「お菓子と日記と妖精と」
真っ昼間だというのに、頭上には星が浮かんだ。
フィオナがそっと目を閉じ、運命の糸をたぐるように指先を編み合わせる。次の瞬間、彼女の頭上にぽつりと青白い光が灯った。それはまるで、深い夜空から切り取られてきたかのような、透き通った星の結晶だった。星は静かに自転しながら淡い燐光を放ち、彼女の顔を厳かに照らし出す。その瞳が開かれたとき、星はひときわ強くまたたき、まだ見ぬ未来のビジョンを彼女の脳裏に映し出し始めた。
視界は天井近くの高い位置にある。真下を見下ろせば、温かみのある部屋の光景が、まるで箱庭のように一画面に収まっていた。
まず目を引いたのは、部屋の片隅で圧倒的な存在感を放つ、岩塊のような大男の背中だ。
逞しく横に広がった広大な背中には、体格に全く似合わないエプロンの紐がちょこんと結ばれている。上空からの視点では、大男が大きな手を器用に動かし、小さな焼き菓子を丁寧に並べている微笑ましい光景がよく見えた。
そのすぐ横、壁には彼の身の丈ほどもある無骨な大剣が、今は役目を終えたように静かに立てかけられている。上から見下ろすと、大剣の尋常ではない刃の厚みと、男が着ているエプロンのギャップが、その場の平和な空気を何より雄弁に物語っていた。
大男の巨躯と対比するように、テーブルでは165センチほどの小柄な男の子がノートに向かっている。
上から見下ろす男の子のつむじと、彼が熱心にペンを走らせている手元が、星の光に照らされて鮮明に浮かび上がる。
そして男の子のすぐ傍ら。ふわりと淡い光をまとった小さな影が、優しく空間を漂っていた。
巡る四季の気配——芽吹く春の緑や夏、実りの秋の色彩に冬をその身に宿した美しい妖精だ。妖精はテーブルの端から、ノートを取る男の子の横顔を、まるでお姉さんのような優しい眼差しで見守っている。
大剣が放つ鈍色の光、甘い菓子の香り、そして四季が織りなす幻想的な空気。
異色すぎる3人が、奇跡的なバランスで調和している未来の光景。頭上の星がゆっくりと光を収束させていく中、フィオナは胸に温かいものを宿しながら、その愛おしいビジョンをじっと見つめていた。
星の瞬きが消え、意識が現実へと戻る。フィオナは見たばかりの予知のことを、ルクスたちへと伝えた。
>「あのね、お星さまが教えてくれたのはね、すご〜く大きな体の男の人がね、エプロンを着て美味しそうなお菓子を作ってて……その横で男の子がテーブルで何かを書いてて……その男の子を綺麗な妖精さんが隣で見つめてたよ♪」
それを聞いたルクスが「えっ? ‥‥‥」と思わず声を裏返らせ、持っていたマグカップを落としそうになった。
>「えっ? なになに? どうしたのよルクス?」
不思議そうに首を傾げるエリアを余所に、ルクスは驚きを隠せない様子で叫んだ。
>「それって……どう考えても、今、別件の仕事で遠征に行ってる3人のことじゃん!!」
>「3人ってどういうことなの? 私も知らないわよ! もしかして『星屑の軌跡』には、私たちの他にも所属メンバーがいるってこと!?」
エリアが詰め寄ると、ルクスは頬を掻きながら、まだ少し興奮した面持ちで頷いた。
>「実はそうなんだよ! あと3人、何でも屋『星屑の軌跡』に所属してるメンバーがいるんだ。でも、フィオナが今見た予知に映ってた人の特徴が、その3人と完全に一致しててさ……。まだ会ったこともないのにその3人の存在を言い当ててしまうフィオナの未来予知に本当にビックリしちゃって!」
>「それなら早く言ってくれればよかったのに!でも、これからの楽しみが更に増えたわね!えへへ!その3人と早く会ってみたいわ!」
エリアが目を輝かせると、フィオナも嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。
>「フィオナも早く妖精さんに会いたいな♪あとあのお菓子すご〜く美味しそうだったな〜♪」
そんな賑やかな会話を交わしてから、数日後。
新たな依頼が入ったルクスたちは、あらゆる現場へと向かい、駆け巡っていった。
『果物の収穫』『貨物の運搬』『逃げ出したペットの捜索』『カメラマン』
数日間の仕事を色々有りながらも無事達成させ、帰路に向かうのだった。
>ー>ー>ー>ー>ー>ー>ー>ー>ー>ー>
>「ただいまぁ〜、街を駆け回りまくってもう、くたくた……」
怒涛の仕事をどうにか終わらせて帰還したルクスが、拠点の重い扉を押し開け、エリアとフィオナを連れて中へと入った、その瞬間だった。
3人の動きが、ピタリと止まる。
疲労困憊の鼻腔をくすぐったのは、香ばしく、どこまでも甘い焼き菓子の匂い。
ーーそして。
天井近くからの俯瞰で見下ろせば、そこには数日前にフィオナが予知したあの光景が、文字通り『一寸の狂いもなく』再現されていた。
壁には、役目を終えたように静かに立てかけられた無骨な大剣。
その横では、岩塊のような背中に可愛らしいエプロンの紐をちょこんと結んだ大男が、大きな手で器用に焼き菓子を皿に並べている。
>「おっ!ルクス!久しぶりだな〜おかえり。遠征の仕事、今終わって戻ったところだ。ちょうど茶の準備をしていてな!」
渋い重低音の声を優しく響かせるエプロン姿の大男――ガルムの横のテーブルでは165cmほどの小柄な男の子、ノアが熱心に日記を書いていた。
そしてノアのすぐ傍ら。春夏秋冬の色彩をまとった四季の妖精イリスが、ふわりと空間を漂いながら、彼のペンを走らせる手元を優しい眼差しで見守っている。
>「ほら、見て……お星さまの言った通りでしょ?」
フィオナがルクスの服の裾を引っ張り、勝ち誇ったようにふふっと微笑む。
ルクスは、完全に開いた口が塞がらない。
>「マジで予知のまんまじゃん……!!」
ルクスの盛大なツッコミが室内に響き渡る。
遠征先から戻ったばかりの3人が「一体なんのことだ?」と不思議そうに首を傾げる中、何でも屋の新たな賑やかな日常が、ここから幕を開けるのだった。
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物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』
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