「いらっしゃい!情報屋『星屑の裏庭』へ」
人混みの向こう、市場の片隅に怪しげな露店を構えている「二匹」の姿があった。
一匹はルクスのような体型に太い尻尾、もう一匹はシュッとした輪郭に尖った耳。彼らが掲げている看板には、どこかで見たような字面で『情報屋『星屑の裏庭』と書かれている。
「……おい、エリア。あそこにいるの、どう見てもあの時の……」
「あら? スターグレイドの森で、私たちに化けて悪いことしてたタヌキさんとキツネさんじゃない! えへへ、懐かしいわねー」
ルクスは記憶の引き出しがハイスピードで引き出されるのを感じた。
あれは以前、聖域にしか咲かない希少な薬草『星涙草』を採取しに向かった時のことだ。
ルクスとエリアに化けて薬草を乱獲し、市場で売り捌いて暴利を貪ろうとしていた不届きなマモノ――それが、目の前で偉そうに踏んぞり返っている化けタヌキと化けキツネだった。
あの時はルクスとエリアの手によって完膚なきまでに成敗したはずなのだが、まさか北へ三日も離れたハルモニアの街で、しかも何でも屋『星屑の軌跡』のパクリみたいな名前の店を開いているとは。
「へっへー、毎度あり! ジャンル問わず裏情報を知りたいなら、この『星屑の裏庭』に任せとけってんだ!」
「ちょっとアンタ、声が大きいわよ。……あ、そこのお客さん、いいネタ入ってるわよ?どうかしら?」
人間の姿に化け損ねて、耳や尻尾を堂々と出したまま(この街ではそれが普通なので馴染んでいるのがまたタチが悪い)客引きをしている二匹。
ルクスは額に青筋を浮かべながら、音もなくその背後に忍び寄り、二匹の肩へガシッと力強く手を置いた。
「よぉ。ハルモニアで随分と手広くやってるみたいじゃないか、お前ら?」
「ひぎぃっ!? な、なんだぁ、人の神聖なビジネスの邪魔を……って」
不機嫌そうに振り返った化けタヌキと化けキツネの視界に、あの時自分たちをお星様にした本物のルクスとエリアの顔が、再びウルトラ至近距離で飛び込んできた。
「「……ぶ、ぶ、ぶ、本物ぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!????」」
二匹の毛が、恐怖で一斉に逆立った。
化けタヌキは太い縞々の尻尾をボワッと膨らませて飛び上がり、化けキツネは鋭い白い耳をペタンと寝かせて、あわあわと手足をばたつかせる。
「な、ななな、なんで本物の『星屑の軌跡』のお二人さんがこんな北の街にいるんでぇ!? 聖域の件はもうとっくに反省して、ここで真面目に情報屋やってんですよ!」
「そうよ! ちょっと名前と衣装のデザインのベースを、リスペクトを込めて参考にさせてもらっただけじゃない! 減るもんじゃなし、そんなに怖い顔しないでよぉ!」
よく見れば、化けタヌキの着ている衣装はルクスの服の配色やシルエットにそっくりだし、化けキツネのほうはエリアの黒×赤のイメージとは対照的な、光り輝くプラチナブロンドの髪に純白とゴールドの神聖なドレスを身に纏っていた。エリアの魔女服の意匠を、まるで聖女か光の魔女かという風に白ベースで豪華にパクっているのだ。
「リスペクトじゃなくてただの盗作だろ! 衣装どころか、看板のロゴのフォントまで寄せてんじゃねえか! あとそっちのキツネは、なんでエリアよりちょっと神々しい聖女風にアレンジしてんだよ!」
「えへへ、でもキツネさんの白いドレス、私のよりちょっとお上品で綺麗ね。……って、そうじゃなくて! 貴方たち、ここで情報屋やってるなら、最近この街に出たっていう『バグのような粒子』について何か知ってる?」
エリアの追及に、二匹は顔を見合わせた。化けタヌキがアイマスク風の模様のついた顔をすこし真面目にし、化けキツネがふさふさの白い三本の尾を不安げに揺らす。
「……あ、あの粒子のことですかい? さすが本物、嗅ぎつけるのが早すぎますぜぇ……」
「あれはただの灰や光じゃないわ。触れた者の『存在』をあやふやにする、おぞましい世界のバグよ。実は、その粒子が一番濃く観測されたヤバい場所である物をちょうど仕入れたところなのよ」
