「雨を穿つ大剣」
今回、一人称視点で書いてみました!
「ーーカシャ」の音が鳴るたびに場面が変わり、3人それぞれの目線に挑戦!
――ザ――――――……。
叩きつける雨が、俺のフードを容赦なく濡らしていく。
雷光の中に浮かび上がった守護獣『アメフラシ』の巨大は、神々しくも、余りにも痛々しかった。透き通る蒼い翼を激しく羽ばたかせるたび、天へ逆巻く滝が生き物のようにうねり、巨大な水柱となって俺たちの頭上から降り注いでくる。
普通なら、誰もが恐怖で足を止める絶望的な光景だろう。
だが、俺の心は驚くほど静かだった。
「……暴れている奴の叫びが『助けて』なら、助ける」
口にして、自分自身に言い聞かせるように大剣の柄を固く握り直す。
この剣は、ただ敵を討ち滅ぼす為のものじゃない。誰かの涙を払い、大切な場所を守る為に俺が背負うと決めたものだ。
俺には、この背中に背負っている「宝物」がある。
未来を担う小さな二人の前で、大人が無様に背中を見せる訳にはいかないだろう。
「ノア、イリス、作戦開始だ!!散れっ! 」
指示を出すと同時に、迷わず濁流の中へと一歩を踏み出す。
俺が正面で全ての攻撃を受け止める。だからお前たちは、自分の信じる道を全力で駆け抜けてくれ。
「――カシャ」
「任せてー!」
ガルムに大きな声で返事をして、わたしは雨合羽から突き出る虹色の羽を羽ばたかせながら、鬱蒼とした木々が生い茂る大森林を猛スピードで飛び抜け、荒れ狂う滝には目もくれず、集落の方へと向かった。
怖くないかって?全然! だってガルムが「敵じゃない」って言ったんだもん。ノアだって一生懸命道を割り出してくれている。だったら、わたしがやるべき事は一つだけ。
「みんな、こっちだよ!大丈夫、ガルムとノアが絶対に『アメフラシ』様を助けるから!だから今は、わたしと一緒に安全な所に逃げよう!」
胸を張って、怯える町の人たちを引っ張る。わたしは何でも屋『星屑の軌跡』のノアと契約する、四季を司る妖精イリス。町のみんなは、わたしが絶対守ってみせる。
「ーーカシャ」
「……うん。分かった。探してみる」
雨に濡れた前髪を、震える指先で払う。
正直に言えば、足がすくんで動けなくなりそうだった。滝壺から溢れ出た濁流は大蛇のように暴れ狂い、一本一本の水流が周囲の岩を粉々に砕いている。近づけば、僕のような小さな身体なんて一瞬で飲み込まれて消えてしまうだろう。
だけど、ガルムさんは僕の力を信じて「流れを見ろ」と言ってくれた。
だったら、怖がっている暇なんてない。……だけど、この激しい雨の中では大切なノートを使えない。
(ダメだ、考えろ……。僕の頭の中に、全ての流れを書き込むんだ!)
目を凝らし、脳内のノートに荒れ狂う濁流の軌跡を猛スピードで描いていく。
水流の速度、岩にぶつかる周期、飛び散る飛沫の角度――。天才的な演算が、脳裏でバチバチと音を立てて火花を散らす。
その時、荒れ狂う濁流の奥、滝の左側にほんの一瞬だけ、規則的に水流が途切れる「瞬間」が見えた。
「ガルムさん!滝の左側、あの突き出た岩の裏側です!あそこを抜ければ、『アメフラシ』様の真下まで行ける最短の『道』があります!濁流の周期は四秒に一回――今です、走って! 」
声を振り絞って叫ぶ。僕の言葉を信じて、ガルムさんの巨大な背中が風を切って飛び出した。
「――カシャ」
「よくやった!ノア!」
本当に、ウチの若い連中は頼るになる。
迫り来る水流の水柱を大剣の腹で強引に弾き飛ばし、飛沫の中静かにカウントを刻む。
……一。
……ニ。
……三。
……四。
――今、このタイミングだ。
ノアの演算通り、一瞬だけ荒れ狂う水流の格子が綺麗に消失する。
俺は地面を踏みちぎらんばかりの勢いで地を蹴り、その「風穴」へと巨大な体躯を滑り込ませた。
水流の壁を潜り抜けた先は、不自然なほどに静まり返った滝の真下――守護獣『アメフラシ』の玉座だった。
だが、見上げたその光景に、俺は思わず奥歯を噛み締めた。
「……これは、一体どういうことだ……!?」
天を覆うほどの蒼き翼。美しく透き通っていたはずのその半身は、今やひび割れたガラスのように酷く損壊していた。
そしてその傷口には、ドクドクと脈打つように『白い発光体』がびっしりとこびりつき、聖獣の精神を内部から蝕んでいる。
(いかにもあの白く発光しているヤツが今回の原因に違いない。それにしてもアレはなんだ?見たことはないが、要するにあの白く発光している得体の知れないアレを駆除すればいいってことか……。)
ーーア、ツ……ゥ……ガハッ……タ、タス……ケ……テ
苦しげに悶える巨躯を見上げ、俺は口元に不適な苦笑いを浮かべた。
「おいおい、何でも屋への依頼にしちゃ、少々世界崩壊の規模がデカすぎやしないか……?」
呆れ混じりに呟きながらも、俺は肩の大剣を正面へと構え直す。
バグ粒子に侵された『アメフラシ』の瞳が、侵入者である俺を捉え、ギラリと赤く狂気に染まった。
――グルアァァァァァァッ!!!
