「星占い再び。フィオナの未来予知」
「焼鳥の話はそれぐらいにして、まだ捕まえてもないし、そもそも食べる前提で話を進めないでください!!」
ルクスが頭を抱えながら声を大にすると、店長は「ガハハ!冗談だ!!」と豪快に笑ってルクスの背中をパチンと叩いた。
ルクスはどうにか脱線しかけた思考を引っ掴んで元の軌道へと戻し、表情をすっと引き締める。
「肉眼では見えるのに『千里眼』には映らない孔雀。そして、店長の机の上からいつの間にか消えてしまった正体不明の依頼書……。この不可解な事実を抱えたままでいるのは流石にまずい……」
すぐにでもエデンの騎士団のゼノのもとへと赴き、調査報告を行うことを決めたルクスは隣のエリアを振り返った。
「エリア、この足でエデン騎士団のゼノ団長のもとへ報告に向かうぞ」
「そうね! 団長さんなら何か知っているかもしれないわ!」
――ガチャ。
ルクスたちが店を出ようとしたその時、小気味よい音を立ててフロントのドアが開いた。
「店長さん♪ただいま♪」
ドアの向こうから現れたのは、フィオナだ。どうやら、引き受けていた依頼の仕事を終わらせて丁度帰ってきたところらしい。
「おう!ただいま!どうだ、初めての一人での依頼は、上手くいったか?ガハハ!」
「うん♪バッチリだよ♪」
フィオナは嬉しそうに胸を張る。
なんでも今回の依頼内容は、フィオナに相応しく、彼女に持ってこいの仕事内容であった。
それは、『腕の良い占い師を紹介してくれ』という依頼内容であった。
まさに、今何でも屋『星屑の軌跡』において、星占いをすることで本物の未来予知ができる少女が目の前にいるのだ。
紹介も何も、本人をそのまま連れて行けば120%以上の成果で解決する、これ以上ない適任仕事であった。
「一人で依頼をこなしたのか?凄いなフィオナは!どっかの大魔女さまとは、大違いだ」
ルクスは、「よくやったな」とフィオナの頭をヨシヨシと優しく撫でながら、同時にエリアのことをわざとらしく大きな声でイジりながらエリアの方を向く。
「ちょっとルクス、なんですってー! 私だってやるときはやるんだから!」
エリアが不貞腐れて頬を膨らませるのを横目に、フィオナは嬉しそうに、けれど少しだけ真剣な表情を浮かべて今回の依頼について話し始めた。
「あのね、ルクスちゃんにエリアちゃん。今回の依頼主さんは、80歳ぐらいのおばあちゃんだったの。……おばあちゃんね、子どもの頃の『第七星期・紅星』の周期で起きた『第一次空白戦争』の時のお話をしてくれたんだ」
おばあちゃんは当時、戦争の被害を受けないように必死で逃げた先で、一枚の奇妙な『羽』を見つけたのだという。
その『羽』に触った瞬間、おばあちゃんの頭の中に『真っ白な、何もない景色』が一瞬だけ流れ込んできた。それが何なのか分からないまま戦争は終戦を迎え、無事生き延びることができたが、その後何度あの『羽』に触れても何も起きなくなった。だが、あの時の不思議な経験だけは、どうしても忘れることができなかったのだそうだ。
「おばあちゃんの占いの内容はね……『あの時見た、真っ白な何もない景色は、未来に訪れる景色なのか、それとも別の何かを表しているのかどうか』、それを占って欲しいっていうものだったの」
ルクスはハッと息を呑んだ。
おばあちゃんが触れた『羽』。そして触れた途端に流れ込んできた『身に覚えのない景色』。
それはまさに、ルクスが『孔雀の羽』に触れた時に見た、あの残像と全く同じ現象ではないか。
「フィオナ……それで、占いの結果はどうだったんだ?」
ルクスが尋ねる。
フィオナの星占いの予知精度は120%を超えてくるが、問題は『いつそれが起こるのか』という時期までは分からないという欠点がある。それでも、フィオナはおばあちゃんの役に立ちたい一心で、夜空の星々に問いかけるのだった。
「『教えて、お星さま。おばあちゃんの為に。』って、一生懸命お願いしたの。そしたらね……星が見せてくれた未来は、真っ白な景色なんかじゃなかったんだ」
フィオナはパッと表情を明るくして、胸の前で小さな手を握りしめた。
「お星さまが予知した未来はね、沢山の種類の綺麗なお花や、色んな植物が咲き誇る、まるで楽園みたいなとっても素敵な庭園だったの♪」
「そっか……。真っ白な世界じゃなくて、そんな綺麗な庭園だったんだな。それをおばあちゃんに伝えた時、おばあちゃんはどんな顔してた?」
「うん♪おばあちゃん、とっても安心した顔して『これで、思い残すことなくあの世に行けるわ』って冗談ぽく笑ってた。でもね、本当に嬉しそうに、何度もありがとうって言ってくれたんだよ」
おばあちゃんの願いに役に立つことができた。その事実に、フィオナはこれ以上ないほど満足そうな、天使ような笑顔を咲かせた。
「そりゃあ良かった!よくやったな、フィオナ。やっぱりフィオナはうちの優秀な『星屑の軌跡』の占い師だ」
ルクスは、おばあちゃんが救われたことを安堵し、フィオナの占いがもたらした、優しい奇跡に胸をなでおろしていたが、一つ引っかかる箇所があった。
「(……でも、おかしい。俺が見た景色と違う?)」
だが、ルクスは――そして、この時のフィオナ自身すらも、まだ気づいていなかった。星占いが『真っ白な景色』を映し出さなかった、ちょっとおかしな本当の理由。
そして、この優しく完璧な予知こそが、これから始まる大きな謎解きの『最初の引っ掛け問題』になっていたなんて、この時この場にいる全員知る由もなかったのだ。
「よし!フィオナのお手柄で心も満たされたことだし、ルクス、今度こそゼノ団長のところへ出発よ!」
「あ、ああ、そうだったな。俺たちはちょっと『エデンの騎士団』の本部まで行ってきます!フィオナも一緒に行こう!!」
「えっ、私も行っていいの……? うんっ! 行く!」
「おう!行ってこい!調査結果の土産話、楽しみにしてるぞ、ガハハ!」
いつもの豪快な声を背に受けながら、ルクス、エリア、フィオナの三人は『星屑の軌跡』を後にする。
おばあちゃんが触れた、かつての『羽』。そして、自分たちの追う『孔雀』。
頭の中に残る、あの不穏な残像を振り払うようにして、ルクスは力強く前へと歩き出した。
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