「GATE・BT01」
オォォォォーーン!!
オォォォォーーン!!
静寂だった白銀の空間に、突如として鼓膜を震わせる苛烈なサイレンが鳴り響く。
『――警告。侵入者発見』
『――警告。侵入者発見』
『システムに登録のない不確定要素が『GATE・BT01』より侵入しました』
『団員は直ちに『GATE・BT01』へ急行せよ。繰り返す、団員は直ちに『GATE・BT01』へ急行せよ』
無機質なアナウンスが響き渡り、周囲の魔術灯が一斉に警戒を示す赤色へと染まっていく。
「な、何ごと!?」
「ちょっと待て……『GATE・BT01』って、もしかして俺たちが今出てきたこのワープポイントのことじゃねえか!?」
「えっ……!? じ、じゃあ侵入者って……」
エリアとルクスが顔を見合わせ、最後にフィオナが自分自身を指さす。
そう、アストレア王国の心臓部たる『エデン』のセキュリティは、決してガバガバなどではなかった。
本来、騎士団員は全員、胸元に「固有の識別番号が振られた専用エンブレム」を着用している。
ワープゲートを潜る際、センサーが『登録された生体情報』と『エンブレムの番号』を瞬時に照合するシステムになっており、たとえ他人のエンブレムを盗んで偽装しようとも、生体反応の不一致で一発で弾かれる仕組みなのだ。
ましてや、エンブレムすら持たずにノーモーションで突っ込んできたルクスたちは、セキュリティから見れば「システムを完全に無視して現れた最上級のバグ(侵入者)」以外の何物でもなかった。
「ちょっとおおおおお!! 牢獄に入れられないように早く報告しに来たのに、来る早々テロリスト扱いじゃないのよ―――!!」
ドタドタと遠くから、無数の鎧の地面に当たる足音と魔導兵器の駆動音がこちらに向かって猛スピードで迫ってくる。
「侵入者どもそこに跪け!!」
一瞬にして数十人の兵。一斉にワープゲートを完全包囲する。逃げ場などどこにもない。
赤く明滅する警告灯の中、中央の兵を左右に割って入ってきたのは、白銀の髪に鋭い眼光を光らせた『エデン騎士団』団長――ゼノ・アルカードだった。
だが、侵入者たちの顔がゼノの目に入った瞬間、最強の騎士団長の動きがピタリと止まる。
ゼノは視線をゆっくりと空へ移し、ガシッと頭を押さえた。
「……ハァ―――――……」
胃の底から絞り出すような深い溜め息を吐き、再び視線をルクスたちへと戻す。そこにあるのは、怒りよりも先に限界を迎えた「呆れ」の感情だった。
「……貴様らは、我が本部のど真ん中で何をやっている?」
「違います! 俺たちは、依頼(ハルモニアのバグのような粒子調査)の報告をしに来ただけなんです!!」
ゼノは再び「ハァー」と重いため息を吐き、冷徹な声で質問を変えた。
「ならば質問を変えよう。……どうやって、ここ(エデン最高機密のワープルート)への行き方を知った?」
返答を一歩間違えれば、今度こそ本当に冷たい塀の中に投獄されてしまう絶体絶命の局面。
ルクスの脳裏に、情報を提供してくれた『星屑の裏庭』のイヌガミの顔が浮かぶ。
「(……いや、待てよ。ここで情報屋のイヌガミを売るのは、流石に俺自身のプライドが許さねえ。……だが、この状況を完璧に打開できる、最高の擦りつけ先があるじゃねえか!)」
この国家機密レベルの情報を外に漏らした犯人が、この場にいる。
ルクスは口元に不敵な笑みを浮かべた。まるで難事件を解決した名探偵のように、顎をそっと摩りながら、包囲網の奥へと鋭い視線を向ける。
「ゼノさん! 実はこの国家機密レベルの情報を外部に漏らした犯人が、まさにこの騎士団の中にいるんですよ! ……そうですよね? 肉に釣られてホイホイ情報を漏らしちまった、遊撃隊隊長の……フェンさん!!」