鼓膜を震わせる守護獣の咆哮が、狭い滝裏の岩肌に激しく木霊する。
狂気に染まった『アメフラシ』の蒼き翼が翻った瞬間、上空の雲がさらに歪み、もはや天から川がそのまま落ちてきたかのような猛烈な豪雨が俺を襲った。
――ドスっ!ドスっ!ドスっ!
それは雨などという生易しいものではない。一粒一粒が鉛の塊になったかのような、容赦のない雨の弾丸。それが無数に、超高速で頭上から振り落とされる。まともに喰らえば骨ごと砕かれかねない質量の一撃が、逃げ場のない滝裏を埋め尽くしていく。
「ちっ、本気で町ごと俺たちを叩き潰す気か……! 」
だが、ここで退けば背後の町が沈む。若い連中の努力も水の泡だ。俺は息を深く吐きだし、身体の芯に力を込めた。
「おおおおおおおっ!!」
身の丈ほどのある大剣を構え、その強固の大剣の腹を背に受けるようにして、己の肉体を軸に――高速回転を始める。
――ギィィィン!バガガガガガガッ!!
大剣の腹が、超高速の盾となって雨の弾丸を次々と弾き飛ばす。激しい水飛沫が周囲に飛び散り、回転の遠心力によって強烈な「竜巻」が巻き起こる。荒れ狂う雨の弾丸を強引に捻り伏せ、弾き、力ずくで安全圏を削り出していく。
(……見えた。『アメフラシ』の真下、あの白い発光体が集まっている胸元――!)
雨を穿ち、嵐を裂きながら、俺は超高速回転の勢いのまま巨躯の聖獣へと突撃する。一気に勝負を決めるべく、回転の遠心力を全て乗せて大剣を縦へと構え直し、眩く光る発光体へと突きつけようとした――その瞬間だった。
まるで天までが『アメフラシ』の狂気に味方をつけたかのように、世界が真っ白に染まる。
――ドグワァァァァァァァンッ!!!!
鼓膜を引き裂く咆哮と共に、天の怒りの如き巨大な雷霆が、突き出た俺の大剣の切っ先目掛けて容赦なく落ちてきた。
「ッ――ガァァァァァァァァァッ!!?」
凄まじい衝撃と熱量が、鉄塊の大剣を通じて両腕から全身へと駆け巡る。
視界が火花で焼き切れそうになり、全身の筋肉が強烈な電撃で悲鳴をあげた。足元の石盤が木っ端微塵に弾け飛び、俺の巨躯は強引に後方へと吹き飛ばされる。
泥水に叩きつけられ、大剣を支えにどうにか膝を突く。
煙を上げる両腕は痺れ、感覚が半分麻痺していた。
(くそっ……!懐に入らせない為に、自分の真下に雷を落としやがったか……)
焦げるような匂いが漂う中、見上げた『アメフラシ』の胸元のバグ粒子は、なおも不気味に明滅を繰り返している。守護獣の力とバグの侵食が混ざり合い、嵐の威力は更に増していく。
「ーーカシャ」
[次のページへ]
面白いと思ったら、ページ下部の【☆】で評価やブックマークをいただけると励みになります!」
引き続き
物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜
を宜しくお願いします!




