「ルクスとゼノの被害者同盟」
国家転覆罪の容疑を掛けられたルクスとエリアへの、緊迫した尋問が始まる。
先ほどまでの弛みきった空気は霧散し、カイルが静かに手帳を開く音が室内に冷たく響いた。ゼノは冷徹な騎士の眼光で、二人を真っ直ぐに見据える。
「では、罪状『エデン本部への羊十万匹の強制転移』による国家転覆罪について尋問を始める。……貴殿らは、三週間程前に転移魔法を発動し、十万匹の羊を転移させたのは事実であろうか?」
室内の空気が、ヒリヒリとした重圧に包囲される。国家最高峰の騎士から放たれる本物の威圧感を前に、流石のエリアも事の深刻さを肌で感じとり、神妙な面持ちで尋問に受け答えた。
「転移させたのは、事実だわ……」
「次に、何故そのような事になったのか答えよ」
エリアは事の顛末をゼノに話し始めた。十匹の羊を召喚するはずの魔法が確率バグで十万匹になってしまった事。
その時に偶然出逢ったルクスと協力し、重力を反転させて街に降り積もる羊を上空のゲートへ転移させた事――その流れの全てを、包み隠さず打ち明ける。
「お願い! 分かって欲しいの! わざわざ転移先を貴方たちの所に繋げたりなんかしないわ……ホントにたまたなの!」
「……なるほど。事情は理解した」
ゼノは腕を組み、静かに目を閉じた。ゴツゴツとした指先が、デスクをトントンと規則正しく叩く。
「だが、それで王国特務管理局:エデン本部への被害が消えるわけではない」
「うっ……」
鋭い指摘に、エリアが小さく肩を震わせる。
「事故であろうと結果は結果だ。国家機関は三日間完全に機能停止。羊の回収、人員配置、設備修復……被害は甚大だったのだ」
「(……あれ? さっきの報告書に『タップダンスによる器物破損』って書いてあった気がするけど……俺たちが飛ばした時はただの大人しい羊だったよな? 騎士団のところで一体何が起きたんだ……?)」
そんな疑問を抱きつつも、お互いがお互いの魔法と身内の暴走のせいで苦労しているのは確かだ。
ルクスはどこか親近感の混ざった苦笑いを浮かべながら、肩をすくめた。
「あの、庇うつもりはないですけど、この魔女が発動させる魔法は何故かいつもめちゃくちゃなんですよ!俺もこれまでに幾度となく散々な目に遭ってきたから言えるけど、わざとやろうと思ってできるような子じゃないですよ」
「なぁなぁ……ゼノさんよ、もういいじゃねぇか。故意ではなく事故だったんなら酌量の余地ぐらいはあると思うぜ! それに、こんな可愛い子の哀しむ顔を見るのは、俺のハートが耐えられないぜ」
レインがウィンクを飛ばしながら、彼らしい軽薄な理由を並び立ててゼノに告げる。
ゼノはピキリと額に青筋を立て、黙ってルクスへと視線を戻した。
「前半だけなら納得できた。後半で台無しだ。しかし……そうか」
しばらく、重苦しい沈黙が部屋を満たした。
最強の騎士団長は、目の前の「ただ巻き込まれただけの少年」と「ただ確率がバグっただけの魔女」の姿をじっと見つめ――。
深く深く息を吸い、限界を迎えたように小さく額を押さえた。
「……頭が痛い」
ルクスもまた、これまでのエリアとのドタバタな日々、そしてこれからの未来を察して、全く同じように額を押さえる。
「……俺もです」
『歩く天災』達に振り回される二人の苦労人の溜息が、壊れた事務所の中で、今度も完璧にハモるのだった。
お互いに額を押さえ、深いため息をシンクロさせたルクスとゼノ。
しばしの静寂の後、ゼノは渋々と腕を下ろし、騎士団長としての厳格な表情をどうにか作り直した。
「……ゴホン。いいだろう、レインの言う通り故意の犯行でないことは信じる。だが、国家機関を混乱に陥れた事実は消えん。本来なら巨額の賠償金か投獄だが……今回は特例として、酌量の余地を与えよう」
「特例、ですか?」
ルクスが首を傾げると、ゼノは懐から一枚の公的な依頼書を取り出し、テーブルに置いた。
「我が特務管理局から、何でも屋『星屑の軌跡』への正式な『依頼』だ。ルミナリア全土の至る所で検知されてるが、ブルームタウン及び隣街『ハルモニア(Harmonia)』周辺でも検知された、ある不自然な『バグのような粒子』の調査を命じる。――言うまでもないが、報酬は無しだ」
「実質、タダ働きのお仕置きじゃねえか!」
「文句を言うな。これでも相当甘い処分だぞ」
ルクスがガックリと肩を落とす横で、エリアは「えへへ、面白そうな依頼ね!」と呑気に笑っている。
