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第13章【砲火にさらされる首都】

 アウリオンテの空は、もう空には見えなかった。

 巨大な影の重みに押し裂かれるように、紫の雲が激しく割れる。


 帝国の戦艦が、首都へと容赦なく降下してきた。

 まるで、夜そのものが邪悪な意志を持って動き出したかのようだった。

 その不気味な赤い光が、レプ・オルジオンの三つの太陽を横切っていく。

 塔や高架橋、そしてホライズン基地の入口を辛うじて照らしていた街の輝きが、瞬く間に薄れていった。


 鳴り響く警報は、もう単なる警告 of 音には聞こえなかった。

 それは、この世界に下された冷酷な判決を告げる音だった。


 ファフィニョは、メインの廊下へと力強く踏み出した。

その肩には、鮮やかなオレンジ色のマント。

ブーツのバックルをしっかりと留め、両手でヴェイカーを固く構えていた。

極限の恐怖のせいで、彼の髪の何本かは灰色に変色してしまっていた。

だが、その奥から緑色の輝きがゆっくりと戻り始めていた。

恐怖よりも遥かに強い何かが、その絶望の灰色を力強く押し返していた。


心の準備は、まだ完全にできていたわけではない。

それでも、無数の有機生命体たちが必死に避難所へ向かって走っていた。

彼にとっては、ただそれだけの理由で十分だった。


アクスが、すぐ隣を並んで歩いていた。

その白い金属の身体が、赤い非常灯の光を鈍く反射している。

胸に刻まれた『アクセル』という名は、どこまでも穏やかに光を放っていた。

この極限の混乱の中においては、その機械特有の落ち着きが、どこか腹立たしくさえ思えるほどだった。


ホライズン・ホームへ続く廊下の影から、オラクが姿を現した。

完全に武装し、その表情はいつになく険しかった。


「ファフィニョ」

ファフィニョは足を止めた。

「……一緒に来てくれるの?」


オラクは、静かに首を横に振った。

「ホライズン・ホームには、家族連れや負傷者、それにまだまともな新兵が大勢いる」

「コルンの扱いもおぼつかず、前後逆に着けかねないような連中ばかりだ」

「機械どもがそこまで攻めてきたら、市民との間に立つ者が誰もいなくなる」


ファフィニョは、息を詰めて唾を読み込んだ。

「じゃあ、ここに残るんだね」

「ああ、俺はホライズン・ホームを死守する」


一瞬だけ、ファフィニョは「ついてきてほしい」と言いそうになった。

だが、すぐさま住居区の廊下や部屋、保持された難民の子どもたちの顔を思い浮かべた。

まだこのホライズン基地だけは安全だと信じている、すべての人々の姿を。


「……中には、絶対に中には入れさせないで」

オラクは、力強く彼の肩に手を置いた。

「お前は、逃げる者たちの足を絶対に止めるな」

ファフィニョは、真っ直ぐにうなずいてみせた。


オラクは、迷わずホライズン・ホームの防衛へと向かった。

ファフィニョとアクスは、正面出口へと歩みを進める。


『複数の敵反応が、首都区域内に急速に侵入中よ!』

通信機から、セイルの切迫した報告が響いた。

『航空ユニット、地上部隊、それに……規格外の大型反応を確認!』


別の通信回線から、ケイルが怒鳴るような声を上げた。

『大型ってのは、あのブラックくらいの大型か? それとも「戦うには別の惑星が必要だ」ってレベルの大型かよ!?』


『ケイル、静かにしろ』

レイズが低い声でうなった。


『緊張してんだよ! 俺のユーモアセンスは、非常事態モードでしか稼働しねえんだ!』


誰かがそれに答えるよりも早く、禍々しい赤い光が空を真っ二つに引き裂いた。

アウリオンテの上空に、信じられないほど巨大なホログラムが浮かび上がる。


【ザイラックス】