ビシィッ!!! と、ルクスは完璧なキメ顔で、兵たちの後ろからピコピコと獣の耳を覗かせていた女性騎士を指差した。
「えっ!!? わ、わたし?情報を漏らすなんてそんな事しないよ──!」
ゼノは、今日一番の深さと重さを含んだ溜め息を吐き出した。限界突破した頭痛に襲われるゼノの背後から、カイルが手際よく新しい頭痛薬と水をスッと差し出す。
「団長、落ち着いてください。水と薬です。……安心してください。まだ薬はあります。」
「すまない、カイル……ゴクッ。……っ、フェェェェェェン!!!!」
薬を飲み下すや否や、ゼノの怒声が『エデン』の城内に大音量で轟き渡った。
フェンが耳を垂れ下げながらゼノの前で、跪く。
「団長!わたしは悪くないですあれは、この世のすべてを狂わせる『肉の悪魔』の恐るべき誘惑に、わたしの野生が敗北しただけで――」
「黙れフェン!! 貴様というやつはいつもいつも肉が絡むと国家機密だろうが規律だろうが全部胃袋に放り込みおって!! 」
大剣を鞘に収めたゼノ団長の、地を這うような怒涛の説教が炸裂した。仁王立ちのゼノから放たれる説教の圧は、並の魔獣なら気絶するレベルの迫力である。
その横で、ルクスはしゃがみ込んで耳を塞いでいるフェンを冷ややかな目で見下ろしながら、フィオナの肩にそっと手を置いた。
「いいか、フィオナ。あそこでゼノさんに死ぬほど怒られてる獣耳のお姉さんみたいになっちゃダメだぞ。秘密をバラすと、ああなるからな!」
「うん!分かった♪フィオナ、気をつける♪」
純粋な目でコクコクと頷くフィオナ。その隣では、エリアがほっと胸をなでおろしていた。
「ふぅ〜、よかったわ! フェンのおかげで完全にヘイトが向こうに逸れたじゃない! これで冷たい牢屋に投獄されなくて済みそうね、えへへ♪」
しかし、世の中そんなに甘くはなかった。
「――おい、そこの『歩く天災』ども」
フェンへの説教を一通り終え、息を切らせたゼノ団長が、ギロリと冷徹な眼光をルクスとエリアに向けた。額の青筋はまだ消えていない。
「ひぇっ!?」
「……お前たち、フェンを売って自分たちだけ助かったような顔をしているが、当然お前たちも同罪だぞ」
「ええっ!? なんでだよゼノさん! 情報を漏らしたのはそっちの部下だろ!?」
「ワープポイントの機密を知ったことと、『それを実際に通過して勝手にエデン最深部に不法侵入したこと』は完全に別問題だと言っている!! 」
「だって、そもそも上層界への行き方なんて知らなくて、行き方がこの方法しか分からなかったんですよ!」
「だからといってテロリストばりの強行突破を選ぶ奴があるかァァァ!!!(ズキズキズキッ)」
「カイル、薬だ……」
「団長、もうさっき飲みました。本日、もう既に4錠目です。これ以上は胃に穴が空きます」
ようやく通路のサイレンが鳴り止んだ。
全員がたっぷりとお説教を食らい、ぐったりとした空気の中、ゼノは深くため息を吐いて鎧を正した。
「はぁ……。不法侵入の件の細かい処分は追って下す。だが、お前たちがわざわざリスクを冒してここまで来たということは……そういうことなのだろう?」
ゼノの言葉に、ルクスは表情を引き締め、カメラのストラップを握り直した。
「はい。ゼノさんに依頼された、ハルモニア周辺の『バグのような粒子』の調査報告です。……かなりヤバいものを見てきたよ」
「ふむ。立ち話にするには内容が重そうだな。……全員、私の局長室へ来い。そこで詳しい話を聞こう」
ゼノ団長の号令の元、一行は重厚なエデン本部の廊下を渡り、管理局長室へと移動することになった。局長室の重厚な扉が静かに閉まり、エデンの空気が一段と張り詰める。
ついに、ハルモニアでルクスたちが手に入れた情報と世界の異変――王国特務管理局『エデン』の局長室で『報告会』が幕を開ける。
[次のページへ]




