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私にとって、嬉しい強制ペア

 翌朝。


 千羽千乃は、ギルドの掲示板の前で固まっていた。


 その横には、当然のように夜坂真銀がいる。


「……なんでいるの」


「ギルド長に呼ばれた」


「なんで」


「知らん」


 即答だった。


 受付の女性が、淡々と紙を差し出す。


《特例任務:真紅適格者の行動監視および同行》


「……監視?」


 千乃の声が一段低くなる。


 受付は目を逸らした。


「安全管理の一環です」


「私の安全?」


「世界の安全です」


「やめてそれ」


 真銀は紙を見て眉をひそめる。


「つまり、しばらく一緒に動けってことか」


「そういうことになります」


 ギルド長の声が奥から響く。


「異常戦力同士の接触は管理が必要だ」


「私は管理対象じゃないんだけど」


 千乃が即答する。


 だが却下される。


「却下」


 短い。


 強い。


 逃げ道なし。


---


 こうして。


 千羽千乃と夜坂真銀は、強制的にペアになった。


---


「で、最初の任務は?」


 真銀が歩きながら聞く。


「採取依頼」


「採取?」


「薬草」


「お前が?」


「私が」


 間。


「……本当に?」


「うるさい」


---


 森は静かだった。


 あまりにも平和すぎる。


「逆に怖いな」


 真銀が呟く。


「同感」


 千乃はノートを閉じたまま歩いていた。


 今日はあえて使わない。


 使わなくても済むなら、それでいい。


---


 薬草はすぐ見つかった。


 問題はそこからだった。


 地面が、沈んだ。


「……来ると思った」


 千乃の声は平坦だった。


 森の奥から現れるのは、巨大な魔獣。


 昨日までの比ではない。


 複数の核を持つ異常個体。


「採取依頼じゃないだろこれ」


 真銀が一歩下がる。


「うん」


 千乃は頷く。


「普通に討伐だね」


 軽い。


 軽すぎる。


---


 魔獣が咆哮する。


 空気が震える。


 真銀が剣を抜く。


「俺もやる」


「え」


「見てるだけは性に合わない」


 その瞬間。


 魔獣が動いた。


 速い。


 真銀の反応速度を超えている。


「――っ」


 間に合わない。


 そう思った瞬間だった。


 千乃の手が、軽く動いた。


停止(ストップ)


 ノートなし。


 詠唱だけ。


 魔獣の動きが止まる。


 完全に。


 時間でも空間でもない。


 ただ“動く理由”が失われた。


「……え?」


 真銀が固まる。


 千乃も一瞬止まる。


(今の、ノート使ってない)


 でも身体は勝手に動く。


「じゃあこれで」


 剣を抜く。


 黒い軌跡。


 一閃。


 魔獣は崩れ落ちる。


 それだけ。


---


 静寂。


 森が戻る。


 真銀は千乃を見る。


「……今の」


「見てた?」


「見てた」


「じゃあ説明いらないね」


「いやいるだろ」


---


 千乃は少しだけ目を逸らす。


(やば、普通にやっちゃった)


 でも口は軽い。


「まあ、たまにこうなる」


「たまに?」


「うん」


「絶対違うだろ」


 即ツッコミ。


 少しだけ空気が緩む。


---


 帰り道。


 真銀がぽつりと言う。


「お前さ」


「なに」


「昔より……変わったな」


 千乃は一瞬止まる。


「そう?」


「いや、悪い意味じゃない」


 間。


「前より、危ない」


「それ褒めてない」


「褒めてない」


 即答。


---


 ギルドへ戻ると、受付が固まった。


「……もう終わったんですか?」


「終わった」


「薬草は?」


「採れた」


「魔獣は?」


「いた」


「倒しました?」


「倒した」


 受付は紙を見て、ゆっくり閉じた。


「……早すぎます」


 千乃は肩をすくめる。


「普通だよ」


 真銀は横で即座に言う。


「普通じゃない」


---


 その夜。


 ギルドの記録帳に、また一行だけ増える。


 観測記録:二名体制により異常解決速度が更に上昇


 そしてその下に、手書きのメモ。


 危険:相互干渉開始


 だが誰も、それをまだ“意味”として理解していない。

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