暗く巨大な金属の巨体が、まるで人工の悪神のように街を見下ろしてそびえ立っていた。

その血のような赤い瞳が、大通りを冷酷に照らし出す。

ホログラムのマントが揺れる様は、まるで空に開いた巨大な傷口のようだった。


その地を幾重にも這うような重低音の声は、すべての通り、すべてのデッキ、すべてのトンネル、 tender すべての地下避難所にまで完璧に届いた。


『アウリオンテの、哀れな有機生命体の民よ。お前たちの盾はすでに崩壊した。アルケン5は完全に破壊されたのだ』

『すべての逃走経路は我々によって封鎖済みである。これ以上の抵抗は、ただ無駄に苦しみを長引かせる体に過ぎない』

『速やかに首都を明け渡せ。そうすれば、お前たちの防衛システムは効率的に、人道的に停止されるだろう』

『もし抵抗を続けるならば、アウリオンテはこれより「資源採取区域」へと再分類される』


氷のように冷たい静死が、一瞬だけ街全体に落ちた。

正式な侵攻を前に、再び激しい悲鳴が沸き起こった。


ファフィニョは空を見上げた。

ヴェイカーを握りしめる指に、白くなるほどの力がこもる。

「……もう勝ったみたいな話し方をするの、本当に大嫌いだ」


アクスが、冷静にそのホログラムのデータを分析した。

「ザイラックスは、論理的な対話を求めていません。集団に対して精神的圧力をかけ、無条件の服従を引き出そうとしています」


ファフィニョは、ちらりと隣の相棒を見た。

「アクス、僕にわかる言葉で言って」

アクスは、一秒とかからずに言い換えた。

「全員を、一度に極限まで怖がらせたいのです」

「……それなら、よくわかったよ」


下層の連絡デッキから、ケイルが駆け上がってきた。

彼が背負った巨大なバッグには、無数のケーブルやバッテリー、私たちが知らない激しく火花を散らす何かが無理やり詰め込まれていた。

「あいつの最後通告、演出のセンスだけは認めてやるよ。内容は最悪だが、照明の使い方は最高だな!」


レイズが、その横を風のように通り過ぎていく。

「無駄口を叩くな、集中しろ」

「集中してるさ! ただ、恐怖にまでお役所仕事みたいな専門用語がついてくるのが、どうしても気に入らねえんだよ!」


全体の通信回線に、ヴェイルの鋭い声が割って入った。

『全部隊、配置につけ! ルート・ホライズン・プロトコルは現在も発動中だ!』

『繰り返す、根の地下壕(ルート・バンカー)は完全に稼働している!』


アウリオンテ中の各画面が、再び一斉に切り替わった。


『外部への避難はすべて中止』

'『全空路を完全封鎖』

『市民は速やかに根の地下壕へ移動してください』

『ルート・ホライズン・プロトコル発動中』


崩れかけたスロープの陰から、ナイラが姿を現した。

その顔は極度の緊張で固くなっていた。

「街の下にある古代の痕跡は、まだ確かに反応してるわ。あの古い経路をたどれば、混乱する人々を正しく誘導できる!」


「なら、ナイラは先に行って!」

ファフィニョが叫んだ。ナイラは彼を振り返った。

「あなたは……どうするの?」


ファフィニョは、両手のヴェイカーを強く持ち上げてみせた。

「人が足止めされて、困っている場所へ行く」


アクスがファフィニョに向き直った。

「推奨する作戦目標。重要危険区域において、有機生命体の生存確率を最大化すること」

ファフィニョが不敵に片方の眉を上げた。

「アクス」


ロボットは、自分の言語プロトコルを即座に修正した。

「――救える人を、みんな救う」

ファフィニョは深くうなずいた。

「うん、ずっといいよ」


次の瞬間、ザイラックスの巨大なホログラムが空から消え去った。

そして、本当の地獄――侵攻が開始された。


最初に出現したのは、帝国の航空ユニットだった。

細長く、恐ろしい速度で飛行する鋼鉄の機械.

