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物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜  作者: 蒼猫
9ページ目

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「チーム『お茶会』の終幕」

 


 ――ゴォォォォォォンッ!!!!


 遠くの滝壺の方から、すっごく大きな雷の音が響いた。ガルムとノアが戦っているんだ。だったら、わたしも頑張らなくちゃ!

 町の集落の広場には、逃げ遅れて怯えている人たちがたくさんいた。頭上からは、さっきよりもずっと冷たくて重たい、大きな雨の弾丸がパラパラと降ってきている。このままじゃみんな怪我しちゃう。

 わたしは虹色の羽を大きく広げて、空中にふわりと飛び上がった。町のみんなを安全な場所まで避難させて、被害を最小限に抑える為に。わたしは深く息を吸い込んで、大好きな風の力を借りて、おっきな防御空間を創り出した。


「『風神の聖域エアロ・サンクチュアリー』!!」


 わたしの呼び声に応えて、集落全体を包み込むように巨大な翠色の光のドームが広がっていき、聖域の中には、傷ついた心を癒すような心地よい優しい風が舞う。

 ドームの外側の外球には、襲いかかる雨の弾丸を全て切り刻んで弾く、無数の『風の刃』が激しく纏う。


 ドバババババババッ!!!


 上空から落ちてきた鉛の雨弾が、聖域の壁に触れた瞬間に粉々に砕け散っていく。よし、これで村のみんなは安全だよ!


「妖精様、なんと礼を言ったら良いか……。どうか、『アメフラシ』様のことを何卒よろしくお願い申し上げます」


「『アメフラシ』様のことは任せて!!ガルム!ノア!わたしも今から助けに行くからね!」


「――カシャ」



 ガルムさんが滝壺の裏に潜り込んでから、暴れ狂っていた濁流が、先程より弱くなっている気がする……。今なら、僕でも滝壺の裏へ行けるかもしれない。大丈夫……きっと上手くいく。恐怖を乗り越えて、もっとみんなの役に立ちたいんだ……!


「ノ――ア――!!大丈夫――!?」


「……イリス!?なんでここに!?それより町のみんなの避難は済んだの?」


「うん♪もう大丈夫だよ!わたしの風の防御空間の中に避難してる!」


「……よかった。――ねぇ、イリス。ガルムさんの手助けに行こう!ガルムさんだけに任せぱなしはダメだ。僕たちは何でも屋『星屑の軌跡』のチーム『お茶会』……だから力を貸してほしい!!」


 声を大にして叫んだ僕を見て、イリスは驚いたように目を丸くした後、嬉しそうに目を細めた。


「うふふ♪今日のノアは自分の本音を、言葉で、真っ直ぐ伝えてくれたね!わたし嬉しい♪もちろん!わたしはノアと契約する相棒なんだから!力を合わせてガルムの手助けに行きましょう♪」


 イリスの虹色の羽が、激しい雨を払うように強く輝く。頼もしい相棒の笑顔に背中を押され、僕は自分の足で、ガルムさんがいる決戦の滝壺へと力強く走り出した。


 ――ゴオォォォォォッ!!


 しかし、僕たちの接近を拒むように、滝壺から溢れ出た大蛇のような濁流が再び鎌首をもたげ、凄まじい質量で押し寄せてくる。まともに喰らえば一瞬で押し流される。けど、ここは素早く抜け出したい。


「イリス! 迫り来る濁流を冷気で固めて動きを止めて! この場は一気に突き進むよ!」


「任せて!! ――『モード・氷華ひょうか』」


 イリスが小さく呟いた瞬間、世界が一変した。

 イリスの周囲を降り続けていた激しい雨が、一瞬にして幻想的なダイヤモンドダスト――美しい雪へと姿を変える。圧倒的な冷気の波動が彼女の身体を優しく纏い、光が弾けた。

 氷の結晶を散りばめたような、美しくもどこか神聖な白銀のドレス姿へと移り変わった、四季の妖精の真の姿だった。


「凍っちゃえーー!!」


 白銀のドレスを翻し、イリスが可憐に手をかざす。彼女の指先から放たれた絶対零度の冷気が、押し寄せる濁流へと直撃した。


 ――バリバリバリバリッ!!!


 轟音を立てて暴れ狂っていた濁流が、触れた端から瞬く間に白く凍りつき、巨大な氷の彫刻となってその動きを完全に停止させる。


「よし……っ! 完璧だ、イリス!」


 目の前に現れた「凍りついた濁流の道」を見上げながら、僕はイリスの手を取って一気に突き進んだ。凍りついた波の斜面を駆け上がり、ついに暴れ狂う嵐の最深部ーー決戦の滝壺の裏へと飛び込む。

 しかし、そこで僕たちの目に飛び込んできた光景に、息が止まりそうになった。


「ガルムさん……!! ご無事ですか!?」


 大剣を地面に突き立て、全身から激しく煙を上げながら膝をつくガルムさんの姿。

 そしてその奥、悶えるアメフラシ様の胸元で、ドクドクと不気味に明滅している『白い発光物』。


(……っ! アレは一体なんだ……!? 本で見たどの幻獣の生態模写にも、魔力の術式にも載っていない。見たこともない、得体の知れないエネルギー体だ……!)


