを崩し、両腕を振り回して棚に激突した。
工具が三つ、丸めた設計図が二本、そして充電されていてはまずいパルス球が落ちてきた。
球体が低いうなりを上げ、作動した。
「待って、待って、待っ――」
小さな青い爆発が、ファフィニョを後ろへ吹き飛ばした。
気がつけば、壁にもたれて床に座っていた。
オレンジ色のマントが首に絡まり、調整用のレンチが髪からぶら下がっている。
静寂。
それから、ため息をついた。
「一日が始まったばかりなのに、もう僕を倒す気か」
部屋は寝室というより、片づけという概念に宣戦布告した者の隠れ家だった。
机の上には古い船の部品が積まれ、マグカップには回路が入っている。
ベッドの下には金属板が押し込まれ、床には工具が散乱していた。
壁に貼られた設計図には、走り書きのメモが重なっている。
緑のブーツが部屋の隅に置いてあった。
反対側の隅では、小さな台車が扉のそばで待っている。
古くてへこみだらけで、車輪のひとつがほかよりもずっと大きくきしんだ。
それでも、ファフィニョにとっては完璧だった。
基地の近くの残骸地帯で拾った部品を運ぶのに使っていた。
中央の作業台には、製作中の発明品が並んでいた。
優しく話しかけないと撃てない光線銃。
三秒だけ光って、恥ずかしそうに自分から消えるエネルギーブレード。
そして、設計図では体の半分を守るはずだった携帯シールド。
現実には、片膝だけを守っていた。
ファフィニョはそれを手に取り、厳かな顔で見つめた。
「今日こそ、おまえの真価を見せてもらうぞ」
シールドが火花を吐いた。
「その態度じゃ、話が進まないんだけど」
扉が開いた。
オラクが立っていた。
オラクは、ホライズン基地でファフィニョの監督を任されていた。
ファフィニョに言わせれば、宇宙が忍耐というものを作り、怖い顔をつけた証拠 de もあった。
背が高く、体格もいい。
濃い銅色の肌に、有機生命体同盟の軽装の鎧をまとっている。
腕を組んだオラクは、まさにこの惨事を何年も前から予想していたような顔をしていた。
「爆発か?」と、オラクが尋ねた。
ファフィニョは指を一本立てた。
「正確には、エネルギーの急激な移動だよ」
オラクは壁に残った青い焦げ跡を見た。
「それを小規模な爆発という」
「小さくても、志は大きかった」
オラクは一瞬、目を閉じた。
レプ・オルジオンの空にあるすべての星に、忍耐を分けてくれと頼むように。
「今日は宇宙港に補給物資が届く。荷下ろし場には近づくな」
「ちょうどよかった。僕も近づきたくなかったんだ」
「その下にもだ」
ファフィニョは口を開いた。
それから閉じた。
「そこまで細かく言わなくても」
「おまえを知っているからな」
オラクは部屋に入り、足元のナットを足で脇へ押しやった。
散らかった部屋から、ファフィニョの灰色の毛先へと視線を移す。
顔の険しさが少し和らいだ。
「また悪夢か?」
ファフィニョは携帯シールドを胸に抱えた。
「違うよ」
オラクがじっと見た。
「わかったよ。そうだよ」と、ファフィニョは言った。「でも短かった。無駄がなくてさ。最適化された悪夢だった」
「ファフィニョ」
窓へ目をそらした。
そこからは、ホライズン基地の明かりがひとつずつともるのが見えた。
眺めるのが好きなときもあった。
生き延びたのだと思い出させてくれるから。
まったく同じ理由で、その明かりが嫌になるときもあった。
「僕は大丈夫だよ」と、言った。
オラクはすぐには答えなかった。
やがて机に歩み寄ると、隅に置かれた小さな滑らかな石を手に取り、元の場所へ戻した。
ファフィニョの手元に残った、たったひとつのファフィルのものだった。
光らない。
力もない。
何かを作る材料にもならない。
ただ、自分の世界から来た石だった。
「いつも大丈夫でいる必要はない」と、オラクは言った。
ファフィニョは笑おうとした。
「それって、今日は休んでいいって言う前振り?」
「違う」
「希望を潰すのは、ずいぶん効率がいいね」
「ただし、工房へ行く前に何か食べろ」
ファフィニョは眉を上げた。
「じゃあ、シールドを試していいの?」
「そうは言っていない」
「そう聞こえたけど」