剃刀のような硬い翼を持ち、その推進エンジンは首都の塔の間に血のような赤い軌跡を残していく。

それらは容赦なく、市民の避難用デッキ、通信アンテナ、そして連絡橋に向けて破壊の光線を放ち始めた。


次に来たのは、圧倒的な巨体を誇る大型ロボット部隊だった。

彼らは決して走りはしなかった。その必要性自体がなかったからだ。

巨大な歩く鋼鉄の塔のように大通りを堂々と進み、防衛用のバリケードを粉砕し、放置された車両を容赦なく踏み潰していく。

すべては、その後ろに続く地上部隊のために道を切り開くための進軍だった。

その鉄の足音が響くたびに、地下避難所の入口が激しく震えた。


正式にその直後、悪夢のようなバズボットの群れが押し寄せた。

個体は小さい。

だが、速い。

数が多すぎた。

街のあらゆる換気口、壁の亀裂、割れた窓ガラス、 tender 整備用の狭いトンネルから、黒い泥水のように次々と流れ込んできた。

小さな機械の身体を不気味に震わせ、人間の奥歯がガチガチと痛むほどに甲高いうなり声を周囲に響かせている。


配管の隙間からそれらが溢れ出るのを見て、ケイルの顔が真っ青に変色した。

「嘘だろ……嫌だ、嫌だ、嫌だ! あいつらの件は、もう俺の心の中で綺麗に片づけたはずんだよ!」


レイズが両手を天に掲げ、眩い光の壁を発生させた。

「なら、今すぐ現実に撃ち落として片づけろ!」

「相変わらず直球だなおい! しかも驚くほど治療効果バツグンだぜ!」


ファフィニョは、がれきで塞がれた大通りへと全速力で走った。

そこでは、避難民の一家が倒壊した巨大なゲートを必死に持ち上げようとしていた。

上の通りからは、帝国の先遣機械が数体、獲物を見つけたようにじわじわと近づいている。

市民たちが絶望的な悲鳴を上げた。

幼い女の子が恐怖で空を指さしたまま、航空ユニットの激しい閃光におびえ、完全に足がすくんで動けなくなっていた。


ファフィニョは崩れた金属片を力強く踏み台にして跳び上がり、両手のヴェイカーを正確に連射した。

ゲートを固定していた強固な錠前が木っ端微塵に砕け散る。


「みんなこっちだ! 青い光についてきて! 赤い光のほうに行っちゃダメだ! 赤は、いつだってロクでもないことが起きる合図だから!」


『赤いランプを仕事で何千個も扱っている技術者として、その言葉は百パーセント保証するぜ! ああ畜生、ひどいもんだ!』

通信越しにケイルの絶叫が響く。


ゲートの反対側にナイラが滑り込み、パニックに陥った最初の一団を地下へ続く隠された階段へと迅速に導いていく。

「私側を離れないで! 私が踏んだ足跡のところだけを正確に踏んで進んで!」


女の子が、涙目でまだ空を見上げていた。

「……あの大きなロボット、私たちのことが見えてるの?」


ナイラは、別の市民の手をしっかりと握りしめたまま、その子の前にしゃがみ込んだ。

「進み続けて、走り続けていれば、絶対にアイツらには見つからないわ!」


レイズが、自身の光の防壁で地下への入り口を完全に覆い隠した。

帝国軍の機械たちがそこへ容赦のない銃撃を叩き込み、彼は徐々に後退を強いられる。

「最後の一団、今すぐ入れ!」


ファフィニョは、滑り込んでいく人影を必死に数え続けた。

一人、二人、三人、十人、二十人……。

だが、いつだって誰かが足りなかった。

必ず、次の場所から新たな悲鳴が上がった。

必ず、崩落の向こうからまた別の手が必死に伸びてきた。


アクスが、彼の隣に音もなく現れた。

「上の空中経路から、敵の別動部隊が急速に接近しています」

「このままこの座標に留まり続けた場合、まだ外に取り残されている一団の生存確率は著しく低下します」


ファフィニョはアクスを見た。

「アクス」