そうこうしているうちに、キッチンの奥から「ガハハ!」という豪快な笑い声と共に、芳醇な肉の香りが一気に押し寄せてきた。
「おうおう、話はまとまったか? ちょうど店長特製肉料理が完成したぜ! 腹が減っては戦もできねぇ、てな!みんなで食おうじゃねえか!」
アロハシャツの店長が、湯気の立つ巨大な大皿をテーブルの真ん中にドスンと置いた。
その瞬間、船を漕いでいたフェンがパチッと目を覚まし、「肉ぅぅぅ!」と雄叫びを上げてフォークを掴む。
レインも「おっ、美味そうだね」と席につき、エリアも自然とテーブルを囲み始めた。
気がつけば、尋問の場は完全に賑やかな大晩餐会へと変貌していた。
「……おい、お前達、我々は一応、容疑者のアジトに踏み込んだはずなんだが」
「団長、諦めてください。この肉料理、信じられないほど美味しいです。」
すでにカイルは行儀よく肉を口に運んでいた。ゼノはもう一度ため息をつき、促されるままに肉を口にする。――美味い。日頃の疲れが少し和らぐほどに。
「……なあ、ゼノさん。あんたのところの部下も、相当ぶっ飛んでますね。ドアぶち破って肉に釣られる奴とか、初対面でナンパする奴とか」
ルクスが苦笑しながら、隣のゼノにそっと果実水を差し出す。ゼノはそれを受け取り、遠い目をした。
「……これでも王国の天才たちなのだ。だが、規律という言葉を知らん。毎日毎日、誰かが爆発を起こすか、街の女とトラブルを起こすか、歌で羊をタップダンスさせるか、私の胃がいくつあっても足りん」
「わかります、めちゃくちゃわかります……。俺なんて、この魔女と出会ってから『イレギュラー』な事が起きる日常がデフォですよ。」
これまでの出来事が激流のように脳内を流れ巡った。
「魔獣の動きを止めようとして、泥沼を出そうとしたらハチミツが降る雨雲だったんですよ!そのハチミツのせいでカメラはベタベタになるし、魔法のたびに街中に謝罪行脚ですよ……」
「そうか……お前も、苦労しているのだな」
「ゼノさんこそ……本当にお疲れ様です」
カチィン、と二人のグラスが切なく鳴り響く。ここに、最強の騎士団長と下層の何でも屋少年による、固い絆で結ばれた『被害者同盟』が正式に結成されたのだった。
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その頃一方、別件で外出中のガルム一行は、ガルムの手作りお菓子で、お茶会の真っ最中であった。
「さぁ!できたぞ!ガルム特製焼き菓子と新メニューのハチミツケーキだ!4人でお茶会といこうじゃないか!!」
「わ〜どれも美味しそうだよ♪何から食べようかな♪」
「イリスはコレにする♪ノアはアレとアレとアレが食べたいって!」
「………そんなに沢山食べれないよ。けど、美味しそう」
何でも屋『星屑の軌跡』のもう一つの時間は、焼きたてのお菓子の香りと温かな笑顔に包まれていた。
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――数時間後。
「よし、腹も膨くれたし、帰るぞ! ……おい、お前たちが壊したフロントドアだぞ。騎士団の面目にかけて、直してから帰るぞ」
ゼノの号令が響く。しかし、肉を食い尽くして満足したフェンは「……ん、寝る」と床で丸くなり、レインは「僕は爪のケアがあるからパスで」と手を振り、他の団員たちも全く動く気配がない。誰も団長の言うことを聞かない。
「貴様らぁぁぁ!! ……はぁ、カイル、やるぞ」
「はい、団長。工具は持ってきてあります」
結局、カンカン、トントンと、アストレア王国最強の騎士団長と、一番真面目な平騎士の二人が、汗を流しながら何でも屋のドアを修理する羽目になるのだった。
こうして、最悪で最高な『イレギュラー』たちの邂逅は幕を閉じる。
しかし、世界の歯車は、彼らを放ってはおかない。
「――カシャ。」
『残しておきましょう』
『第一星期・始星 終記録』[次の星期へ]
問題児に囲まれ苦労するゼノと魔女の『イレギュラー』に巻き込まれるルクス。
二人はここに「被害者同盟」を結ぶのであった!
そして、第一星期は終わりを迎え、第二星期へと移り変わります!
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引き続き
物語絵[イレギュラー]〜浮遊都市ルミナリアの何でも屋『星屑の軌跡』〜
を宜しくお願いします!