 初めて見る未知の物質に全身の血の気が引いていく。だけど、ガルムさんはボロボロの身体で不敵に牙を剥き、僕たちを振り返った。


「おう、ノアにイリスか……! 悪りぃな、ちっとばかり派手な花火を喰らっちまった! ――だが、あのアレを駆除しねぇと終わらねぇぞ」


「……はい! あの胸元の白い光、あれが『アメフラシ』様の精神を侵している元凶。更には雷のエネルギーを吸って膨張しています。物質の正体までは分かりませんが……エネルギーの構造だけなら、今、その場で演算し直します……!」


 僕は濡れるのも構わず目を凝らし、脳内のノートを猛スピードでめくった。白く明滅するノイズの周期、吸収される雷の指向性――バチバチと脳裏で火花が散るほどの超高速演算が、霧の向こうの答えを導き出す。


「――出た! ガルムさん、次に落ちる雷は三方向から同時に僕らへ目掛けて落ちてくるのをイリスの氷鏡で反射させて、あの発光体に直接ぶつければ、あの発光体だけを外側に剥離させられます!」


「なるほどな……! 弾き飛ばすんじゃなく、あいつ自身の力を利用してぶち抜くってわけか。イリス、合わせられるか!?」


「うん! ノアの計算通りに氷の鏡を作ればいいんだよね! 任せて!」


 白銀のドレスを纏ったイリスが、宙でくるりと舞いアメフラシ様の頭上に、巨大な氷の結晶の鏡が幾重にも形成されていく。


 ――グルアァァァァァァァァッ!!!


 侵入者の増加に怒り狂ったアメフラシが、再び天へ向けて翼を広げた。狂気の瞳が赤黒く染まり、先程を遥かに凌駕する超巨大な雷霆が、天から真っ直ぐ僕たち目がけて振り下ろされる――!


「今だっ!!! イリス!!」

「いっけえええええええ!!」


 ――ドグワァァァァァァァンッ!!!!


 僕たちを目掛けて落ちる雷が、イリスの創り出した氷華の鏡どうしの連続反射よって、雷のエネルギーが更なる超高エネルギーを生み出し、完璧な角度で屈折し、凄まじい閃光となってアメフラシ様自身の胸元――『白い発光体』の核心へと直撃した。


 ――ピキィィィィィィィンッ!!!


 聖獣の悲鳴と共に、胸元にこびりついていた得体の知れない白い粒子が、ガラスのようにバリバリと音を立てて砕け散り、外側へと弾き飛ばされていく。剥き出しになった光の核が、空中で苦しげに明滅した。



「――カシャ」



「よくやった二人とも……!! ――あとは、大人の仕事だッ!!」


 痺れる両腕に、ありったけの力を込める。

 ノアが道を拓き、イリスが暴走の元凶となるアレを引き剥がした。ならば、この大剣がやるべきことはただ一つ。守護獣の肉体を傷つけることなく、あの得体の知れないアレだけを塵に還す!


「おおおおおおおッ!!! ――これで、本来の町の守護獣として連れて帰るぞ!!」


 地面を踏み荒らし、高く跳躍する。

 大剣を頭上へと振り上げ、剥き出しになった白い光の核めがけて、渾身の力で一刀両断に振り下ろした。


「『鋼鉄・一屠斬ごうてつ・いっとうざん――!!』」


 ――ズバァァァァァァァァンッ!!!!!


 大剣の刃が白い核を捉えた瞬間、眩い光が爆散し、滝裏を白一色の世界へと染め上げた。耳障りなノイズ音が消え去り、粒子がサラサラと光の塵になって雨の中に溶けていく。


 ……ハァ、ハァ、ハァ……。


 ゆっくりと視界が戻ってくる。

 大剣を地面に突き立てて荒い息を吐く俺の目の前で、赤黒かった『アメフラシ』の瞳が、本来の美しい静かな蒼へと戻っていった。

 アメフラシは、優しく透き通った声で「……助けてくれて……ありがとう」と俺たちへ感謝の言葉を伝え、そのまま天へと高く舞い上がっていく。

 ――ザ―……、サァァァァ……。


 気づけば、一週間もの間集落を苦しめていたあの豪雨が、嘘のように止んでいた。

 重く垂れ込めていた鈍色の雲の隙間から、暖かな一筋の太陽の光が、滝壺へと差し込んでくる。


「ふぅ……。終わった、な」

「ガルムさん!!」

「ガルムお疲れ様ーーっ!」


 白銀のドレス姿からいつもの虹の羽を生やした姿にへと戻ったイリスと、額の汗を拭きながら安心したように笑うノアが駆け寄ってくる。俺はフードを脱ぎ、二人の頭を豪快に撫で回した。


「最高のサポートだったぞ、二人とも。これでブルームタウンに帰ったら、特大のパフェで『お茶会』だな!」


 差し込む陽光に照らされながら、俺たちは確かな達成感を胸に、集落へと歩き出した。

 集落へと辿り着くとイリスが町の住人を保護する、風の防御空間を解除し、長老へ依頼完了の報告をした。


「あ、ありがとうございます……本当になんと礼を言ったら良いか……。『アメフラシ』様をお救いくださり誠にありがとうございました!!私たちは貴方様方への恩を忘れず、友好関係をここに結ばせてはいただけないだろうか……」


「礼には及ばん!!コレが俺たち何でも屋『星屑の軌跡』の仕事さ!また何かあったら依頼待ってるぜ!」


 こうして町への水被害を食い止め、『アメフラシ』を救った英雄として、俺たちの活躍は何でも屋『星屑の軌跡』の名をさらに広めるキッカケにもなったのだった。


「――さぁ!ウチへ帰ろうか!帰ったら今日のデザートはパフェだ!」

「やったー!!早く帰ろう♪」

「僕、もうくたくただよ……」


(うーん……。今回の守護獣の暴走の引き金となったあの謎の発光体については、分からずじまいのままだが、久しぶりにアイツに会ってこの出来事を話してもいいかもな……)



「――カシャ」



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引き続き


物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜

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