「空から羊が降ってきた日」②
ルクスの言動に、彼女は驚いた様子で思わず。
「貴方……。そんなこと出来るなら最初から言ってよ!!」
「周りの人達にも影響が出るから、あんまり使いたくなかったんだよ!でも仕方ない、緊急事態だ!」
ルクスはそう言うと、的確に指示を出し、これから起きる現象への警戒を呼びかけた。
「店長!街の住民にアナウンスお願いします!今から天地がひっくり返るから、何かに捕まってろって!」
「おう、任せとけ!」
「君は羊たちをあのゲートに誘導してくれ!」
それぞれが指示通りの役目を全うする為に、動き出す。
「任されたわ!やってやるわよ、元はと言えば私が魔法に失敗したせいだしね!えへへ!」
――カーン、カーン、カーン、カーン……。
街中に緊急事態を告げる鐘の音が響き渡り、店長の野太い声がスピーカーから轟いた。
「街の住人に告ぐ!空へサヨナラしたくなけりゃ、何かしら頑丈な物に捕まれ! 天と地の法則がひっくり返るぞ!ガハハハ!」
そのアナウンスを聞いた街の人々の反応は、意外なものだった。
「おーい!みんな、ルクスのアレが来るぞ!何かに捕まれ!」
「ルクスのアレが来るのね!?久しぶりだわ!」
「私、ルクス君のアレ結構好きなのよねぇ」
「ワシも密かにルクスのアレを楽しみにしとるんじゃよ」
「あらっ!?街の人達、全然驚いてないじゃない!驚くっていうより、この機会を楽しみに待ってたみたい!」
「そりゃ、初めてじゃないからな。街の人達は、この現象を普段できない不思議な体験として楽しんでる節があるのさ。
――それじゃ、行くぞ!」
ルクスの身体を、白銀の魔力の奔流が駆け巡る。ルクスが一歩、また一歩と地面を踏み込み、空へ向かって駆け上がると――。
地面のタイルが、民家の瓦が、店の看板が、街灯が、そしてかき氷のように積もっていた十万匹の羊たちが、一斉に「空へ向かって」落ち始めた。
「誘導、頼んだぞ!」
「《――“Semita Chartae Cantantis”》(セミタ・カルタエ・カンタンティス)!!」
彼女が叫ぶと、虚空から無数の楽譜が溢れ出し、天へと延びる美しい光の道を創り出した。
空へと落ちていく羊たちが、その楽譜のレールに次々と乗せられ、魔法陣のゲートへと吸い込まれていく。
羊たちがゲートを通るたび、まるで楽器を奏でるような美しい旋律が街中に響き渡った。
「なんて美しい音色なんだ」
「また不思議な体験ができたわ!」
「長生きしてみるもんじゃなぁ」
「やったー!上手くいったわ!このままどんどん送り続けるわよ!」
羊を転移ゲートに送ることに夢中になり、元々召喚するはずだった羊の数のことを完全に忘れていた。
「おい、羊を十匹残さなくて大丈夫なのか?元々は十匹必要だったんだろ?」
「あっ!忘れてた!えへへ」
(おいおい、また十万匹召喚されたら堪ったもんじゃないぞ……)
「……よし、これで最後の一匹!」
最後の羊がゲートへと消えたのを見届け、ルクスは息を整える。
「天地の法則、解除」
パチン、と世界が瞬き、重力の法則が元通りに収まる。ゆっくりと地面に着地したルクスを、街の人々が笑顔で称えた。
「今回も楽しかったな!」
「次も楽しみにしてるぞ、ルクス!」
「またお願いね、ルクスくん!」
「ワシは今回、空中で3回転に挑戦したんじゃよ」
「ハハ、爺さん元気だなあ!」
「……不思議な人達ね」
「物心つく前から、街の皆には散々迷惑をかけてきたんだ。昔は俺の意思に関係なく発動して、俺一人だけが空に落ちてた。」
淡々とこの奇妙な能力に目覚めた頃のことを記憶を遡りながら語りだした。
「でも、歳を重ねるごとに範囲が広くなって周りも巻き込むようになっちゃってさ。
最初は皆怖がってたけど、今じゃ『不思議な体験をさせてくれる少年』って受け入れてくれたんだ」
どこか少し寂しそうな優しい声で
「あなたも苦労してきたのね。……今回の件、感謝してるわ。ありがとね!えへへ」
一つ気がかりなことが、ルクスの頭の中に居座る。
「いや、それはいいんだけど……ずっと気になってたんだ。君、天地の法則がひっくり返った時、なんで君だけその影響を受けてなかったんだ?」
「あらっ、気づいてたのね?」
彼女は不敵に微笑み、自身の黒い帽子を軽く傾けた。
「何故かって聞かれたら、多分私が三百年生きる魔女だから、かな!」
「はぁ?三百年生きる魔女?もしかしてからかって……」