「命令を無視するつもりなら、せめて腹を満たして、大人がそばにいる場所でやれ、と言ったんだ」
ファフィニョは眉をひそめた。
「僕、十七歳だよ」
「だからだ」と、オラクは言った。「指示を理解する年齢にはなったが、従える年齢にはまだ早い」
ファフィニョは反論しようと口を開いた。
まともな言葉は何も出てこなかった。
「的確すぎて、腹が立つな」
オラクは扉へ向かったが、出ていく前に足を止めた。
「それと、ファフィニョ」
「何?」
「またあの夢を見たら……誰かを頼れ。心の中から壊されるまで、一人で抱えるな」
ファフィニョは黙った。
それから、小さくうなずいた。
「わかった」
オラクは出ていった。
ファフィニョは、しばらく動けなかった。
やがて、黒に近い濃い灰色の服を手早く着込み、緑のブーツを履いた。
オレンジ色のマントを整え、小さな台車を扉へ押していく。
台車は、生きているだけで重荷だとでもいうようにきしんだ。
「おまえも今日は大げさだね」と、台車に言った。
台車はきしみ続けた。
出ていく前に、ファフィニョは二本の指でファフィルの石に触れた。
「今日こそ、ちゃんと役に立つことをするよ」と、ささやいた。
石は、いつものように何も答えなかった。
ホライズン基地は、すでに目を覚ましていた。
廊下には足音と話し声、朝食の匂いと館内放送があふれていた。
さまざまな種族の家族が部屋を出て、共同食堂へ向かっている。
有機生命体同盟の新兵たちが、軽装の鎧を着て通り過ぎた。
技師たちはエネルギー結晶を運んでいる。
幼い子どもたちは、光る根の柱のあいだを走り回っていた。
軍事基地は遊び場ではないと、大人に注意されるまで。
もっとも、レプ・オルジオンには、ここより警報の多い遊び場もあった。
ファフィニョは、基地の居住区であるホライズン・ホームを進んだ。
そこには、数え切れない世界から逃れてきた者たちが暮らしている。
半透明の肌を持つ者、毛皮に覆われた異星人、目を輝かせる昆虫型の種族。
やわらかな羽毛に包まれた家族や、曲がった角を持つ老人たち。
ファフィニョにはわからない言葉を話す子どもたちもいた。
けれど、笑い声は誰のものも同じだった。
ホライズン基地は、避難所であり、工房であり、要塞であり、家でもあった。
ファフィニョにとっても、ほとんど家と呼べる場所だった。
完全には、そう思えなかった。
心のどこかでは、まだファフィルで目を覚ますのを待っていた。
「おーい! 台車つきの歩く災害!」
ケイルが手すりに腰かけ、電気部品を指のあいだでくるくる回していた。
その笑顔は、何かをやらかしたばかりか、今にもやらかしそうな者の笑顔だった。
「おはよう、ケイル」と、ファフィニョは言った。「ずいぶん安全で、正式な許可も出てそうな場所にいるね」
ケイルは、自分が座っている手すりを見下ろした。
「許可なんて、気の持ちようだろ」
「オラクはそう思わないんじゃないかな」
「オラクは、楽しい気持ちってものを信じてないからな」
ケイルは床へ飛び降り、ファフィニョの髪を指さした。
「悪夢か? それとも発明の失敗か?」
ファフィニョは頭に触れた。
「もう、ほとんど緑に戻ってるよ」
「毛先はまだ灰色だぞ」
「こういう髪型んだ」
「トラウマでボリュームを出した髪型か」
ファフィニョはケイルをにらんだ。
ケイルは両手を上げた。
「愛情を込めた、科学的な意見だよ」
ファフィニョが言い返す前に、脇の廊下から落ち着いた声がした。
「お互いの診断が終わったなら、オラクが試作品を待ってるよ」
ナイラが、静かで一定の足取りで近づいてきた。
ピンク色の髪を後ろで束ね、薄手の訓練用チュニックを着ている。
その穏やかな表情を見るたびに、ファフィニョは思う。
自分の秘密は、どれもろくに隠せていないのではないかと。
ファフィニョは、不自然なほど勢いよく背筋を伸ばした。
「ナイラ。やあ。診断なんてしてないよ。技術的な話をしてただけ」
「ケイルは『トラウマでボリュームを出した髪型』って言ってたけど」
「高度に技術的な話だったんだ」
ナイラは台車を見てから、ファフィニョが手に持つ装置へ目を移した。
「シールド、持ってきたの?」
ファフィニョは笑顔で、誇らしげに試作品を掲げた。
