神捕獲隊
王都教会が大混乱に陥ってから三日。
「ふぅ……。」
王都郊外の草原。
千乃はゆっくりと空を飛んでいた。
「最初は怖かったけど……。」
六枚の光の翼が、まるで昔からそこにあったかのように動く。
ふわり。
くるり。
急上昇。
急停止。
「うん、飛ぶのはもう大丈夫!」
地上では真銀たちが見上げている。
「飲み込みが早すぎるだろ……。」
真銀は苦笑する。
ライも頷いた。
「神格の力が身体へ馴染み始めている。」
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「次は分身!」
千乃が小さく息を吸う。
「えっと……。」
「こうかな?」
パチン。
指を鳴らす。
ボンッ!
千乃が二人になった。
「できた!」
「わぁ!」
ララが目を輝かせる。
しかし。
終わらない。
「え?」
二人目の千乃が。
「私もできるかな?」
ボンッ。
さらに二人。
「……。」
「え?」
四人になった。
「待って。」
ボン。
ボン。
ボンボンボンボンボン!!
八人。
十六人。
三十二人。
「増えてる増えてる増えてる!」
真銀が慌てる。
ライも珍しく顔色を変えた。
「止めろ!」
「止め方分かんない!」
「えぇ!?」
草原いっぱいに千乃。
「こんにちはー!」
「こんにちは!」
「こんにちは!」
「こんにちはー!」
「千乃だらけだ!」
ララが笑い転げる。
アイシィも思わず笑ってしまった。
「可愛いです……。」
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十分後。
「消えて!」
シュン。
全員消えた。
「できた!」
「今ので何人いたんだ……。」
真銀が頭を抱える。
ライは静かに答えた。
「数えるのを途中でやめた。」
「無限に増えられるって、こういうことか……。」
千乃も苦笑する。
「分身体も分身できるみたい。」
「それ災害だぞ。」
真銀が即答した。
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「最後は……。」
千乃は右手を前へ向ける。
「羽。」
六枚の翼が静かに開く。
「敵意を感じた時だけ。」
「ちゃんと意識して。」
真銀たちは少し離れる。
前方には魔物が一体。
牙をむきながら飛びかかってくる。
「グルァァ!」
千乃は静かに右手を前へ出した。
「……。」
シュッ。
その小さな動きだけだった。
ズババババババババッ!!
翼から真紅に輝く羽根が一斉に飛び出す。
指先が描いた軌跡。
その通りに。
まるで意思を持つように曲がり。
魔物だけを追尾した。
「ギャァァ!」
一瞬。
魔物は動きを止める。
そして。
ドサッ。
倒れた。
「え?」
千乃が目を丸くする。
「一撃……。」
ライが近付き確認する。
「傷は浅い。」
「だが。」
「内部だけが壊されている。」
アイシィも驚く。
「毒……。」
ライは静かに頷いた。
「羽に、体内を蝕む力がある。」
真銀は千乃を見る。
「人には使うな。」
「うん。」
千乃は真剣な顔で頷いた。
「敵意がある相手だけ。」
「約束する。」
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その日の夕方。
王都。
冒険者ギルド地下。
一般冒険者は立ち入り禁止。
巨大な会議室。
そこには世界中から集められた、歴戦の冒険者たちが座っていた。
全員がSS級。
あるいは、それに匹敵する実力者。
壁には一枚の古い旗。
そこに描かれている紋章。
**神捕獲隊。**
数百年前。
神格を持つ存在が暴走した際に結成された、伝説の組織。
討伐ではない。
保護でもない。
**捕獲。**
それだけを目的とした特殊部隊だった。
長い沈黙の後。
隊長が口を開く。
白髪の老人。
だが、その眼光だけは現役そのもの。
「確認する。」
一枚の報告書が机へ置かれる。
「神格保持者。」
「名前。」
「千羽千乃。」
部屋が静まり返る。
「年齢。」
「十代半ば。」
「戦績。」
「世界修正体討伐。」
「奈落生還。」
「世界規模結界展開。」
「神格覚醒。」
誰かが小さく息を呑む。
老人は静かに続けた。
「現在確認されている能力。」
「飛行。」
「分身。」
「羽による超高速射撃。」
「その他、複数。」
「危険度。」
報告役は迷わず答えた。
「測定不能。」
老人は目を閉じる。
そして。
静かに宣言した。
「神捕獲隊。」
「全隊員へ通達。」
空気が張り詰める。
「対象。」
「神格保持者。」
「千羽千乃。」
老人の声が会議室へ響いた。
「**生け捕りにせよ。**」
その言葉に。
世界最強クラスの冒険者たちが、一斉に立ち上がった。




