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物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜  作者: 蒼猫
第一星期・始星 8ページ目

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9/13

「四季の旋律と沈黙の羅針盤」


「……あいつらもこのハチミツ目当てか」



 三千匹の羽音が荒野を震わせる中、ガルムは採取した小瓶の蓋をカチリと閉め、冷静に空を見上げた。ハチミツの強烈な甘い香りは、野生のキラービーたちにとって極上のご馳走なのだ。


 黒い絨毯のように空を埋め尽くす殺人蜂の大群。身動きの取れないエリアやルクスたちが息を呑む中、ハチミツまみれの巨大イノシシ『ガルガンチュア・ボア』もまた、その羽音に恐怖して暴れ狂おうとしていた。



「っ、……!」



 その時、ノアの瞳が鋭く光った。

 彼はハチミツに固められた足元など気にも留めず、愛用のノートを素早く開き、凄まじい速度でペンを走らせ始める。


 ノアの頭脳は、迫り来る三千匹の軌道、風向き、そして大気中の魔力濃度を一瞬で『記録』し、弾き出していた。口下手な彼の頭の中には、誰よりも饒舌で完璧な戦術の羅針盤コンパスが眠っているのだ。



「……イリス、……、……西、3」



 ぽつり、ぽつりと、ノアの口から断片的な言葉が零れ落ちる。他人には伝わらないその短い言葉の意図を、相棒であるイリスが汲み取れないはずがなかった。



「分かったわ、ノア! ――みんな、耳を塞いで!」



 子供サイズの愛らしい身体から、大気をビリビリと震わせるほどの雄大な自然のプレッシャーが解き放たれる。イリスは四季のエネルギーそのもの。彼女がその大きな羽を力強くはためかせると、荒野の熱風が一瞬にして凍てつくような『冬の冷気』へと変貌した。



「ノアの記録(指示)通りに……吹き荒れなさい! 『木枯らしの円舞曲ウィンター・ブラスト』!」



 イリスの手から放たれたのは、ノアが計算した「西向きの風の導線」を完璧になぞる、局所的な超低温の暴風だった。

 ハチミツの香りに釣られて一直線に突撃してきたキラービーの大群は、ノアの狙い通り、回避不能のタイミングでその極寒の烈風に正面から激突する。

 ブ、ブモ……!? と巨大イノシシが目を丸くする。



 三千匹のキラービーたちは、一瞬にして羽を凍りつかせ、ハチミツに触れることすらできずに、バラバラと地面へ身を落として気絶していった。完璧な誘導と、圧倒的な自然の力による一撃。二人の見事な連携に、ルクスは「すっげぇ……」と呆然と言葉を漏らした。



「ふぅ、やったわねノア! 『ボクたちの勝ちだね』って、今ノアの心がドヤ顔してるわ♪」



「……っ! ど、ドヤ顔なんて、してない……!」



 ――しかし、静寂が戻った荒野に、パキパキと不穏な音が鳴り響く。

 周囲一帯に吹き荒れたイリスの猛烈な冷気は、キラービーを落としただけでは終わらなかった。地面をドロドロに覆いつくしていたエリアのハチミツが、その超低温によって急速に冷却され、瞬く間に黄金色の琥珀のような『巨大な氷床』へと変貌していく。



 パリィィィィン!!!



 次の瞬間、凍りついたハチミツがガラス細工のように一斉にひび割れ、激しい音を立てて粉々に砕け散った。

 それはつまり、ルクスたちの足を完璧に束縛していた凶悪な粘着力が、完全に消滅したことを意味していた。ハチミツの檻から、ついに全員が解き放たれたのだ。

 だが、それは同時に……目の前の脅威をも完全に自由にしてしまうという事。




「グルルルル……ブモオオオオオオオオオッ!!!」




 足元のハチミツ氷を粉々に粉砕し、地鳴りのような咆哮をあげて『ガルガンチュア・ボア』が四肢を踏み鳴らした。怒りでその小さな目を血走らせ、山のような巨体を激しく震わせる。



 ハチミツのせいで自慢のたてがみがオールバックのままカチコチに固まったその姿は、マヌケであると同時に、限界まで怒り狂った凶暴な暴君そのものだった。巨大な鉄の牙が、今度こそ明確な敵意をはらんで自由になった6人を真っ向から見据える。



「みんな、足は動くようになったな!? 散れっ、ここからが本当の本番だ!」



 ルクスがハチミツの破片を蹴り飛ばしながら叫び、何でも屋『星屑の軌跡』フルメンバーと、大荒野の暴君。

 ハチミツと蜂のダブルパニックを乗り越えた6人の、反撃の決戦の火蓋が、いま激しく切って落とされようとしていた。




[次のページへ]

ノアとイリスコンビの活躍回でした!

ノアの演算とその演算に四季の能力で応える四季の能力。

お互いがお互いを理解してるからこそ、言葉数少なくても出せる連携!!



「面白いと思ったら、ページ下部の【☆】で評価やブックマークをいただけると励みになります!」


引き続き


物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜

を宜しくお願いします!


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