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物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜  作者: 蒼猫
第一星期・始星 1ページ目

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「空から羊が降ってきた日」

『残しておきましょう。』


―――――――――――


どこまでも永遠に続くかのような蒼天だった。

神の祝福を宿したかのように、地平線には美しい雲の河が広がっている。肌を撫でる花信風が心地いい。

実に、実に、平和な世界の始まり――。


>「遅刻だぁぁぁぁぁ!!!」 


平和だったのは天上の景色だけで、地上の現実は「平和」の二文字から程遠い場所にあった。そもそも、平和とは何なのだろう。

石畳の坂道を、一人の少年が全力で駆け抜けていく。

彼の名はルクス・ヴェイン、19歳。趣味は写真を撮ること。時々、空へ落ちる。 特技とは口が裂けても言いたくはないが、人一倍トラブルに巻き込まれやすいタチだった。

残念ながら、その後者の才能に関しては誰よりも優れている。もう一度問おう。平和とは、一体全体何なのだろう。


>「間に合えぇぇぇぇ!!」


食パンを咥えたまま猛ダッシュする頭の中では、アップテンポなJAZZが激しく脳裏を駆け抜けていた。

もちろん、実際に音楽が流れているわけじゃない。ただの妄想。いわゆる、重度の中二病患者ってやつだ。

だが、脳内のテンポが上がるにつれて、不思議と足運びは軽快になってゆく。あらゆる障害物を飛び越え、壁を蹴り、まるで空を蹴るようにして彼は駆けた。


『今この瞬間、俺は世界を救う英雄よりも格好良く走っている――!』


そんな妄想に夢中になるあまり、すでに大遅刻していることなど、完全に脳裏から消え去っていた。

 ――だから、その曲がり角の先への警戒を怠った。


 ドンッ!


>「いったぁぁぁ!!」


曲がり角で、パンを咥えたまま誰かと衝突する。

まさか、そんな少女漫画のお約束みたいな展開を、自分自身が引き起こすことになるなんて。普通、お約束通りなら、ぶつかる相手は美女か可愛い女の子が相場のはずだ。

痛む頭を押さえながら顔を上げる。

そこに立っていたのは、美女と可愛い女の子のいいとこ取りをしたような、どこか妖艶な顔立ちをした赤黒い長髪の少女だった。

その瞬間、ルクスは「人生、たまには良いこともあるもんだ」と心の中で深く噛み締めた。


>「ちょっと!ちゃんと前を見なさいよ!」


彼女はきゅっと腰に手を当て、鋭くも美しい眼差しでルクスを見下ろしてきた。


>「気をつけてよね!怪我したらどうするのよ!」


>「……ごめんなさい」


自分の妄想に気を取られて周りが見えていなかったのは事実だ。ルクスは素直に謝罪した。


>「あらっ!素直じゃない!嫌いじゃないわよ、素直な子は!」


なんだコイツは!?

確かに俺が悪い。悪いが……よくよく考えたら、この子だって相当な勢いで角から飛び出してこなかったか?


>「ちょっと待って。君もそこの角から勢いよく飛び出してきてただろ?」


>「まさか!?貴方、私が悪いっていうの?信じられない!」


>「君だって別の所に意識が逸れてて、前を見てなかったかもしれないじゃないか!」


ルクスの苦し紛れの、精一杯のハッタリだった。

だが、どうやらそのハッタリはクリーンヒットしたらしい。少女は気まずそうに視線を泳がせた。


>「……仕方ないじゃない!」


>「えっ?」


>「だーかーら、失敗しちゃったのよ、魔法!羊を十匹召喚するつもりが、十万匹になっちゃったの!」


あまりにも予想の斜め上を行く言い分に、ルクスの脳が一瞬でフリーズする。


>「……その、十万匹の羊はどこへ?」


彼女は気まずそうに、けれどゆっくりと、天に向かって指をさした。

見上げれば、青い空を侵食するように、見たこともないほど巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。


