表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月から落ちた少女と、神に愛された機械狼  作者: 玄達瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/81

第53話 詠われる大地(二)

     ◇


 宿は、サトが普段泊まるような安宿より、かなり立派だった。


 木造の大きな建物で、入口には古い歌が刻まれた板が掲げられている。


 中からは湯気と、煮物の匂いが漂ってきた。

 

サトは料金を聞いて、少し顔を引きつらせた。


「……たぶん不適切だ。でも今日は必要経費だ」


 荷袋の中の路銀を確かめる。


「ガラさんに感謝だな」


「ガラの支援がなければ、不適切でしたか」


「かなり不適切だった」


「記録します」


「そこは記録しなくていい」


 宿の女将は、神威を見て目を丸くした。


「その子、外に繋いでおくのかい?」


 サトは困った。


「いや、できれば屋根のあるところに置かせてもらえると……雨に濡れると困るんです」


 神威がしょんぼりと耳を伏せる。


 その背中に、小さな野鳥が数羽止まっていた。また鳥が増えている。


 女将はしばらく神威を見た。


 それから、ふっと笑った。


「まあ、悪いモノじゃなさそうか」


 神威が少し嬉しそうに耳を立てる。


「裏の乾かし場を使いな。火を噴いたりするんじゃないよ」


 サトはすぐに神威を見た。


「火は出すなってさ」


「わぉん」


 神威は乾かし場へ案内された。


 屋根があり、風通しもよく、端には薪や古布が積まれている。


 梁にはすでに野鳥が何羽か止まっていた。


 神威がそこに座ると、背中の鳥たちは梁へ移ったり、また神威の背へ戻ったりした。


「鳥宿になってるな」


「わぅ」


「得意げになるな」


 サトは神威の背を古布で拭き、腹部パネルの縁をもう一度確認した。


 大きな異常はない。


 ただ、明日もう一度防水処理をした方がいいだろう。


「神威、今日は休め」


「わぅ」


 神威はそこで静かに横になった。日向ぼっこの態勢だ。


 機械でも疲れるのだろうか。


     ◇


 宿には温泉があった。


 サトは男湯へ、ツキハは女将に案内されて女湯へ向かった。


 サトの家で湯に浸かったことはある。


 だが、ツキハにとって温泉は初めてだった。


 女将は湯気の立つ戸を開けながら言った。


「この湯は山の下から湧いてるんだよ。普通の湯よりも体がよく温まる」


 ツキハは湯気を見つめた。


「自然加熱された地下水ですか」


「まあ、そんなようなもんさ」


「目的は洗浄、加温、疲労回復」


「難しいこと言うねぇ。まあ、入れば分かるよ」


 ツキハは湯に入った。


 そして、しばらく固まった。


「状態に変化があります」


 女将が心配そうに覗き込む。


「熱かったかい?」


「……適切です」


「そうかい」


「非常に、適切です」


 女将は笑った。


 露天風呂の岩場には、大きな石碑があった。


 湯気の向こうに、古い文字が刻まれている。


 ツキハは湯に浸かりながら、それを見た。


 湯けむりに

 白き流れの声を聞く

 山まだ眠り

 鉄の骨鳴る


「これは、歌ですか」


 ツキハが尋ねると、女将は頷いた。


「そうだよ。このあたりは古い歌や記録が多くてね」


「白き流れ。鉄の骨。これは精霊流と機械遺跡の観測記録の可能性があります」


「さあねえ。知りたきゃ記憶守にでも聞くさね」


「記憶守」


「通りを上がった先に、風車のある大きな記録院って書いた建物がある。そこに行きな。目立つから迷わないだろうさ」


 ツキハはその名を記録した。


 湯の温度。


 湯気の匂い。


 石碑の歌。


 そして、記録院。


 地上は、また新しい情報を差し出してきた。


     ◇


 夕食は、サトの予想を大きく超えていた。


 女将が次々と器を並べていく。


 蒸した卵。


 煮物。


 干物。


 焼いた白身魚。


 透き通るような生魚。


 湯気を立てる白い米。


 そして、赤く茹でられた大きなカニ。


「ささ、このあたりの特産を使ったカニ懐石だよ。味わってくんね」


 サトは目を見開いた。


「壮観だな。こんな豪華な食事は初めてだ」


 村にも、収穫祭のときには豪華な食事が出た。


 村長宅の前にみんなで集まり、その年の収穫を祝う。


 大鍋。


 焼いた肉。


 硬いパン。


 甘い木の実。


 あれはあれで、サトにとって大事なごちそうだった。


 だが、目の前の料理はまるで違う。


 器が並び、色が整えられ、湯気まで計算されているようだった。


 洗練されている。


 サトはそう思った。


 ツキハは料理を見て、真剣に言った。


「カニ懐石……不適切です」


 女将がきょとんとする。


 サトも箸を止めた。


「何がだ?」


「なぜ『蒸し卵、煮物、干物、焼き白身魚、生魚、米、カニ懐石』ではないのですか。カニだけを示すと名称として不均衡です」


「ツキハ、蒸し卵好きだもんな」


「ち、違います。いえ、蒸し卵は好きですが、私は食材の平等性を伝えたかっただけです」


 女将は一瞬ぽかんとしたあと、声を上げて笑った。


「おもしろいことを言う娘だねぇ。とりあえず、食べてみたら分かるさ」


 ツキハはカニを前に固まった。


「これは、生物の外骨格ですか」


「食べ物だ」



外骨格食いてぃと思ったそこのあなた!6( 'ὢ' )ว

是非評価やリアクションを

作者のモチベが爆上がりします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