観測者ーズ
王都のはるか上空。
雲海よりもさらに高く。
そこには、人の目では決して辿り着けない場所があった。
白い石で造られた円形の神殿。
柱だけが静かに並び、壁はない。
吹く風さえ、どこか神秘的だった。
その中央。
二人の人影が、巨大な光の水鏡を見つめている。
映っているのは。
王都を歩く千乃たちだった。
「……変わらないな。」
一人が静かに口を開く。
長い銀髪を後ろで束ねた青年。
金色の瞳が、水鏡をじっと見つめている。
「神格を得ても。」
「笑うことを忘れていない。」
隣では、小柄な少女が椅子に座り、頬杖をついていた。
「だから面白いんじゃない?」
少女はくすりと笑う。
「今までの神格保持者って、みーんな真面目だったもん。」
「力に飲まれるか。」
「力に酔うか。」
「そのどっちか。」
「でも、あの子は違う。」
青年は小さく頷いた。
「ああ。」
「だからこそ。」
「神魔境界は揺らいでいる。」
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少女は水鏡へ指先を伸ばす。
すると。
千乃の背中にある六枚の翼が映し出された。
「まだ六枚。」
「神格も三割くらいかな。」
青年は訂正する。
「正確には二割八分。」
「細かっ。」
少女が思わず笑う。
「相変わらず数字好きだね。」
「観測に誤差は許されない。」
青年は真顔だった。
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「でもさ。」
少女は急に表情を引き締める。
「問題は神じゃない。」
「ああ。」
青年も同じことを考えていた。
「魔側だ。」
二人の間に沈黙が流れる。
少女が小さく呟いた。
「……あっちは、もう気付いてるよ。」
「千乃のこと。」
青年も視線を遠くへ向ける。
「時間の問題だろう。」
「いずれ接触してくる。」
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その頃。
世界のどこか。
光の届かない巨大な空洞。
漆黒の湖。
その中央に、一つの玉座があった。
誰も座っていない。
しかし。
その玉座の周囲だけ、黒い魔力が渦を巻いている。
ゆらり。
黒い霧が集まり、一つの影を作る。
「……神格。」
低い声。
男とも女とも分からない。
「また生まれたか。」
影はゆっくり笑う。
「面白い。」
「まだ神へ傾いている。」
「ならば。」
「堕とす価値がある。」
その言葉と共に、黒い霧が四方へ散った。
まるで命令を受けたように。
世界各地へ飛び去っていく。
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一方、王都。
「くしゅん!」
千乃が小さなくしゃみをした。
「風邪か?」
真銀が心配そうに尋ねる。
「ううん。」
千乃は首を傾げる。
「なんか……。」
「嫌な感じがしただけ。」
ミルは肩の上で静かに目を閉じる。
『始まったか。』
「ん?」
『いや。』
『独り言だ。』
ミルはそれ以上何も話さなかった。
だが、その赤い瞳には。
これまでにない警戒の色が宿っていた。
神を見守る者たち。
そして、神を堕とそうとする者たち。
誰にも知られない場所で。
二つの勢力が、静かに動き始めていた。




