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月から落ちた少女と、神に愛された機械狼  作者: 玄達瀬


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第26話 帰ってきた機械狼(二)

機械の装甲の隙間から出た、小さな緑。


そこだけ、別の季節が入り込んだように見える。


怖いかと聞かれれば、少し怖い。


けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


むしろ、神威が生きている証のようにも見えた。


しばらくして、外から小さな声がした。


「サト兄ちゃーん」


扉の隙間から、子どもの顔が三つ覗いていた。


「見ていい?」


「外からって言っただろ」


「外だよ」


「顔が中に入ってる」


三つの顔が、すっと少し下がった。


「これで外?」


「まあ、ぎりぎり外だな」


「神威、痛い?」


神威は顔を上げようとした。


「動くな」


「きゅうん」


「痛いけど、我慢してる」


サトが答えると、子どもたちは急に真面目な顔になった。


「神威、がんばれ」


「サト兄ちゃん、ちゃんと治してね」


「芽は折らないでね」


「分かってる」


子どもたちはしばらく覗いていたが、やがて一人が走っていった。


そしてすぐに戻ってきた。


手には、小さな布があった。


「これ、神威に」


「何だ?」


「寝るとき敷くやつ。うちの古い布」


「助かる」


サトは受け取った。


神威の下に敷くには小さすぎるが、固定具の下に当てる布としては使える。


「ありがとう。使わせてもらう」


子どもは嬉しそうに笑った。


神威も「わぅ」と鳴いた。


その声を聞いて、子どもたちは満足そうに走っていった。


静かになったと思ったら、今度は別の足音が近づいてきた。


「サト」


低い声がした。


ガラだった。


白い髭を撫でながら、ゆっくりと工房の入口に立つ。


ガラは村の年長者で、サトの父のこともよく知っている。


彼は神威を見て、眉を上げた。


「これはまた、派手にやられたのう」


「観測塔の近くで裂爪級に遭いました」


「北外れの村から使いが来た。大まかな話は聞いておる」


「早いですね」


「こういう話は、風より早く村を渡る」


ガラは、奥へ視線を向けた。


「娘さんは?」


「奥で休んでます。水を使いたいと言っていたので、風呂を使ってもらっています」


「そうか。それがよい。」


「はい」


「神威は?」


「限界です。でも、少し休ませてから修理に入ります。俺の手も震えてるので」


ガラは小さく頷いた。


「それでよい。焦って直すと、直るものも直らん」


「はい」


「村の修理小屋を使え。道具も出しておく。油と布、古い接合材も残っておる。必要ならワシの倉から持ってこさせる」


「助かります」


「まずは神威じゃな」


「脚と胸部装甲が先です。尻尾は後回しでも動けます」


「背中のそれは?」


ガラの視線が、神威の背中の芽に向く。


サトは少し困った。


「分かりません」


「分からん、か」


「ただ、ツキハは悪いものには見えないと言っていました。神威の精霊反応とつながっている、とも」


ガラは驚いたように目を細めた。


「機械に芽が出て、精霊反応とな」


「俺にも何が何だか」


「ふむ」


ガラは神威に近づきすぎない距離で、じっと芽を見た。


小さな芽は、光を受けてわずかに揺れている。


「悪いものに見えんのなら、今は騒がんでよい。村の連中には、触るなと言っておく」


「お願いします」


「それと、明日でよい。観測院に顔を出せ」


「明日ですか」


「今日のところは休め。だが、裂爪級と古い精霊の話は、観測院にも正式に報告せねばならん。娘さんのことも、扱いを考える必要がある」


「……そうですね」


「心配するな。すぐにどうこうする話ではない。ただ、隠したままにはできん」


サトは頷いた。


「分かりました。明日、神威の状態を見て、俺が行きます」


「娘さんも連れていけるなら、その方がよい。無理なら、おぬしだけでよい」


「はい」


ガラは少しだけ表情を緩めた。


「それにしてもサトよ」


「何ですか」


「いずれワシの孫娘でもどうかと思っておったが、いらぬ世話じゃったようじゃの」


サトは水を吹きかけた。


「違います!」


「まだ何も言っておらん」


「言いましたよね!」


「いや、年寄りの独り言じゃ」


「はっきり聞こえました」


ガラは肩を揺らして笑った。


「若い者が無事に戻ったのじゃ。老人は少しぐらい茶化すものじゃ」


「今は神威の修理が先です」


「分かっておる。邪魔はせん」


ガラは入口から外へ向かって声をかけた。


「子どもら、あまり騒ぐでないぞ。神威は治療中じゃ」


「はーい!」


外から元気な返事が聞こえた。


返事だけは立派だった。


ガラが去ってしばらく休んでいると、奥からツキハが戻ってきた。


髪は少し濡れていた。


サトが用意した布を肩に掛け、見慣れない衣の上から古い上着を羽織っている。


月の光のような雰囲気は少し薄れたが、その分、少しだけ地上の人間に近く見えた。


もし、少しでも続きが気になる人がいたら、評価ポッチしてもらえると崇めます。

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