「本当のことよ!正確に言えば、もう何歳だか自分でもよく覚えてないけれど、大体三百年くらいだと思うわ!」
あまりにも予想外の発言に、半信半疑になりながら意外にも、腑に落ちた。
「曲がり角でぶつかって、とんでもないトラブルを持ち込んできた女の子の正体が、三百年生きる魔女……!なんてこった!」
「ちょっと!先にぶつかってきたのは貴方の方でしょ!」
「君だってなんだよ、十匹出そうとして十万匹って!三百年も生きてる大魔女様が魔法を大失敗するなんて、アッハハ、笑っちゃうよ!」
「なによなによ!脳内の妄想でヒーロー気取りのお子ちゃま君のくせに!」
「なっ、何でそれを……!?い、いや、そんなことないぞ!妄想なんてしないもんね、大人だから!」
羊が綺麗さっぱり消えたばかりの街の時計台のある中央広場にて、顔を真っ赤にするルクスを見て、花柄シャツの店長がガハハと笑いながら二人の間に割って入った。
「おいおい、ルクスも嬢ちゃんも喧嘩はよせ。問題解決したんだからそれでいいじゃねぇ〜か。ルクス、いい仕事ぶりだったぞ。嬢ちゃんも、ルクスと協力して街を救ってくれてありがとうな」
「まあ、いいわ。久しぶりに楽しかったわ!」
「ところで嬢ちゃん、普段は何をしてるんだい?」
「何もしてないわ。毎日毎日、暇を持て余してるだけ。たまに今日みたいに、魔法での頼み事をされたりするくらいかしら」
「嬢ちゃん!暇ならウチに来ないか? ウチはこの広大な『浮遊都市ルミナリア』全土を駆け回る『何でも屋』をやってんのさ。嬢ちゃんが良ければ、このルクスとコンビを組んで、この世界を駆け巡ってはくれないかい?」
店長の真っ直ぐなスカウトに彼女は、この先を歩んでいく、人生という庭に、この瞬間、華が咲いたかのように即答であった。
「いいわね!退屈してたところよ。それに、なんだかとっても楽しそうですもの。こんなにワクワクするの、本当に久しぶり。えへへ!」
「よぉし!決まりだ!ルクス、これからこの嬢ちゃんとコンビを組んで仕事してもらうぞ!」
「ちょっと、店長!?マジで言ってます!?」
「マジだ、大マジだ!」
彼女は嬉しそうにルクスに向き直り、スカートの裾を引いて綺麗に一礼した。
「まだ名前を言ってなかったわね。私の名前は“エリア”――“エリア・ノクス”よ。よろしくね!」
「……決まったことは仕方ないか。俺はルクス・ヴェイン。ルクスでいい、よろしくな。エリア!」
ルクスは、肩にかけられたカメラを手に取り、構え出す。
「俺、写真を撮るのが趣味なんだけど、せっかくのコンビ結成の記念だ。一枚撮ろうよ!」
「いいわね!これから先も暇な人生になると思ってたから……今日あなたと出会えたのは、奇跡なのかも」
ルクスが愛用のカメラを構え、レンズの向こうで微笑むエリアに焦点を合わせる。
――カシャ。
ファインダーの向こうで、最高の1枚が切り取られた。
「――カシャ。」
静まり返った空間に、妙に低く、硬質なシャッター音が『もう一度』響いた。
「あれっ……?俺、今、2回シャッター押しちゃったかな?」
ルクスは不思議そうに指先を見るが、カメラのレバーは引かれていない。気のせいかとルクスは首を傾げた。
だが、二人はまだ知らない。
その瞬間、彼らの頭上遥か高くに佇む『完全記憶装置(月)』の端末が、この世界の『重大なイレギュラー(二人の出会い)』のログを、確実に同期した音であったことを。
ルクスとエリア、二人の出会いは偶然か、それとも必然か。
これは、主人公ルクス・ヴェインが何でも屋『星屑の軌跡』の仲間たちと共に
浮遊都市ルミナリア全土を駆け巡る『物語絵』
物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜
『第一星期・始星: 始記録』
これから
物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜
の物語絵が動き出します!
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物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜
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