>「なんだよ、あれ!?」


街の人々も、ようやく異変に気づき始めて騒ぎ出す。


「おーい!みんな空を見ろ!なんかとんでもなくデカい魔法陣が出てるぞ!」

「なんなの?大丈夫なの?誰かー!」

「ねぇ、何か降ってきてるわ!」

「本当だ!なんか白くない?白い何かが大量に降ってきてるぞ!」


>「ちょっと待って!もしかして十万匹の羊ってあれか!?空から降ってくるのか!?」


 ――メェ〜、メェ〜、メェ〜。

 凄まじい大合唱と共に、空から白いもふもふとした塊が次々と降り注いでくる。


>「そのまさかなの!えへへ……」


>「笑い事じゃねぇーよ!どうするんだよこれ!」


>「どうすることも出来ないわよ!街ごと十万匹の羊に埋め尽くされるのを、大人しく眺めることしかできないわ!」


彼女の諦め宣言を他所に、羊は容赦なく降り続け、まるで山盛りの「かき氷」のようにみるみるうちに高く積もっていく。そこへ、聞き慣れた豪快な声が響いた。


>「おーい!ルクス!遅刻だぞ!」


>「店長!すみません!言い訳するつもりは無いですけど、トラブルに巻き込まれちゃって……って、それどころじゃないですよ!この状況見てください!」


>「う〜ん、このままじゃ仕事もできんな。……よし!ルクス緊急ミッションだ!この羊、どうにかしろ!ガハハハ!大丈夫、ルクスなら出来るさ!」


>「えぇ!?無茶振り過ぎやしませんか!?どうにかしろって言われても!」


ルクスは隣の少女に指を向けた。


>「っていうか、君が事の元凶なんだから、君がどうにかしろよ!」


>「どうにか出来るならとっくにしてるわよ!」


>「君は魔法使いなんだろ?その魔法で、羊をどこか別の場所に連れて行くことはできないのか?」


>「出来るけど……」


>「出来るならやってくれ!」


>「どうなっても文句言わないでよね! 私の魔法、高確率でおかしな事になるんだから!」


彼女が再び呪文を唱えると、空に新たな魔法陣が展開された。


>「できたわよ!あの魔法陣のゲートに羊を通せば、別の場所に転移させられるわ!」


>「やればできんじゃん!」


>「当たり前よ!私の場合、高確率で予想とは違う効果が発動しちゃうだけで、どんな魔法でも発動させるのは100%可能なの!でも、どうなるかはやってみないと分からないの」


>「よし、今はうだうだ言ってられない! あの魔法陣に羊を送り込もう。……とは言っても、あの魔法陣、もっと下の方に下ろせないのか? 羊は上から落ちてきてるのに、ゲートが高すぎて送り込めないぞ!」


>「それが、あの位置で固定化されちゃって動かせないの!」


>「嘘だろ!?じゃあ、この降り続ける十万匹の羊たちを、逆に持ち上げなきゃいけないってことか?どうにか君の魔法で、全部持ち上げられそう?」


>「この数だと、全部は無理かも……!」


>「分かった。俺が協力する」


>「協力って、あなた魔法とか使えるの?」


彼女が怪訝な顔でルクスを見る。

 ――ルクス・ヴェインには、生まれつき奇妙な現象が起きる。

空へ落ちるのだ。天と地の重力の法則を、完全にひっくり返してしまう現象。


>「――俺が、天と地の法則をひっくり返す」


>「貴方、そんなこと出来るなら最初から言ってよ!」


>「周りの人達にも影響が出るから、あんまり使いたくなかったんだよ!でも仕方ない、緊急事態だ!店長!街の住民にアナウンスお願いします!今から天地がひっくり返るから、何かに捕まってろって!」


