03 試験
町へ出た受験者たちは、それぞれ違う方向へ散っていった。
一人で歩き出す者。
近くにいた者同士で話し合う者。
地図を開いたまま、体育館の前から動けずにいる者。
鼎も、その一人だった。
地図にはいくつかの目印がある。
神社。
橋。
古いトンネル。
道祖神。
だが、どこから調べろとは書かれていない。
「境界だと思った場所を記録しろ、か……」
境界を見た経験ならある。
ただ、あの山で鼎にできたのは、五和の後ろを歩くことだけだった。
止まれと言われれば止まり。
返事をするなと言われれば従う。
自分で境界を探したわけじゃない。
鼎は地図を見る。
一番近いのは、道祖神。
「……とりあえず、ここか」
理由はそれだけだった。
________
住宅地へ入る。
古い家と新しい家が入り交じった、ごく普通の町並みだった。
庭先では洗濯物が揺れている。
子どもたちが自転車で走り抜ける。
開け放たれた窓からテレビの音。
どこかの家からは、醤油の甘い匂い。
境界と呼べるようなものは、どこにも見当たらない。
電柱。
側溝。
細い路地。
空き家。
錆びた看板。
怪しいと思えば、何でも怪しく見えてくる。
――異変を見つけようとするな。
凪の言葉が頭をよぎった。
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「そっち、道祖神の方?」
突然、後ろから声がした。
振り返る。
体育館にいた女性だった。
肩まで伸びた明るい髪。
地図を片手に、鼎の隣へ並ぶ。
「たぶん」
「たぶんって何?」
「俺も地図見て歩いてるだけだから」
「そっか。じゃあ同じだ」
女性は気軽に笑った。
「安曇美羽。よろしく」
「千曲鼎」
「ちくま、かなえ?」
「ああ」
「へえ。珍しい名前。なんか格好いいじゃん」
「そうか?」
「一回聞いたら忘れなさそう」
美羽は地図を見る。
「これさ、別々に行けって意味なのかな」
「何も言われてない」
「じゃ、一緒でもいいってことじゃん」
「試験なのに?」
「駄目なら最初に言うでしょ」
そう言って、美羽は歩き出した。
「行かないの?」
「行くよ」
鼎もその後を追った。
________
数分歩くと、道の脇に小さな石像が見えた。
二体の人影が、寄り添うように彫られている。
表面は風雨に削られ、顔はほとんど分からない。
足元には、枯れかけた花。
日に焼けた空き缶。
「これかな」
美羽が石像の前へしゃがみ込む。
「道祖神って、もっとお地蔵さんみたいなの想像してた」
「場所によって違うんじゃないか」
「詳しい?」
「全然」
「知ったかじゃん」
「違うだろ」
美羽が笑った。
鼎は報告書を取り出す。
日時。
場所。
観測したこと。
備考。
鉛筆を持ったまま、止まる。
道祖神がある。
古い。
顔が削れている。
花が置いてある。
それは見れば分かる。
でも。
何を書けば、境界を調べたことになるんだ。
「何か分かった?」
「いや」
「私は分かった」
美羽が立ち上がる。
「古い」
「見れば分かる」
「あと、ちょっと怖い」
「それは感想だろ」
「感想も観測じゃないの?」
鼎は答えられなかった。
美羽が怖いと感じた。
それ自体は事実だ。
でも。