化けキツネは人差し指を唇に当てて妖しく微笑むと、ルクスとエリアの顔を交互に見つめた。どうやら、お仕置きを免れるための切り札として、この情報を差し出すつもりのようだ。
「まぁ、待て!俺たちも仕事だからな……一旦、お前たちのパクリ営業のことは置いておいて、ここは一つ『ビジネスパートナー』を結ぶってのはどうだ?お前たち2人にとっても悪い話じゃないだろ?」
ルクスの口から『ビジネスパートナー』という単語が出てきたことが、化けタヌキと化けキツネにとっても完全に不意を突く発言であった。
二匹は一瞬ポカンと口を開けたが、勿論、こんな大チャンス逃すわけにはいかないと、すぐさま狸目狐面の色を変えてビジネスモードに切り替え、ルクスとエリアに双方のメリットを提示するため、化けタヌキが揉手をしながら前に出た。
「いやぁ〜流石はアニキですな〜ワイらと『ビジネスパートナー』を結んでくれるってのは、ホントにありがてぇ〜話ですぜ!それに双方にメリットがなけりゃ、それはビジネスとは言いませんからなぁ〜こっちから出せるのは、持ってる情報の全てですぜぇ!勿論、ワイらがが情報を提示する代わりにアニキたちにも『対価』を払ってもらわなければ、いけませんですぜ!」
「いいだろう!聞くだけ聞いてみようか?その俺たちがお前たちに払う対価とはなんだ?」
ルクスが目を細めて先を促すと、化けタヌキはニカッと悪巧みのような笑みを浮かべ、指を立てる。
「アニキたちとは、末長〜く付き合っていきたいですからねぇ〜安い対価にしておきますぜぇ!その『対価』は、まず一つ。ワイらが手に入れていないアニキたちがこれから手に入れる情報をワイらにも、渡して欲しくて………要は『情報の等価交換』ってヤツですぜ!そして二つ目。コレは、お願いに近いんですがね〜……。このアニキと姐さんの姿をこれから先もワイらに貸してくれやしませんかねぇ〜」
提示された『対価』の一つ目に関してはお互いに情報が得られるwin-winの取引でいいが……問題は二つ目に関してだ。俺たちの姿を使ってこれからも商売をする気か、と考えているうちに……。
「えっ!いいじゃない!カッコよく使ってくれるなら」
「おい!バカ待て!!」
エリアが何の手のひら返しもなく、あっけらかんと承諾の声を上げた。
ルクスは頭を抱えて絶叫する中、化けタヌキは「へっへ!」とニヤリと笑みを浮かべる。
化けキツネもふさふさの白い尾を嬉しげに揺らし、二匹で「交渉成立ですな(ね)!」と手を叩いて喜び合うのだった。
「私、姐さんのこの姿気に入ってるのよ!有り難く使わせて頂くわ!大丈夫よ!本物の姐さん方の名に泥を塗るような迷惑は掛けないわよ!」
プラチナブロンドの髪を揺らし、純白のドレスに身を包んだ化けキツネが、エリアの意匠を模したその姿を誇るように胸を張る。
ハルモニアの街ではその神聖なビジュアルがかなりのハクになっているのだろう。
「はぁ……。エリアお前な……。――おい、お前ら。俺たちの姿で悪いことするんじゃねぇぞ!次また俺たちの姿で悪いことをしてる事が分かったなら、今度こそどうなるか分かってるな?」
ルクスが低くドスの利いた声で睨みつけると、化けタヌキと化けキツネは「ひぎぃっ!」と同時に背筋を正し、ビシッと直立不動の姿勢をとった。本物の凄みを前に、これ以上の悪さは出来ないと魂に刻み込まれたようだった。
「折角ビジネスパートナーになったんですから、ワイらの名前も覚えてくだせぃ!ワイの名前は『イヌガミ』っていいやす」
「(タヌキなのにイヌなのか?)」
「私は『イナリ』よ!どうか長い付き合いにしていきたいものですね!ウフフ♪」
「(こっちは予想できた……)」
ブルームタウンから北へと離れた、ハルモニア「調和の街」にて、何でも屋『星屑の軌跡』と情報屋『星屑の裏庭』による双方の利益の為の結びがしれっと行われたのであった。
「早速だが、『バグのような粒子』についての情報を教えてくれ!」
