いつもの一日(?)
翌朝。
「いただきまーす!」
宿の食堂には、いつも通りの賑やかな声が響いていた。
ララは人型のまま、焼きたてのパンを両手に持って笑顔を浮かべる。
「今日はパンがふわふわ!」
「ゆっくり食べろ。」
ライが呆れたように言う。
「分かってるよー!」
「……と言いながら、もう三個目ですが。」
アイシィがくすっと笑う。
真銀も苦笑しながらコーヒーを口に運んだ。
「平和だな。」
「うん。」
千乃も頷く。
神化した姿は相変わらずだった。
六枚の翼。
右目の金色。
左目のピンク。
純白の衣。
最初は宿の人たちも驚いていたが、数日もすると、
「今日も神様みたいできれいだね。」
「あ、ありがとうございます……。」
という程度になっていた。
慣れとは恐ろしい。
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食後。
「今日は何する?」
ララが元気よく尋ねる。
千乃は少し考える。
「街を歩こうかな。」
「飛ばないの?」
「今日は普通に歩きたい気分!」
神靴で石畳をコツ、コツと鳴らしながら歩く。
以前は車椅子だったことが、もうずいぶん昔のように感じられた。
真銀たちも自然とその後ろを歩く。
街は今日も賑わっていた。
八百屋のおじさんが野菜を並べ。
子どもたちが走り回り。
大道芸人が歓声を集めている。
「やっぱり王都はにぎやかだね。」
「そうだな。」
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その時。
「お姉ちゃん!」
小さな男の子が千乃の前で転んだ。
「いたた……。」
千乃はすぐにしゃがみ込む。
「大丈夫?」
「う、うん……。」
膝を擦りむいている。
血が少しだけ滲んでいた。
千乃は右手を伸ばしかけて……止めた。
(癒光は、さすがに大げさかな。)
擦り傷一つで超上級魔法を使えば、また騒ぎになる。
そこで宿でもらった小さな救急袋から布を取り出し、優しく傷口を拭いた。
「これで大丈夫。」
「ありがとう!」
男の子は笑顔になる。
「お姉ちゃん、羽きれー!」
「あはは、ありがとう。」
男の子は手を振りながら母親の元へ戻っていった。
その様子を見ていた真銀が笑う。
「魔法を使わなかったんだな。」
「うん。」
千乃も笑う。
「何でも魔法に頼るのは違う気がして。」
「必要な時だけ使う。」
「それでいいと思う。」
真銀は静かに頷いた。
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その光景を。
通りの向かい側から、一人の老人が見ていた。
白いひげ。
質素なローブ。
杖をついた、ごく普通の老人にしか見えない。
「……。」
老人は目を閉じ、小さく息を吐く。
「迷いなく人を助けるか。」
「力を見せびらかすこともない。」
「なるほど。」
その瞳には、普通の人間ではない鋭さが宿っていた。
「これなら、まだ大丈夫そうじゃな。」
老人は誰にも聞こえない声で呟くと、人混みの中へ姿を消した。
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その日の夕方。
宿へ戻る途中。
千乃の翼が、ふわりと震えた。
「……また?」
「どうした?」
真銀が足を止める。
千乃は空を見上げた。
「誰かが……。」
「見てる。」
ララが周りを見回す。
「えっ!? どこどこ?」
ライは目を閉じ、気配を探る。
しかし。
「……見つからない。」
アイシィも首を横に振る。
「気配がありません。」
ミルだけが静かに空を見上げていた。
『消えたか。』
「知ってるの?」
『まだ話す時ではない。』
ミルはそれ以上何も言わなかった。
夕焼けが王都を赤く染める。
その空のずっと上。
雲のさらに向こうで。
二つの人影が、静かに千乃を見下ろしていた。