だから、この道祖神が怖いものだとは限らない。
鼎は報告書へ書き始めた。
道沿いに石像が二体。
表面は摩耗。
足元に枯れた花。
向きは――
「それ、南向いてないぞ」
背後から声がした。
振り返る。
短い髪の女性が立っていた。
体育館にいた受験者だ。
「道路側を向いてる」
鼎は石像を見る。
「道路側が南じゃないのか?」
「違う」
女性は地図を確認する。
「この道は東西」
鼎も地図を見る。
さっきまで南だと思っていた。
でも。
言われてみると、自信がない。
「松本葵」
女性はそれだけ名乗った。
美羽が笑う。
「安曇美羽。こっちは千曲鼎」
「どうも」
「一緒に回る?」
「別にいい」
素っ気ない。
けれど、葵はその場を離れなかった。
三人で地図を覗き込む。
葵が道を指した。
「私たちは、こっちから来た」
美羽が首を傾げる。
「でも、そこ川じゃない?」
地図を見る。
確かに川がある。
鼎にも、美羽にも。
川を渡った記憶はなかった。
「どこかで道を間違えた?」
鼎が言う。
「曲がってないよ」
美羽が即答する。
「ずっと真っすぐだった」
「いや、一回細い道を通っただろ」
「通ってないって」
「通ったよ」
「え、本気?」
美羽が鼎を見る。
冗談を言っている顔ではない。
鼎にも、嘘を言っているつもりはなかった。
古い木造の家。
壁に立て掛けられた錆びた自転車。
家と家の間を抜ける細い路地。
湿った苔。
土の匂い。
確かに通った。
――記憶を信じるな。
五和の声が蘇る。
鼎は口を閉じた。
自分が覚えていることと。
実際に起きたことが同じとは限らない。
なら。
美羽が間違っているとも限らない。
「どうしたの?」
「いや……」
鼎は地図を見る。
「どっちが正しいか、今は決めない方がいい」
「なんで?」
「分からないから」
美羽は少し納得していない顔をした。
その時。
向こうから一人の青年が歩いてきた。
鼎より少し年下に見える。
黒い髪。
白いシャツ。
目立つところはない。
それなのに。
近くまで来るまで、誰もその存在に気づかなかった。
青年は道祖神の前で足を止める。
美羽が声をかけた。
「ここ調べに来たの?」
「はい」
青年は小さく頭を下げる。
「秋山清次郎です」
「千曲鼎」
「安曇美羽」
「松本葵」
美羽が順番に示す。
秋山はもう一度、丁寧に会釈した。
若く見えるのに。
仕草だけが、妙に落ち着いている。
秋山は道祖神を見る。
触らない。
覗き込まない。
しばらく眺めてから、報告書へ何かを書いた。
「何か分かりました?」
鼎が尋ねる。
「いいえ」
秋山は答えた。
「何も」
「何て書いたの?」
美羽が覗き込もうとする。
「道祖神がある、と」
「それだけ?」
「今のところは」
迷いのない答えだった。
鼎は自分の報告書を見る。
石像の状態。
花。
向き。
色々書いた。
でも。
書けば書くほど、何を調べているのか分からなくなってきた。
「……向き」
葵が呟いた。
「何?」
「さっきと違わない?」
三人が道祖神を見る。
美羽が正面へ回る。
「そう?」
「道路側を向いていた」
「俺は最初、南だと思った」
鼎は報告書を見る。
そこには確かに、
『向きは南側』
と自分の字で書かれている。
だが。
いつ確認した?