>「おう、任せとけ!」


>「君は羊たちをあのゲートに誘導してくれ!」


>「任されたわ!やってやるわよ、元はと言えば私が魔法に失敗したせいだしね! えへへ!」


 ――カーン、カーン、カーン、カーン……。


街中に緊急事態を告げる鐘の音が響き渡り、店長の野太い声がスピーカーから轟いた。


>「街の住人に告ぐ!空へサヨナラしたくなけりゃ、何かしら頑丈な物に捕まれ! 天と地の法則がひっくり返るぞ!ガハハハ!」


そのアナウンスを聞いた街の人々の反応は、意外なものだった。

「おーい!みんな、ルクスのアレが来るぞ!何かに捕まれ!」

「ルクスのアレが来るのね!?久しぶりだわ!」

「私、ルクス君のアレ結構好きなのよねぇ」

「ワシも密かにルクスのアレを楽しみにしとるんじゃよ」


>「あらっ!?街の人達、全然驚いてないじゃない!驚くっていうより、この機会を楽しみに待ってたみたい!」


>「そりゃ、初めてじゃないからな。街の人達は、この現象を普段できない不思議な体験として楽しんでる節があるのさ。

――それじゃ、行くぞ!」


ルクスの身体を、白銀の魔力の奔流が駆け巡る。ルクスが一歩、また一歩と地面を踏み込み、空へ向かって駆け上がると――。

地面のタイルが、民家の瓦が、店の看板が、街灯が、そしてかき氷のように積もっていた十万匹の羊たちが、一斉に「空へ向かって」落ち始めた。


>「誘導、頼んだぞ!」


>「《――“Semita Chartae Cantantis”》(セミタ・カルタエ・カンタンティス)!!」

彼女が叫ぶと、虚空から無数の楽譜が溢れ出し、天へと延びる美しい光の道を創り出した。

空へと落ちていく羊たちが、その楽譜のレールに次々と乗せられ、魔法陣のゲートへと吸い込まれていく。

羊たちがゲートを通るたび、まるで楽器を奏でるような美しい旋律が街中に響き渡った。

「なんて美しい音色なんだ」

「また不思議な体験ができたわ!」

「長生きしてみるもんじゃなぁ」


>「やったー!上手くいったわ!このままどんどん送り続けるわよ!」


>「おい、羊を十匹残さなくて大丈夫なのか?元々は十匹必要だったんだろ?」


>「あっ!忘れてた!えへへ」


>「おいおい、また十万匹召喚されたら堪ったもんじゃないぞ!……よし、これで最後の一匹!」


最後の羊がゲートへと消えたのを見届け、ルクスは息を整える。


>「天地の法則、解除」


パチン、と世界が瞬き、重力の法則が元通りに収まる。ゆっくりと地面に着地したルクスを、街の人々が笑顔で称えた。

「今回も楽しかったな!」

「次も楽しみにしてるぞ、ルクス!」

「またお願いね、ルクスくん!」

「ワシは今回、空中で3回転に挑戦したんじゃよ」

「ハハ、爺さん元気だなあ!」


>「……不思議な人達ね」


>「物心つく前から、街の皆には散々迷惑をかけてきたんだ。昔は俺の意思に関係なく発動して、俺一人だけが空に落ちてた。でも、歳を重ねるごとに範囲が広くなって周りも巻き込むようになっちゃってさ。