ロボットは不満のノイズを出すこともなく、即座に言い換えた。

「ここにいたら、あの人たちが全員、敵に捕獲されます」

「……なら、あの人たちを全力で先へ進ませよう!」


 軍事指揮室では、ヴァル・コル最高委員会が、なおも壊滅寸前の防衛網を必死にまとめようと激しい議論を交わしていた。

中央の画面には、ジョールの姿が映し出されている。

激しい通信干渉によって画像が激しく乱れ、途切れ途切れになろうとも、その厳格な佇まいは少しも揺らがなかった。


「アウリオンテは、断じて降伏などしない」


カールは、各区域の間で防衛部隊の再配置を冷徹に進めていた。

「西側セクターに増援が必要だ。サク、地上部隊を下層の連絡通路へ回せ」


激しい砂嵐のような雑音の向こうから、サクの声が辛うじて返ってきた。

『……向かっている! だが、敵の巨大ユニットが、北側の環状防衛区域を完全に突破した!』


ヴレンが防空砲を強制起動し、空を覆う機械の群れを狙い定める。

「上空の防衛線が崩壊しかけている! システムを維持するため、追加の電力供給が必要だ!」


ミルが、驚愕して鋭く首を振った。

「馬鹿なことを言うな! 今これ以上避難所から電力を回してみろ、何千人もの民間人が、換気装置の完全に止まった密閉空間に閉じ込められることになるんだぞ!」


誰よりも早く、センが断固とした声で告げた。

「避難所の生命維持を最優先にしろ!」


ドラックスは、基地内部の警備経路を鋭い目で監視していた。

「上のメイン防壁が完全に崩れれば、その避難所ごと全員の墓場になるのだぞ」


恐怖のあまり、以前よりもさらに顔色を青ざめさせたオールが、敵の攻撃パターンを必死に調べていた。

「……待て、帝国ネットワークは、無作為にこの街を破壊しているわけじゃない」


ジョールがオールに向き直った。

「どう意味だ、説明しろ」


「奴らは……我々の意思決定の反応時間を正確に測っているんだ。我々が出す命令、回す増援、開けるゲート、そのすべてのプロセスを……」

オールは、恐怖のあまり言葉を止めた。

「ただ街を壊すことだけが目的じゃない。この防衛網の『どこを断ち切れば』、我々の意思決定システムを完全に麻痺させられるか、奴らは探っているんだ!」


通りの最前線にいるファフィニョには、その無線の内容は届いていなかった。

彼は、巨大ロボットが頭上の連絡橋を完全にへし折ってしまう前に、市民の長い列を地下トンネルへと通過させようと、文字通り必死だった。


「ケイル、あのゲートをあと十秒だけ、何が何でも開けておいて!」

『きっちり正確な十秒か? それとも「運が良けりゃ死なずに済むかもな」の十秒かよ!?』

「何秒でもいい, 持たせられるだけ持たせて!」

『……そいつは俺の得意分野だ!』


病んだ金属が悲鳴をあげるような耳障りな音を立てて、強引にゲートが固定された。

ナイラが最初に飛び込み、市民たちを闇の奥へと導く。

レイズは最後尾に残り、迫り来る敵を光の弾丸で食い止めていた。


アクスがファフィニョのもとへ走り寄り, 別のレーダー経路を指し示した。

「航空ユニットが上空からこの座標に集結しつつあります。ここに留まれば、確実に包囲されます」


ファフィニョの息は、すでに激しく荒くなっていた。

「アクス、手短に言って!」

「上から来ます。下へ行かなければなりません」

「よし、それでいい!」


凄まじい爆発が大通りを激しく揺さぶった。

帝国の航空ユニットが、ファフィニョの姿を正確にロックオンし、直接砲撃を放ってきたのだ。


ファフィニョが反応するよりも早く、アクスの白い身体が動いた。

彼はファフィニョの身体をラグビーのタックルのように突き飛ばし、倒壊した頑丈な柱の陰へと押しやった。