地図を見た。
太陽も見た。
それだけだった気がする。
「秋山は?」
鼎が尋ねた。
「最初に見た向き、覚えてる?」
「覚えています」
「じゃあ――」
「でも」
秋山は道祖神を見た。
「覚えていることが、正しいとは限らないので」
鼎は黙った。
まただ。
五和と同じことを言っている。
「次、行く?」
美羽が地図を広げた。
「近いのは橋だな」
「今度こそ近いといいけど」
「地図では近い」
「さっきもそれ言ってた」
美羽が笑う。
葵はもう歩き始めていた。
「行かないの?」
「行く行く」
美羽が追いかける。
秋山も静かに歩き出した。
鼎は最後に、もう一度だけ道祖神を振り返った。
二体の石像が、道の脇に寄り添っている。
道路側を向いているようにも見える。
少し斜めを向いているだけにも見える。
もう、南がどちらなのか自信がなかった。
報告書を開く。
『向きは南側』
その下へ、一行だけ書き足した。
『再確認時、道路側を向いているように見えた』
動いたとは書かなかった。
境界とも書かなかった。
見えたことだけを書いた。
――記憶を信じるな。
五和の言葉が、少しだけ分かった気がした。
________
道祖神を離れた四人は、地図に記された橋へ向かった。
「いつの間に四人組になったんだろ」
美羽が歩きながら言う。
「一緒に行くとは言ってない」
葵が答えた。
「でも一緒に歩いてるじゃん」
「方向が同じだけ」
「それを一緒って言うんじゃない?」
葵は返事をしない。
その少し後ろを、秋山が静かについてくる。
鼎は地図を確認した。
橋までは一本道。
十分も歩けば着く。
――はずだった。
住宅街を歩く。
犬の鳴き声。
風に揺れる洗濯物。
遠くを走る車。
景色は少しずつ変わっている。
それなのに。
橋だけが見えてこない。
「まだ着かないね」
美羽が言った。
「もう十分以上歩いてない?」
「俺もそんな気がする」
鼎は地図を見る。
一本道。
曲がってはいない。
「今、何時?」
美羽に聞かれ、スマートフォンを見る。
「一時二十二分」
「え?」
美羽も自分の画面を確認した。
「私、一時四十六分だけど」
葵が左腕を見る。
「一時三十一分」
三人が顔を見合わせた。
全部違う。
鼎はスマートフォンを確認する。
電波は入っている。
通信も切れていない。
「故障……?」
「秋山君は?」
美羽が尋ねた。
秋山は首を横へ振る。
「時計は持っていません」
「え?」
「携帯電話もありません」
「じゃあ時間どうしてるの?」
秋山は空を見上げた。
傾き始めた太陽。
足元へ伸びる影。
「太陽を見ます」
三人もつられて空を見る。
「影の向きでも、おおよその時刻は分かります」
「そんなので分かるの?」
「十分です」
秋山は穏やかに答えた。
「日没までに戻る。それだけ分かれば困りません」
鼎は秋山を見る。
「時間、気にならないのか?」
「気にはなります」
秋山は少しだけ笑った。
「ですが、答えは出ません」
鼎は自分のスマートフォンへ目を落とした。
一時二十二分。
美羽は一時四十六分。
葵は一時三十一分。
どれが正しい。
そう考えたところで。
――時間を信じるな。
五和の声が頭をよぎった。
鼎はスマートフォンをポケットへ戻した。
________
「おい!」
後ろから声が飛んだ。
振り返る。
一人の男性がこちらへ歩いてくる。
三十代ほど。
体育館で質問をしていた受験者だった。
額には汗が浮かび、肩で息をしている。
「その先へ行くのか?」
「橋を探してます」
鼎が答えた。
「なら右だ」
男性は坂道を指差した。
「俺は向こうから来た」
葵が耳を澄ます。
「でも、川の音は左からする」
確かに聞こえる。
水の流れる音。
「音なんて反響してるだけだ」
男性は首を振った。