「小型パルスシールド。軽くて、洗練されてて、現代の有機生命体の防衛に革命を起こす準備も万全」
ケイルが顔を寄せて、装置をのぞき込んだ。
「それ、片膝しか守れなかったやつだろ?」
「進化したんだ」
「今度は両膝を守れるのか?」
ファフィニョは、少しだけ目を伏せた。
「膝一個半」
ナイラがまばたきをした。
ケイルは胸に手を当てた。
「俺たちは今、革命に立ち会っている」
ファフィニョは、毛先が熱くなるのを感じた。
緑のあいだに、かすかな赤が混じる。
ナイラはそれに気づいた。
笑わなかった。
けれど、あと少しで笑いそうだった。
そのほうが、ずっと困った。
有機生命体同盟の工房は、訓練場の近くの広い区画にあった。
半分は工房、半分は武器庫。
もう半分は、ファフィニョが毎週いくつ規則を破ったか、オラクが知らないふりをする場所だった。
ケイルは、それでは半分が三つあると主張した。
ファフィニョは、科学が幾何学に縛られるべきではないと主張した。
同盟の新兵であるファフィニョは、任務を指揮することを許されていなかった。
監督なしで重火器を扱うこともできない。
ただ、工房の一角で、回収された廃材を使って実験することは認められていた。
その発明品は、見栄えも安全性も、報告書での説明のしやすさも、必ずしも良好ではなかった。
それでも、人の命を救った発明もあった。
同盟がファフィニョを置いておくのは、そのためだった。
爆発物に「高エネルギー工具」とラベルを貼っても、オラクが見て見ぬふりをするのも、そのためだった。
試験場では、新兵たちがエネルギーの槍や生体シールド、パルス兵器を使って訓練していた。
向こうには青い山々がそびえ、三つの太陽が紫の空へ昇っていく。
オラクは、腕の長い女性兵士の隣で待っていた。
兵士は、疑わしそうな顔をしている。
「遅い」と、オラクが言った。
ファフィニョは太陽を見た。
「盛り上がる瞬間を狙って登場したんだ」
「遅刻だ」
「ちょうどいい遅刻だよ」
オラクが手を差し出した。
ファフィニョは試作品を渡した。
「小型パルスシールド、バージョン3.5」
ケイルが小声で尋ねた。
「バージョン3はどうなったんだ?」
「バージョン3の話はしない」
「じゃあ、3.4は?」
「もっとしない」
兵士は装置を前腕に固定し、起動した。
澄んだ作動音とともに、青いシールドが現れた。
明るく光っていた。
安定していた。
とても小さかった。
そして、兵士の左膝だけを、ぴったり守っていた。
試験場が静まり返った。
ケイルがゆっくり拍手を始めた。
「見事だ。レプ・オルジオンでいちばん安全な膝だな」
ファフィニョは指を一本立てた。
「笑う前に覚えておいてよ。関節を甘く見たせいで負けた戦いだって、たくさんあるんだから」
オラクは額を押さえた。
「ファフィニョ」
「衝撃試験だよ」と、ファフィニョは急いで言った。「評価する前に、衝撃を与えて試してみて」
オラクは疑わしそうにファフィニョを見たが、新兵の一人に合図した。
新兵は訓練用の発射器を取り、出力を低く設定してシールドを狙った。
「出力は半分だ」と、オラクが命じた。
「四分の三」と、ファフィニョが言った。
「半分だ」
「英雄的な半分で」
「半分だ」
新兵が撃った。
エネルギー弾が、小さな青いシールドに命中した。
シールドは壊れなかった。
むしろ、その逆だった。
衝撃を吸収して激しく震えたかと思うと、一瞬、もう一層のエネルギー膜が広がった。
兵士の全身を、ほぼ覆う大きさだった。
青い波が、撃った新兵を後ろへ押しやった。
近くの訓練用の標的も三つ倒れた。
全員が黙った。
ケイルさえも。
それからシールドは、金属がくしゃみをしたような間の抜けた音を立てた。
再び縮み、膝だけを守る大きさに戻った。
ファフィニョは、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「ほらね」
オラクは驚きを慎重に隠しながら、装置を見つめていた。
ナイラが近づいた。
「今のは、まぐれじゃないね」
「ありがとう」と、ファフィニョは言った。
「でも、不安定だった」
「今のありがとう、少し取り消す」