最初は皆怖がってたけど、今じゃ『面白い体験をさせてくれる少年』って受け入れてくれたんだ」


>「あなたも苦労してきたのね。……今回の件、感謝してるわ。ありがとね!えへへ」


>「いや、それはいいんだけど……ずっと気になってたんだ。君、天地の法則がひっくり返った時、なんで君だけその影響を受けてなかったんだ?」


>「あらっ、気づいてたのね?」


彼女は不敵に微笑み、自身の黒い帽子を軽く傾けた。


>「何故かって聞かれたら、多分私が三百年生きる魔女だから、かな!」


>「はぁ?三百年生きる魔女?もしかしてからかって……」


>「本当のことよ!正確に言えば、もう何歳だか自分でもよく覚えてないけれど、大体三百年くらいだと思うわ!」


>「曲がり角でぶつかって、とんでもないトラブルを持ち込んできた女の子の正体が、三百年生きる魔女……!なんてこった!」


>「ちょっと!先にぶつかってきたのは貴方の方でしょ!」


>「君だってなんだよ、十匹出そうとして十万匹って!三百年も生きてる大魔女様が魔法を大失敗するなんて、アッハハ、笑っちゃうよ!」


>「なによなによ!脳内の妄想でヒーロー気取りのお子ちゃま君のくせに!」


>「なっ、何でそれを……!?い、いや、そんなことないぞ!妄想なんてしないもんね、大人だから!」


顔を真っ赤にするルクスを見て、店長がガハハと笑いながら二人の間に割って入った。


>「おいおい、ルクスも嬢ちゃんも喧嘩はよせ。問題解決したんだからそれでいいじゃねぇ〜か。ルクス、いい仕事ぶりだったぞ。嬢ちゃんも、ルクスと協力して街を救ってくれてありがとうな」


>「まあ、いいわ。久しぶりに楽しかったわ!」


>「ところで嬢ちゃん、普段は何をしてるんだい?」


>「何もしてないわ。毎日毎日、暇を持て余してるだけ。たまに今日みたいに、魔法での頼み事をされたりするくらいかしら」


>「嬢ちゃん!暇ならウチに来ないか? ウチはこの広大な『浮遊都市ルミナリア』全土を駆け回る『何でも屋』をやってんのさ。嬢ちゃんが良ければ、このルクスとコンビを組んで、この世界を駆け巡ってはくれないかい?」


店長の真っ直ぐなスカウトに彼女は、この先を歩んでいく、人生という庭に、この瞬間、華が咲いたかのように即答であった。


>「いいわね!退屈してたところよ。それに、なんだかとっても楽しそうですもの。こんなにワクワクするの、本当に久しぶり。えへへ!」


>「よぉし!決まりだ!ルクス、これからこの嬢ちゃんとコンビを組んで仕事してもらうぞ!」


>「ちょっと、店長!?マジで言ってます!?」


>「マジだ、大マジだ!」


彼女は嬉しそうにルクスに向き直り、スカートの裾を引いて綺麗に一礼した。


>「まだ名前を言ってなかったわね。私の名前は“エリア”――“エリア・ノクス”よ。よろしくね!」


>「……決まったことは仕方ないか。俺はルクス・ヴェイン。ルクスでいい、よろしくな。エリア!

俺、写真を撮るのが趣味なんだけど、せっかくのコンビ結成の記念だ。一枚撮ろうよ」


>「いいわね!これから先も暇な人生になると思ってたから……今日あなたと出会えたのは、奇跡なのかも」


ルクスが愛用のカメラを構え、レンズの向こうで微笑むエリアに焦点を合わせる。


 ――カシャ。 


ファインダーの向こうで、最高の1枚が切り取られた。


「――カシャ。」


静まり返った空間に、妙に低く、硬質なシャッター音が『もう一度』響いた。


>「あれっ……?俺、今、2回シャッター押しちゃったかな?」


ルクスは不思議そうに指先を見るが、カメラのレバーは引かれていない。気のせいかとルクスは首を傾げた。

だが、二人はまだ知らない。

その瞬間、彼らの頭上遥か高くに佇む『完全記憶装置(月)』の端末が、この世界の『重大なイレギュラー(二人の出会い)』のログを、確実に同期スクショした音であったことを。

ルクスとエリア、二人の出会いは偶然か、それとも必然か。


これは、主人公ルクス・ヴェインが何でも屋『星屑の軌跡』の仲間たちと共に

浮遊都市ルミナリア全土を駆け巡る『物語絵ものがたり



物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜

   『第一星期・始星: 始記録』

読者様の皆々様、初めまして。『蒼猫』(アオネコ)と申します。小説を書くのは初めてですが、赤子が成長していく姿を温かい目で見守って頂けたら幸いです。これから始まる

物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜

宜しくお願いします!



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