「左は行き止まりだった」
「どれくらい歩いたんですか?」
「三十分くらいだ」
「三十分……」
鼎はスマートフォンを見る。
一時二十二分。
変わっていない。
「俺たちは、十分くらい歩いた感覚です」
「そんなわけあるか」
男性は苦笑した。
「境界じゃあるまいし」
四人は顔を見合わせた。
男性はそのまま坂道を下っていく。
美羽が地図を見る。
「どうする?」
右。
左。
地図。
川の音。
時計。
誰かの記憶。
どれを信じる。
鼎は左の路地を見る。
「……橋を探そう」
「時間じゃなくて?」
「時間は、もう分からない」
鼎は川の音を聞く。
「だったら今は、橋を探す。それしか確かめようがない」
四人は左の路地へ入った。
数分も歩かないうちに。
小さな橋が見えた。
「あった!」
美羽が駆け寄る。
古びた欄干。
浅い川。
どこにでもありそうな橋だった。
鼎は報告書を開く。
橋一基。
川が流れている。
外見上、大きな異常は確認できない。
そして。
スマートフォンを見る。
一時二十二分。
まだ変わっていない。
「私は一時五十分」
美羽が言う。
「一時三十五分」
葵が腕時計を見る。
秋山だけが空を見上げていた。
「今日は、少し日が傾くのが早いですね」
鼎も空を見る。
でも。
それが何時を意味するのか。
もう考えるのをやめた。
報告書へ書き加える。
『四人が確認した時刻は一致しなかった』
原因は書かない。
時計が壊れたとも。
時間がおかしくなったとも。
境界だとも書かない。
見たことだけを残す。
――時間を信じるな。
あの時は意味の分からなかった五和の言葉が。
少しずつ、形を持ち始めていた。
________
橋を後にした四人は、地図へ視線を落とした。
残る目印は、古いトンネルと神社。
「次は古いトンネルか」
鼎が呟く。
「じゃあ、行こ!」
美羽が歩き出した。
四人もその後を追う。
住宅街を抜け、人通りの少ない道へ入った。
蝉の声だけが響いている。
「おーい!」
後ろから声が飛んできた。
振り返ると、一人の青年が小走りで駆け寄ってくる。
二十代半ばほど。
人懐っこい笑顔。
額には汗が滲んでいた。
「助かったー。やっと人に会えた」
青年は息を整えながら笑う。
「一人で歩いてたら、さすがに心細くてさ」
鼎が尋ねる。
「受験者ですか?」
「ああ」
青年は頷いた。
「辰野渉。よろしく」
四人も順番に名乗る。
辰野は安心したように笑った。
「これで五人か。心強いな」
自然と一緒に歩き始める。
しばらくすると、辰野が振り返った。
「みんな、水分ちゃんと取ってる?」
「暑いから無理するなよ」
「まだ平気!」
美羽がペットボトルを掲げる。
「ならよかった」
「辰野さん、引率の先生みたいですね」
鼎が言う。
「そんな歳に見える?」
「いや、そういう意味じゃなくて」
「今ちょっと傷ついたぞ」
「面倒見がいいって意味です」
「先にそっち言ってくれよ」
美羽が笑った。
葵もわずかに口元を緩める。
秋山だけは静かに歩いていた。
________
しばらくして。
鼎は足を止めた。
「……あれ?」
辰野が振り返る。
「どうした?」
鼎は周囲を見る。
古びた郵便受け。
曲がった電柱。
塀から伸びた柿の木。
「ここ……」
美羽も気づいた。
「さっき見なかった?」
葵が地図を開く。
「でも、歩いてはいる」
振り返る。
来た道は続いている。
前にも、同じような道が続いている。
秋山が周囲を見た。
「景色が変わっていませんね」
「またか……」
鼎は頭を掻いた。
道祖神では、記憶が食い違った。
橋では、時間が食い違った。
今度は。
道。
――道を信じるな。
五和の言葉が蘇る。
鼎は舗装された一本道を見る。
(道を信じるな……)
なら。
道を外れろ?