オラクは装置を慎重に手に取った。
「広がった状態を保てるように、直せるか?」
ファフィニョは、少し背筋を伸ばした。
「いい部品があればね。小型パルスコアと導電板が必要だ。それと、放電キノコにかじられてないフィールド安定器があるといいな」
ケイルがうなずいた。
「贅沢になったもんだな。かじられた部品は、もう使わないらしい」
オラクはファフィニョを見た。
朝、初めて、ただ疲れているだけの顔ではなかった。
心配と誇らしさが、同時に浮かんでいた。
「これは、役に立つかもしれん」
ファフィニョの胸に、温かなものが広がった。
口には出さなかったが、その短い言葉は、どんな拍手よりもうれしかった。
そのとき、宇宙港の警報が鳴った。
襲撃を知らせる警報ではなかった。
緊急着陸を知らせる警報だった。
試験場の空気が一変した。
新兵たちが武器を下ろす。
オラクは肩につけた通信機をつかんだ。
誰も何も言わないうちに、ナイラは北側の着陸場へ向き直った。
ケイルの笑みが消えた。
ファフィニョの胃が、ぎゅっと縮んだ。
全員で、高い位置にある通路へ駆けた。
そこから、三隻の船がホライズン基地の宇宙港へ降りてくるのが見えた。
戦闘艦ではなかった。
難民を運ぶ輸送船だった。
古く、傷つき、エンジンから煙を噴き上げている。
船体には、黒い傷跡が何本も走っていた。
一隻が、着陸場に激しく降りた。
金属が着陸場をこすり、悲鳴を上げた。
ハッチが開いた。
難民たちが姿を現した。
自分の足で歩く者もいれば、運び出される者もいた。
灰をかぶった大人たち。
間に合わせの包帯を巻いた老人たち。
見知らぬ人の腕の中で泣く幼い子たち。
一人、船から降りてくるのを待つように、振り返り続ける家族たち。
二隻目の輸送船から、一人の子どもが降りてきた。
焦げた布切れを握りしめ、うつろな目で宙を見つめていた。
一瞬、ファフィニョは呼吸を忘れた。
自分が見えた。
七歳の自分。
一隻の船。
失われた世界。
「どこから来たんだ?」と、ケイルが小声で尋ねた。
ナイラは、船の周囲に残る痕跡に目を凝らした。
表情が険しくなった。
「リル・ヴァナ」
ファフィニョは、その名を知っていた。
宙に浮く庭園と、水の橋がある小さな惑星。
誰かと戦争をする理由など、ひとつもない惑星だった。
オラクは、ゆっくりと通信機を下ろした。
「帝国ネットワークか」
それ以上の説明は、誰にも必要なかった。
赤い目のロボット。
黒い船。
沈黙に包まれた世界。
ファフィニョは拳を握りしめた。
袖の下で、Ωの印が光った。
「僕たちは、どうするの?」と、尋ねた。
オラクは難民たちを見た。
「負傷者を手当てする。生存者を登録する。防備を固める」
「それじゃ、待ってるだけだ」
「守るということだ」
「それじゃ足りない」
オラクは厳しい目でファフィニョを見たが、声は荒げなかった。
「わかっている」
どんな叱責よりも、その答えのほうがファフィニョの勢いを奪った。
オラクは声を落とした。
「だが、こんな状態でたどり着いた者たちに、まず必要なものがある。ようやく、もう逃げなくていいのだとわかることだ」
ファフィニョは、焦げた布を持つ子どもを見た。
その答えを受け入れたかった。
できなかった。
自分も、かつて逃げたから。
そして、心のどこかでは、今も逃げ続けていたから。
「もっといい武器が必要だよ」と、言った。
ケイルは目を閉じた。
「今の台詞が、おまえの計画の始まりじゃないって言ってくれ」
ファフィニョは深く息を吸った。
「計画があるんだ」
「やっぱりね」と、ナイラがつぶയいた。
「いい計画だよ」
ケイルが首を傾けた。
「本当にいい計画か? それとも、ファフィニョ基準でいい計画か?」
「ファフィニョ基準は、さっき見事に膝を守ったんだけど」
「歴史に残る膝だったな」と、ケイルは認めた。
ファフィニョはオラクを見た。
「近くの残骸地帯へ行かせて。いい部品が見つかれば、シールドを安定させられる。数も増やせるし、防衛拠点で役に立つかもしれない」
オラクは首を横に振った。
「今はだめだ」
「オラク――」
「襲撃された惑星から難民が来たばかりだ。そのうえ、英雄気取りで無鉄砲な発明小僧まで失ってたまるか」
