表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
87/94

私だって、歩きたい!

恋愛ギルドとの騒がしい一日から数日後。


王都に借りている宿の一室。


千乃は机に向かい、一冊のノートを開いていた。


「……よし。」


真銀が椅子に座ったまま尋ねる。


「また何か作るのか?」


「うん。」


千乃は笑って頷く。


「今回は魔法じゃなくて……魔道具。」


「魔道具?」


「歩けるようになる靴を作ってみたいの。」


その言葉に、部屋の空気が少し変わる。


ララが勢いよく立ち上がった。


「ほんと!?」


ライも静かに顔を上げる。


「成功すれば……。」


アイシィは嬉しそうに微笑んだ。


「車椅子を卒業できるかもしれませんね。」


千乃は頷く。


「だから、やってみる。」


---


机の上には、真紅の紐が美しく編み込まれた一足の真っ白なブーツ。


そこへ千乃は、そっと右手を重ねた。


真紅の魔力が静かに流れ込む。


「我が歩みは止まらない。」


「世界の果てであろうと。」


「奈落の底であろうと。」


「私は、自分の足で進む。」


真紅の光が一気に膨れ上がる。


部屋中が赤く染まり、ブーツの内面へ複雑な魔法陣が刻まれていく。


千乃は静かに息を吸い込んだ。


「顕現せよ。」


終焉踏破(しゅうえんとうは)神靴(しんか)


ドンッ──


一瞬、部屋の床を震わせるほどの魔力が溢れた。


しかし次の瞬間には、何事もなかったように静まり返る。


机の上には。


白いブーツ。


まるでさっきと見た目は変わらない。


「できた……。」


千乃は小さく呟いた。


---


「履いてみろ。」


真銀が静かに言う。


「……うん。」


千乃は車椅子からゆっくり立ち上がる。


慎重に。


右足。


左足。


ブーツへ足を通す。


カチッ。


留め具がひとりでに閉じた。


「使用者、千羽千乃を認証。」


靴から、機械のような透き通った声が響く。


「魔力同期、開始。」


真紅の光が千乃の足元を包み込んだ。


「……っ。」


一瞬だけ身体が軽くなる。


膝に感じていた重さが、ふっと消えた。


「千乃?」


真銀が手を伸ばそうとする。


しかし。


「……大丈夫。」


千乃はその手を借りなかった。


一歩。


また一歩。


ゆっくりと歩き始める。


「歩ける……。」


信じられないように、自分の足を見る。


もう一歩。


さらに一歩。


ぎこちなさはある。


それでも。


自分の力で歩いている。


「歩けた……!」


その瞬間。


ララが飛びついた。


「千乃ぉぉぉ!!」


「わっ!」


「すごいすごいすごい!」


ライも珍しく微笑む。


「完成したな。」


アイシィは目を潤ませながら拍手した。


「おめでとうございます……。」


真銀は何も言わなかった。


ただ。


少しだけ目を伏せて笑う。


「……よかったな。」


その一言だけだった。


でも。


千乃には十分伝わった。


「うん。」


少し照れながら笑う。


「ありがとう。」


---


宿の入口。


ずっと使ってきた車椅子が静かに置かれている。


千乃はその前まで歩き、ゆっくりと手を添えた。


「いっぱい助けてもらったね。」


戦いの日々。


怪我をした日。


仲間と笑った日。


全部、この車椅子と一緒だった。


「今までありがとう。また何かあったら…よろしくね」


小さく頭を下げる。


真銀たちも静かに見守っていた。


そして千乃は顔を上げる。


メタルピンクの髪が揺れる。


金とピンク。


そのオッドアイには、もう迷いはなかった。


自分の足で、一歩踏み出す。


コツッ。


コツッ。


コツッ。


コツッ。


ブーツが石畳を鳴らす。


その音は、小さい。


けれど。


新しい物語の始まりを告げる音でもあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