そう考えて、すぐに止めた。
それじゃ結局。
五和の言葉を正解だと思って、その通りに動いているだけだ。
鼎はもう一度、周囲を見る。
舗装路。
民家。
草むら。
そして地図。
「……なあ」
四人が鼎を見る。
「俺たち、なんでこの道歩いてるんだ?」
美羽が首を傾げる。
「なんでって……トンネルに行くため?」
「うん。でも」
鼎は足元を見る。
「この道を通れば着くって、誰か言ったっけ」
誰も答えなかった。
地図にはトンネルがある。
今いる道もある。
でも。
この道を歩けばトンネルへ着くとは、どこにも書いていない。
鼎は道の脇を見る。
草が伸びている。
踏み跡はない。
「……ちょっと試してみない?」
「そっち?」
美羽が草むらを見る。
「正解かどうかは知らない」
鼎は肩をすくめた。
「でも、このまま歩いてても同じ景色だし」
辰野が笑った。
「まあ、それはそうだな」
秋山も草むらを見る。
「反対はしません」
葵が地図を畳む。
「行けば分かる」
「それ一番雑じゃない?」
美羽が言った。
「じゃあ美羽は残る?」
「行くけど」
「行くんじゃん」
五人は舗装路を外れた。
草を踏む。
足元は悪い。
枝が服に引っ掛かる。
「これで何もなかったら?」
美羽が言う。
「戻る」
鼎が答える。
「普通」
「他にどうしろってんだよ」
しばらく進んだ、その先。
木々の隙間に。
灰色のものが見えた。
「……あれ」
蔦に覆われたコンクリート。
その中央に。
ぽっかりと黒い穴が開いている。
古いトンネルだった。
五人は足を止めた。
鼎は地図を見る。
確かに載っている。
だが。
舗装された道を歩いていた時には、見つけられなかった。
「……あったな」
辰野が言う。
「あったね」
美羽も答える。
鼎はトンネルを見る。
それから。
自分たちが外れてきた道を振り返った。
――道を信じるな。
少しだけ。
あの言葉の意味が分かった気がした。
道があるからといって。
そこを進むことが、正しいとは限らない。
________
五人はトンネルを抜けた。
目の前に、小さな神社が建っていた。
鳥居。
石段。
古びた社。
どこにでもありそうな神社だった。
「ここが最後か」
辰野が周囲を見る。
「調べてみよう」
葵が石段を上る。
鼎たちも後に続いた。
境界だと思った場所を記録する。
それが試験だった。
道祖神では、記憶が食い違った。
橋では、時間が食い違った。
トンネルへ向かう道では、同じ景色が続いた。
なら。
ここにも何かある。
鼎はそう考えた。
境内を見回す。
社の前には賽銭箱。
風に揺れる鈴。
脇には、お守りやおみくじ。
絵馬掛けには、いくつもの願い事が残されていた。
家族の健康。
受験合格。
商売繁盛。
誰かを想う願い。
「すごいね」
美羽が絵馬を眺める。
「こんなにあるんだ」
辰野も横から覗く。
「昔から、いろんな人が来てるんだろうな」
鼎は社の裏へ回った。
古い石碑。
小さな祠。
苔むした灯籠。
石碑を見る。
祠を見る。
灯籠の足元を見る。
何かないか。
何か。
境界だと思えるものが――
そこで、鼎は止まった。
――異変を見つけようとするな。
凪の言葉。
「……あ」
またやっていた。
何かがあるはずだと決めて。
それに合うものを探していた。
鼎は一度、石碑から離れた。
風が吹く。
木々が揺れる。
蝉が鳴いている。
それだけだった。
しばらくして。
五人は自然と鳥居の前へ集まった。
「どうだった?」
美羽が聞く。
辰野が苦笑する。
「何も分からなかった」
「私も」
葵も首を横に振る。
秋山は静かに社を見る。
「……特に、何も」
鼎も境内を振り返った。
願いがある。
人が訪れた跡もある。
古いものもある。
でも。
だから何なのか。
今の鼎には分からない。
報告書を開く。
少し考えて。
見たものだけを書いた。
境界とは書かなかった。
________
公民館へ戻る頃には、空が赤く染まり始めていた。
町の人たちが慌ただしく動いている。
提灯を運ぶ人。
太鼓を並べる人。
やぐらを組み立てる人。
「盆踊りの準備か」
辰野が呟く。
「なんか普通だね」
美羽が笑った。
「アカライなんだよな、ここ」
鼎も言う。
「たぶん」
「美羽まで自信なくすなよ」
少しだけ笑いが起きた。
一日中、訳の分からないものを追い続けていたせいか。
そんな普通の光景が、妙に落ち着いた。
その時。
凪が受験者たちの前へ立った。
「これで試験は終了です」
あちこちから息が漏れる。
終わった。
鼎も肩の力を抜いた。
「最後に」
凪が続ける。
「通過儀礼を行います」
「……終わってないじゃん」
鼎が小さく呟いた。
美羽が隣で笑った。




