のどかな日常の裏側
神捕獲隊との一件から五日。
王都は、驚くほど平和だった。
少なくとも、表向きは。
「千乃ー! 朝ごはんできたよー!」
「今行くー!」
宿の食堂には、いつもの賑やかな声が響いていた。
テーブルには焼きたてのパン、スープ、卵料理。
ミルは小さな神龍の姿で千乃の肩に乗り、興味津々に食卓を見つめている。
『これが人の朝食か。』
「うん!」
「普通のご飯、おいしいよ!」
『主は魔力だけでも活動できるはずだが。』
「できるけど、食べるの好きだから!」
『なるほど。』
ミルは小さく頷いた。
『実に主らしい。』
「えへへ。」
ララは人型に戻り、パンを頬張る。
「おいしー!」
ライも人型で静かにコーヒーを飲む。
「……平和だな。」
アイシィは微笑みながらスープを口に運ぶ。
「こういう時間も大切ですね。」
真銀も苦笑した。
「数日前まで神捕獲隊に囲まれてたとは思えないな。」
「ほんとだね。」
千乃は笑顔で答える。
その笑顔は、神モードの冷たい雰囲気ではなく、いつもの千乃だった。
ただ一つ違うのは。
背中の六枚の翼だけは、まだ消えていなかった。
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食事を終えた後。
宿の裏庭。
「よし!」
千乃は軽く身体を動かす。
神靴で地面を蹴る。
トンッ。
ふわりと浮かぶ。
以前なら魔力を強く意識しなければ飛べなかった。
今では呼吸をするように自然だった。
「制御がさらに安定してるな。」
真銀が腕を組む。
ライも頷く。
「神格の力が身体に馴染み始めている。」
「でも。」
千乃は翼を見上げる。
「天気を変えるのとか、ミルを呼ぶのとかは、まだ疲れちゃう。」
『当然だ。』
肩の上でミルが答えた。
『主はまだ神格を完全には扱えておらぬ。』
『無理に力を引き出せば、身体にも魂にも負荷がかかる。』
「やっぱりそうなんだ。」
『飛行、羽、分身。』
『その三つが安定しているだけでも異常なのだ。』
真銀はその言葉に少し安心した。
「つまり、まだ無茶はするなってことだな。」
「うん。」
千乃は素直に頷いた。
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その頃。
王都の地下。
誰にも知られていない古い遺跡。
真っ暗な空間に、一人の男が立っていた。
ローブで全身を隠し、その顔は見えない。
男の前には、古びた水晶。
その中には。
六枚の翼を持つ千乃の姿が映し出されていた。
「……目覚めたか。」
男は静かに笑う。
「神では終わらない。」
「神魔境界。」
その言葉を口にした瞬間、水晶が黒く染まる。
「どちらへ傾くか。」
「それとも……。」
男は水晶へ手を伸ばした。
「第三の道を選ぶか。」
遺跡の奥で、何かが目を開く。
ズン……
重々しい振動が響いた。
男は振り返り、静かに告げる。
「まだだ。」
「今は眠っていろ。」
「時は、もうすぐ来る。」
闇の中で、巨大な影が再び静かに目を閉じた。
王都では誰も気付かない。
新たな脅威が、ゆっくりと動き始めていた。