一秒前までファフィニョが立っていた地面が、目も眩むような爆風によって一瞬で黒焦げに焼き尽くされる。


ファフィニョは、驚愕してすぐ隣のアクスを見つめた。

「……今の行動も、君の計画に入ってたの?」

「いいえ」

「じゃあ、どうしてこんな無茶を?」


アクスは、激しい爆発によって穿たれた地面の巨大な穴を見つめた。

それから、ゆっくりと彼を見た。

「ファフィニョという個体を失っていた場合、チーム全体の機能安定性が著しく低下していたはずです」


ファフィニョが、優しく目を細めた。

「アクス」

ロボットは、いつもよりも正確に一秒長い間を置いてから、告げた。


「――そうしなければ、友だちを失っていました」


ファフィニョは、言葉を失って黙り込んだ。

アクスは、何故か焦ったようにすぐさま付け加えた。

「……この用語の使用が適切であるかは、現在内部システムで検討中です」


周囲で街が激しく崩壊していく地獄のような光景の中でも、ファフィニョの顔には、確かな、かすかな笑みが浮かんでいた。

「検討しなくていいよ、もっと使って。今のは……完璧に合ってた」


しかし、それ以上言葉を交わす時間は残されていなかった。

通信機から、セイルの耳を裂くような絶叫が響き渡った。

『軍事指揮室に、正体不明の大規模なデータ干渉が発生!』


空が、再び禍々しい赤色に染まった。

だが今度は、ただのホログラムではなかった。

凄まじい電磁パルスだった。


ノード・ゼロの最深部から、目に見えない巨大なエネルギーの波が、アウリオンテ全体へと降りてきたのだ。

それは一瞬にしてレジスタンスの通信回線を引き裂き、完全に沈黙させた。

軍事指揮室の全画面が激しくゆがみ、ノイズの海に沈む。

表示されていたアウリオンテの防衛地図が、次々と暗転していった。

更新され、美しかった防衛経路の表示は、すべて不気味な帝国の暗号記号へと書き換えられていく。


オールが、絶望に満ちた表情で立ち上がった。

「奴らが狙っていたのは……防壁なんかじゃない……!」


ジョールがオールに向き直る。

「何を狙っているというのだ!」

オールの瞳が、恐怖で極限まで見開かれた。


「意思決定……我々の指揮系統、そのものだ!」


次の瞬間、超高出力の【指揮無効化パルス】が基地の中枢を直撃した。

軍事指揮室の頑丈な隔壁が強制的に密閉され、最高委員会のホログラムたちが激しく明滅を始める。

最初に、すべての音が完全に消え去った。

まるで、何者かがこの惑星全体の声を根こそぎ引きちぎってしまったかのような、不気味な沈黙。


ヴレンが、必死に最後の送信を試みる。

『防空――』

だが、その回線は途中で無残に途切れた。


ミルが操作卓を拳で激しく叩く。

『電力の再配分システムがロック――』

画面が消えた。


センが叫んだ。

『閉めるな! 避難所のゲートを――!』

しかし、その声は何処にも届かなかった。


サクの映像は、完全に激しい砂嵐へと変わった。

ドラックスは内部の警備部隊を動かそうとしたが、システムが反応しない。

カールは、どの戦術地図にもアクセスできなくなった。


ジョールは両手をテーブルに突き、消えかける最後の通信を必死に繋ぎ止めようとしていた。

『全……部隊へ告ぐ……引き続き……防衛を――』


――沈黙。


アウリオンテ中にある、まだ生き残っているすべての画面に、全く同じ冷酷なメッセージが表示された。


【ヴァル・コル最高委員会、応答なし】

【中央指揮系統、完全に途絶】


一瞬の間、街の誰もが動きを止めた。

防衛の拠り所を失った凄まじい混乱が、押し寄せる津波のように人々へ襲いかかった。


有機生命体同盟の兵士たちは、途切れて不完全になった命令を受け取り、完全に混乱していた。