ファフィニョは動きを止めた。
オラクはため息をついた。
「一時間だ。外周の区画より先へ行くな。封鎖されたコンテナには入るな」
「帝国ネットワークの印があるものには触れるな。それから、出発を記録しておけ」
ファフィニョは笑った。
「今のは、鎧を着た『いいぞ』だね」
「今のは『帰ってこなければ、俺が自分で捜しに行って、見つけ次第怒鳴りつけるぞ』だ」
「それでも、いいってことだよね」
ファフィニョは工房の入口へ走り、小さな台車をつかんだ。
そのまま東門へ押していく。
車輪は廊下の端まで、甲高い悲鳴を上げ続けた。
ケイルが背中に向かって叫んだ。
「その台車、助けを呼んでるみたいだぞ!」
「興奮してるだけだよ!」と、ファフィニョは叫び返した。
出口を通り抜ける前に、ナイラが呼び止めた。
「ファフィニョ」
足を止めた。
ナイラが近づいてきた。
門から吹き込む風に、ピンク色の髪がやわらかく揺れている。
表情は真剣だったが、冷たくはなかった。
「怒りに任せて、やろうとしないで」
ファフィニョは、冗談で返そうとした。
何も浮かばなかった。
難民たちのほうを見た。
「あの人たちのためだよ」
ナイラは、まっすぐにその目を見つめた。
「それなら、必ず帰ってきて。即席の英雄だって、死ぬことはあるんだから」
その言葉は、思っていた以上に胸に刺さった。
なぜだか、間の悪いことに、毛先がぱっと赤くなった。
ケイルがそれを見た。
ファフィニョは、ケイルに指を突きつけた。
「何も言うなよ」
ケイルは両手を上げた。
「何も言ってないだろ。今の沈黙、英雄的だと思うぜ」
ファフィニョは、東門からホライズン基地を出た。
光る根と石でできた柵の向こうに、残骸地帯が広がっていた。
レプ・オルジオンの紫の空の下、廃材の山は、死んだ金属でできた小さな山々のように見えた。
折れた船の翼が地面から突き出し、エンジンが半ば埋もれている。
防御用の金属板には青い苔が生え、ケーブルが光る根に絡みついていた。
後ろでは、台車が規則正しくきしんでいた。
ほかの誰かにとっては、ただのごみだった。
ファフィニョにとっては、言葉だった。
どの部品も、何かを語っていた。
「エンジンだった」「シールドだった」「扉だった」「武器だった」「家だった」。
じっくり耳を澄ませれば、次に何になれるのかがわかるのだ。
台車に部品を積み始めた。
パルスコイルがひとつ。
導電板が二枚。
ほぼ無傷の武器のグリップ。
埃にまみれているが、幸い、放電キノコにかじられていない安定器。
「やっと協力する気になったね、宇宙」と、言った。
そのとき、何かを感じた。
腕に、圧迫感。
ファフィニョは立ち止まった。
袖の下で、Ωの印が光っていた。
「予告なしにそれをやるの、やめてほしいんだけど」
二つの金属の山のあいだで、青い光がまたたいた。
一度。
それから、もう一度。
ファフィニョは、錆びた金属板や干からびたケーブル、絡み合った根を脇へどけた。
その下に、半ば埋まった細長いコンテナがあった。
白い素材でできていて、そこらの残骸にはまるで似つかわしくなかった。
錆はない。
ひびもない。
苔もない。
あまりにきれいだった。
まるで、ずっと待っていたかのように。
ファフィニョは唾を読み込んだ。
「オラクは、封鎖されたコンテナには入るなって、わざわざ言ってたよね」
青い光が、もう一度またたいた。
ファフィニョは、その隣に膝をついた。
「厳密に言えば、僕はまだ外にいる」
袖で表面をぬぐった。
銘板が現れた。
冷たく、完璧に整った、四つの黒い文字。
A.X.E.L.
腕のΩの印が、突然の閃光で応えた。
第1話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついにコンテナの中で「A.X.E.L.」が目を覚ましました。これからファフィニョと彼がどんな旅を繰り広げていくのか、ぜひ楽しみにしていただけると嬉しいです。
もし作品を気に入っていただけましたら、ブックマーク登録や下の【評価】(★)で応援していただけると、執筆の大きな励みになります!
次回の第2話もどうぞよろしくお願いします!




