第34話 ツキハと神威がいる日常(二)
錆びた金属板。
割れた透明な板。
曲がった支柱。
何かの車輪。
乾いた配線の束。
用途の分からない箱。
古い機械の一部。
サトにとっては見慣れた場所だった。
父に連れられて、何度も来た場所。
危険なものもある。
けれど、村の暮らしに必要な部品も、ここから何度も見つけた。
「ここがゴミ山だ」
サトが言うと、ツキハは斜面を見上げた。
しばらく黙っている。
「どうした?」
「情報量が多いです」
「まあ、ゴミだからな」
「ゴミ、という分類は不適切な可能性があります」
ツキハは静かに一歩前へ出た。
朝の光が、銀色の髪にかかる。
ロッカが小声で言った。
「サト」
「何だ」
「ツキハちゃん、今ちょっと格好よくないか」
「黙って見てろ」
「はいはい」
ツキハは斜面の手前でしゃがみ、地面に手を近づけた。
触れてはいない。
けれど、何かを読むように目を細めている。
「精霊流は薄いです。ただし、局所的に残留反応があります」
「残留反応?」
「精霊科学文明時代の遺物が混在している可能性があります」
ロッカが記録板を構えた。
「それ、どれくらい昔の話なんだ?」
ツキハは少し考える。
「現在の暦で言えば、およそ西暦二一二〇年から二四五〇年頃です」
「ずいぶん幅があるな」
「精霊圏が発見され、精霊の存在が技術体系に組み込まれた時代です。初期には、既存の機械に精霊反応を補助的に利用する程度でした。後期には、機械と精霊の境界が曖昧になっていきました」
サトは神威を見た。
「神威も、その時代なのか?」
「神威の基礎設計は、さらに初期に近い可能性があります。西暦二一〇〇年代から二二〇〇年代。精霊科学文明の黎明期に作られた個体と推定されます」
「黎明期……」
サトは神威を見た。
古い機械狼。
歩く案山子。
長い時間、森にいた相棒。
神威は何の話をされているのか分かっていない顔で、耳を動かした。
「わぅ?」
「お前、かなり古いらしいぞ」
「わぉん」
「そこは誇るところなのか?」
ツキハは、すぐに別のものへ視線を移した。
斜面の下に、筒状の部品が転がっている。
長さはサトの腕ほど。
表面は錆びているが、ところどころに青い線が残っていた。
「これは、東雲社の二一八九年製エーテルドライヤーです」
「え、これが?」
ロッカが覗き込む。
「どう見ても焦げた筒だけど」
「精霊科学文明初期の生活機器です。精霊の力を借りて、熱効率をわずかに高めるものです」
「生活機器なのか」
サトは筒を持ち上げた。
軽い。
中身はかなり傷んでいる。
「使えるか?」
「本体としての再稼働は困難です。ただし、内部の熱変換板に微弱な精霊反応が残っています。取り出せれば、神威のLEDウォーマーの安定化に使える可能性があります」
神威の耳が立つ。
「わぉん?」
「お前の温め機能がよくなるかもってさ」
「わぉん」
「気が早い」
サトはピッケルを取り出した。
先端を筒の接合部に当てる。
柄から細い端子が伸び、古い端子穴に差し込まれた。
ぱち、と微弱な電流が走る。
空中に小さなホログラムが浮かぶ。
数字と記号が乱れながら流れた。
「内部断線は多い。でも熱変換板は生きてる。外装を割らずに取り出せそうだ」
「では回収対象です」
ツキハが即答した。
ロッカが笑う。
「一つ目から当たりか」
「小物だよ」
サトはそう言ったが、声は少し明るかった。
次にツキハが見つけたのは、一抱えほどの重い機械だった。
四角い箱のような形をしている。
表面は泥と錆で覆われ、片側が潰れていた。
「サト。これは何でしょうか」
「ちょっと待て」
サトは膝をつき、ピッケルの端子を接続した。
反応は鈍い。
だが、完全に死んではいない。
ホログラムに、かすれた文字が浮かぶ。
「ええと……WS-GED6と書いてあるな。たぶん日本製だ」
「分かりました。WS-GED6は業務用大型エアコンのコンデンサです。第六世代のものです」
「分かるのか」
「記録にあります」
「使える?」
「精霊回路部は完全に風化しています。再利用は困難です。溶かして素材として使う程度かと」
「合金としては?」
「外装の一部に耐熱合金が含まれています。ピッケルの補修材、あるいは神威の内側フレーム補強に使える可能性があります」
「じゃあ、ゴミではないな」
「はい。素材です」
ロッカが感心したように言った。
「ゴミ山が、だんだんゴミ山じゃなくなってきたな」
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