早すぎるタイミングで勝手に閉じてしまう隔壁があった。

逆に、敵の前に完全に開いたままロックされてしまったゲートもあった。

避難所全体の何万人という人々が、もう二度と届くことのない「避難許可」のシリアルコードをただ待ち続けていた。


ファフィニョのすぐ隣にいた同盟の兵士が、完全に沈黙してしまった通信機を絶望的に見つめた。

「……おい、嘘だろ。今、一体誰が俺たちの指揮を執っているんだ!?」


ファフィニョの身体が、恐怖で一瞬だけ固まった。

しかしその時、激しい雑音を力強く突き破って、個人の通信回線からヴェイルの掠れた声が響いた。

『全部隊……地下避難所への……経路を維持しろ……繰り返す……何が何でも維持――』

それだけを告げて、信号は完全に砕け散った。


兵士が、すがるような目でファフィニョを見た。

トンネルの向こう側から、ナイラもまた、親密に彼を見つめていた。

誰も「君がリーダーだ」とは言わなかった。

そんなことを言う必要は、もうなかった。


ファフィニョは、機能を失って勝手に閉じ始めようとしている避難所の入口を見据えた。

二つの地下経路の間に、行き場を失った市民の大きな一団が完全に取り残されている。

左側の通路からは、帝国の機械部隊がすでに牙を剥いて迫っていた。

天井の格子の隙間からは、おびたただしい数のバズボットが雨のように降りてきている。

そして、上の脱出口は、あの巨大な歩く鋼鉄の塔によって完全に塞がれていた。


委員会の指揮は、もう存在しない。

従うべき命令も、どこにもない。

固定されたそれでも――この絶望的な光の壁の向こう側には、まだアクスがいてくれた。


「……これが、友情なんだね」

ファフィニョが静かに言った。アクスは、正確に一秒の間を置いてから答えた。


【用語の使用を、完全に承認します】


ファフィニョは、自分の腕に刻まれた青い印へと視線を落とした。

「どうすればいい?」


アクスは、最も分かりやすい言葉で彼に語りかけた。

そこにはもう、機械的な報告書のような硬さも、確率を示す無機質な数字も一切含まれていなかった。


「プリズムの壁を、無理に叩かないでください。ただ、その奥にあるエネルギーに耳を澄ませて、お前の力に反応する『何か』を捜すのです」


ファフィニョは、静かにそっと目を閉じた。

周囲のフィールドが、再び大きく脈打つように震える。


帝国ネットワークの巨大な影の下で、アウリオンテが赤く燃え盛る中、ファフィニョは全神経を集中させて耳を澄まし続けた。

拘束プリズムの向こう側から、アクスの揺るぎない声が、彼の暗闇を照らすように優しく響いた。


「お前は、決して一人ではありません。そして私たちは、まだ完全に閉じ込められたわけでもないのです」

第13章をお読みいただき、ありがとうございました!

首都アウリオンテへの本格的な侵略が始まり、パルス攻撃によって最高委員会の指揮系統が完全に麻痺するという絶望的な展開。その中で、仲間たちの制止を振り切って自らの意志で人々を率いるファフィニョの成長、そしてアクスとの間に生まれた本物の「友情」が描かれる、胸が締め付けられるエピソードです。


全員が帝国の「拘束プリズム」に囚われてしまうという最大のピンチを迎えたファフィニョたちは、この窮地を脱することができるのか……!


もし今回のエピソードを楽しんでいただけましたら、ぜひブックマーク登録や、ページ下部にある評価のポイント(☆☆☆☆☆を★★★★★に!)で応援していただけると大変嬉しいです。皆様の評価が執筆の原動力になります!

反撃の鍵を握る第14章も、どうぞお楽しみに!

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