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月から落ちた少女と、神に愛された機械狼  作者: 玄達瀬


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第11話 北外れの村(三)

サトは枝に絡んだ尻尾を外し、散らばった荷物を急いで拾った。


幸い、侵食獣はこちらへ来なかった。


どうやら逆方向へ進んだらしい。


結果だけ見れば、危険は避けられた。


ただし、避け方としてはあまり美しくない。


サトは荷物をまとめ直し、神威の脚を確認した。


「脚は……折れてないな。補助パーツも無事。尻尾も……少し擦っただけか」


「わぉん?」


「大丈夫だ。大丈夫だけど」


サトは神威を見た。


神威は、横倒しになったせいで全身に落ち葉をつけている。頭の上には小枝が一本乗っていた。


本人は申し訳なさそうにしているが、尻尾の先だけが、まだ少し嬉しそうに揺れている。


たぶん、さっき褒められたのがまだ効いている。


サトは深く息を吐いた。


「連れてきてよかった……よな?」


神威が首を傾げる。


「わぉん」


「自信満々に返すな。今のは俺が自分に聞いたんだ」


サトは神威の頭の小枝を取った。


それから、少しだけ笑った。


「まあ、でも助かったのは本当だ。次からは、木の根にも気づいてくれ」


「きゅうん」


「侵食獣より木の根の方が強敵って、どういうことだよ」


森の奥から、風が吹いた。


葉が揺れる。


木漏れ日がちらちらと地面に落ちる。


サトは地図を開き、現在地を確認した。


予定の道からは少し外れている。


だが、大きく迷ったわけではない。むしろ、このまま進めば、小川沿いの旧街道に出られるはずだ。


「よし。少し遠回りになるが、このまま行く。さっきの侵食獣とは距離を取る」


「わぉん」


「今度こそ転ぶなよ」


神威は慎重に一歩踏み出した。


ぎし。


次の一歩。


きゅい。


さらに一歩。


今度は木の根をまたいだ。


「そう。それでいい」


神威は得意げに振り返る。


「そこで振り返らない。前を見ろ」


神威は慌てて前を向いた。


サトは思わず笑ってしまった。


森の道は、決して楽ではなかった。


それでも、ひとりで歩くよりは悪くない。


危険に先に気づく者がいる。


荷物を背負ってくれる者がいる。


転んで、こちらの気を抜かせてくれる者がいる。


サトは神威の背を見ながら、そう思った。


太陽が西に傾きはじめた頃、小川の音が聞こえてきた。


旧街道は、苔むした石畳として森の中に残っていた。ところどころ崩れているが、足場としては悪くない。


神威は石畳の上に乗ると、少し歩きやすそうにした。


「やっぱり平らな道の方がいいか」


「わぉん」


「お前、山道向きじゃないのかもな」


「きゅうん」


「いや、落ち込むな。慣れればいい」


しばらく進むと、森の向こうに煙が見えた。


炊事の煙だ。


依頼先の村が近い。


サトは歩調を少し早めた。


神威も続こうとして、また荷物を揺らす。


「走るな。最後に壊れたら笑えない」


木々が開ける。


その先に、小さな村があった。


森の斜面に寄り添うように家々が並び、中央には井戸と広場。さらに奥には、古い観測塔の影が見える。


塔は、森に半分飲まれていた。


上部は折れ、外壁には蔦が絡まり、ところどころに青白い光が走っている。


あれが、今回の依頼の中心だ。


観測塔の位置は村からさらに北に1㎞といったどころだろうか


村の入口では、こちらに気付いた大人たちが数人待っていた。


先頭に立つ男が、サトを見る。


「あんたが、サトか」


「はい。西の外れの村から来ました。観測士のサトです」


男の視線が、サトの後ろへ移る。


泥と落ち葉にまみれた機械狼。


背中には少しずれた荷物。


尻尾には、まだ小枝が一本絡まっている。


神威は気づいていないのか、きりっと座った。


「そっちは……護衛か?」


サトは一瞬、答えに迷った。


護衛。


そう言えなくもない。


実際、さっきは神威のおかげで侵食獣を避けられた。


だが、直後に盛大に転んだ。


今も頭に葉っぱがついている。


護衛というには、少し不安がある。


番犬。


荷物持ち。


修理中の旧世界機械。


拾ったばかりの機械狼。


どれもしっくり来ない。


サトは神威を見た。


神威は胸を張っている。


誇らしげで、少し泥だらけで、かなり危なっかしい。


「……調査補助です」


サトはそう答えた。


神威の耳が、少しだけ下がった。


サトは慌てて言い足す。


「かなり優秀な。たぶん」


「わぉん!」


「だから、そこで大声を出すな」


村人たちは顔を見合わせた。


それから、少しだけ笑った。


緊張していた空気が、ほんのわずかに緩む。


先頭の男も、口元をゆるめた。


「なら、頼りにさせてもらう。観測塔の異常は、日が落ちてから強くなる。少し前まで光ったりしなかったんだが。とにかく、今日は村でゆっくり休んでくれ。宿を準備している。そっちの狼さんもな。」


サトは塔を見上げた。


青白い光が、蔦の隙間でまたたいている。


神威が低く鳴いた。


「……わぅ」


その声には、さっきまでの浮かれた響きはなかった。


サトは鞄の紐を握り直す。


「分かってる。ここからが仕事だ」


風が吹いた。


森の奥で、何かがざわめく。


古い観測塔の上で、青白い光が一度だけ強く脈打った。


神威の尻尾が、静かに下がる。


サトはその横に立ち、村人たちへ向き直った。


「ありがとうございます。夕食のときにでも状況を詳しく教えていただけますか。」


こうして、サトと神威の初めての遠出は、ようやく本当の依頼へ入っていくことになった。


ぽつぽつ読んでくれている人がいて嬉しい( ᐛ)

ボーイミッツガールするところまで毎日2話投稿でがんばります。

神威が少しでもかわいいと思ってもらえたら、評価やコメントをいただけると作者が喜びます。

神威もたぶん尻尾を振ります。

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