ルクスがそう言うと、「イナリ」が懐から見覚えのある一枚の『孔雀』の羽を取り出した瞬間――。ルクスには、羽の持ち主であろう『孔雀』の姿が頭によぎり、以前の出来事を思い出して、ルクスはその場にへたり込みそうになった。
「うっっ、ぐっっ、、、、」
「ルクスっ!?どうしたの?顔色が真っ青よ!」
隣にいたエリアが慌ててルクスの肩を支える。ルクスは荒くなった呼吸を整えながら、冷や汗の流れる額を抑えた。頭の中に焼きついた、自分の記憶の何処を探しても、あんな不気味な赤い空の街は存在しないはずなのに。
「……あ、あァ、いや……なんでもない。ちょっと目眩がしただけだ……」
ルクスは必死に声を振り絞り出し、「イナリ」の手元にある『孔雀』の羽を凝視した。
「イヌガミ」と「イナリ」は、ルクスの異常な反応を見て、只事ではないばかりにさらに耳をすくませる。
「ほ、ほら見なさいよ!やっぱりこの羽、何かの呪いか呪術が掛けられてるんだわ!私たちもね、最初にそれを見つけた時、触ろうとしただけでゾワゾワって鳥肌が立って、気味が悪くてまともに触れなかったのよ!」
「そうですぜ〜アニキ!ワイらの直感が『これ以上触るな』って激しく警告してきたんですぜぇ。」
「一体……その羽を何処で手に入れたんだ?」
「この羽が見つかったのは、この街の『バグのような粒子』が観測された場所に落ちていたわ。
私は『千里眼』を使うことができるのだけれど、『千里眼』を使って『バグのような粒子』の次の観測地点を探ってたら、『粒子』のような光輝くのを見つけて、その場に向かったの……。そこに居たのは、『100の星の目を持つとされている孔雀』だったのね、でもおかしな事があるのよ。
私は『千里眼』で『粒子』のような光輝くのを見つけて向かったのだけれど、全てを見通す『千里眼』には『孔雀』の姿は写ってなんかなかったのよ!」
肉眼では写るが、『千里眼』には写らない
『千里眼』が何故『孔雀』を写し出せなかったのか、今は理由が思いつかない。
だが、ルクスは以前の出来事を踏まえ今の現状を仮定として次のように語った。
「俺が思うに、『バグのような粒子』の発生源は間違いなく『孔雀』だと思う。俺たちが以前『孔雀』の捕獲依頼を受けて、エリアと追い詰めて捕獲した。けど、『孔雀の尾羽にある無数の星の目』が一斉に銀色に輝き出し、光が収まった時には『光の粒子』となって既に消えていたんだよな……でもその時に一枚の『孔雀の羽』が落ちてきて、その羽に触れた途端、俺の知らない景色が一瞬だが流れ込んできたんだ。羽に触れた者の『存在』をあやふやにするっていうのは、まさに俺が経験したこの事だと思う。」
『(そういえば……あの『孔雀』の捕獲を依頼した人は誰なんだろう?帰ったら店長に聞いてみるか。)』
「取り敢えず、その『バグのような粒子』の原因はその『孔雀』のせいってことでいいわよね?じゃあ!この事を騎士団の団長さんに報告することにして………お腹すいたぁぁぁ!!!折角この街にも来たんだから、なにか美味しい物でも食べましょ♪」
エリアの発言で、考察ムードだった空気が一変して、エンジョイムードに早変わりすると同時に、ルクスも一旦、脳みそを休ませる選択をしたのだった。
「イヌガミ」と「イナリ」はこれから末長い付き合いになるであろうルクスとエリアを街の至る所で、もてなしてくれる事になり、その道中、ルクスはいつものようにシャッターを切る。
――カシャ。 ――カシャ。 ――カシャ。
街が一つ変わるだけで、シャッターを切りたくなるのは、この一瞬を永遠に忘れたくないからなんだろう。
――カシャ。「――カシャ」「――カシャ」
[次のページへ]
化けタヌキと化けキツネの再登場!!
情報屋『星屑の裏庭』完全に何でも屋『星屑の軌跡』のパクリ!!
面白いと思ったら、ページ下部の【☆】で評価やブックマークをいただけると励みになります!
引き続き
物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜
を宜しくお願いします!




