↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月から落ちた少女と、神に愛された機械狼  作者: 玄達瀬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
101/159

第101話 月の舟(一)

白石島から、白い砂州へ戻った。


 月明かりの下、白い道は淡く光っている。


 左右には海があった。


 波は静かだ。


 だが、完全に眠っているわけではない。


 沖には、黒い影がいくつも見えた。


 大きな魚のようなもの。


 長い尾を持つもの。


 背びれだけを水面に出すもの。


 水の下で、ぼうっと光るもの。


 海の精霊獣たちだった。


 それらは近づいてこない。


 ただ、白い砂州を遠巻きに囲むように、ゆっくり動いていた。


「見られてるな」


 サトは小さく言った。


「はい」


 ツキハは月片を両手で包んだまま、海を見ていた。


 白兎端末の耳は、砂州の中央へ向いている。


「ですが、敵意は強くありません」


「じゃあ、何で集まってるんだ」


「月の精霊流です」


 ツキハは答えた。


「月竹がここへ沈められた時から、微弱な月の精霊流が漏れていたのだと思います」


「それに惹かれていた?」


「はい。餌というより、潮の呼び声に近い反応です」


「潮の呼び声」


「月の精霊流は、海の精霊流と相性がよいようです。海の精霊獣たちは、それを大きな潮の変化として感じ取っていた可能性があります」


 サトは沖の影を見た。


 村人たちは、白い道が現れてから大物が増えたと言っていた。


 だが、実際にはもっと前から寄っていたのかもしれない。


 月竹がこの場所に沈んだ時から。


 ただ、砂州が現れるまでは、その気配が人の暮らしへ届きにくかった。


 白い道ができたことで、潮の流れが変わり、漁場がずれ、網が破られ、村人にも異変として見えるようになった。


「本来なら、もっと荒れてたのか」


「はい」


 ツキハは白石島を振り返った。


 白い石は、月明かりの中で静かに光っている。


「ですが、和魂さまが月竹を包んでいました。月竹の反応には、和魂さまの精霊流が重なっています」


「だから、大物が集まっても暴れてない」


「可能性が高いです」


 神威が、わぅ、と鳴いた。


 胸元の勾玉の印が、淡く光っている。


 その光が広がるたび、周囲の精霊流が少しだけ丸くなる。


 押さえつけるのではない。


 追い払うのでもない。


 荒れたものを、ほんの少しだけ和らげる。


 神威は、いつになく真剣な顔をしていた。


「神威」


「わぅ」


「無理はするなよ」


「わぉん」


 サトは神威の頭を撫でた。


「きゅうん」


 サトは少しだけ笑った。


 笑えたことに、自分でも少し驚いた。


 これから何が起きるのか、分からない。


 月竹は目の前にある。


 探していたものが、ついにそこにある。


 けれど、胸の奥は期待だけではなかった。


 怖さもある。


 月の記憶。


 落下の記録。


 失われた何か。


 それらが、この白い砂の下に眠っている。


 サトはピッケルを握り直した。


 掘るためではない。


 壊すためでもない。


 何かが乱れた時、少しでも支えられるように。


     ◇


 白い砂州の中央から、少し離れた場所で足を止めた。


 月竹の反応は、砂州の中央の下にある。


 そこに立てば、月竹が浮かび上がる時に足元が崩れるかもしれない。


 サトは周囲を見て、砂州の端に近すぎず、中央を正面から見られる場所を選んだ。


「ここでいいか」


「はい」


 ツキハは月片を見つめた。


「ここなら、月竹の反応へ干渉できます」


「呼べるか」


「やってみます」


 ツキハは白い砂州の中央へ向き直った。


 白兎端末の耳が、ぴんと立つ。


 月片の光が強くなる。


「ツキハ」


「はい」


「怖いか」


 ツキハは少しだけ黙った。


 それから、頷いた。


「怖いです」


 珍しく、はっきり言った。


「月竹の中には、私が忘れているものがあるかもしれません」


「ああ」


「思い出したくないものも、あるかもしれません」


「ああ」


「ですが、確認しなければなりません」


「そうだな」


 神威がツキハのそばへ寄った。


「わぅ」


 ツキハは神威を見る。


「神威も、怖いですか」


「わぉん……」


「そうですか」


 ツキハは少しだけ目を伏せた。


「私もです」


 サトは二人を見た。


 月から来た少女。


 芽を生やした機械狼。


 どちらも、自分には分からないものを抱えている。


 けれど、分からないから離れる、という選択肢はもうなかった。


「一緒にいる」


 サトは言った。


 ツキハが顔を上げる。


「サト」


「何が出てきても、一緒に見る。思い出したくないものがあっても、一人で見なくていい」


 言ってから、サトは少し照れた。


 けれど、言い直さなかった。


「俺と神威もいる」


「わぉん」


 神威が胸を張った。


 今度は、調子に乗った顔ではなかった。


 頼もしい顔だった。


 ツキハは月片を握る手に、少しだけ力を込めた。


「適切です」


     ◇

神威が少しでもかわいいと思ってもらえたら、評価やコメントをいただけると作者が喜びます。



神威もたぶん尻尾を振ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。