私だって、歩きたい!
恋愛ギルドとの騒がしい一日から数日後。
王都に借りている宿の一室。
千乃は机に向かい、一冊のノートを開いていた。
「……よし。」
真銀が椅子に座ったまま尋ねる。
「また何か作るのか?」
「うん。」
千乃は笑って頷く。
「今回は魔法じゃなくて……魔道具。」
「魔道具?」
「歩けるようになる靴を作ってみたいの。」
その言葉に、部屋の空気が少し変わる。
ララが勢いよく立ち上がった。
「ほんと!?」
ライも静かに顔を上げる。
「成功すれば……。」
アイシィは嬉しそうに微笑んだ。
「車椅子を卒業できるかもしれませんね。」
千乃は頷く。
「だから、やってみる。」
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机の上には、真紅の紐が美しく編み込まれた一足の真っ白なブーツ。
そこへ千乃は、そっと右手を重ねた。
真紅の魔力が静かに流れ込む。
「我が歩みは止まらない。」
「世界の果てであろうと。」
「奈落の底であろうと。」
「私は、自分の足で進む。」
真紅の光が一気に膨れ上がる。
部屋中が赤く染まり、ブーツの内面へ複雑な魔法陣が刻まれていく。
千乃は静かに息を吸い込んだ。
「顕現せよ。」
「終焉踏破神靴」
ドンッ──
一瞬、部屋の床を震わせるほどの魔力が溢れた。
しかし次の瞬間には、何事もなかったように静まり返る。
机の上には。
白いブーツ。
まるでさっきと見た目は変わらない。
「できた……。」
千乃は小さく呟いた。
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「履いてみろ。」
真銀が静かに言う。
「……うん。」
千乃は車椅子からゆっくり立ち上がる。
慎重に。
右足。
左足。
ブーツへ足を通す。
カチッ。
留め具がひとりでに閉じた。
「使用者、千羽千乃を認証。」
靴から、機械のような透き通った声が響く。
「魔力同期、開始。」
真紅の光が千乃の足元を包み込んだ。
「……っ。」
一瞬だけ身体が軽くなる。
膝に感じていた重さが、ふっと消えた。
「千乃?」
真銀が手を伸ばそうとする。
しかし。
「……大丈夫。」
千乃はその手を借りなかった。
一歩。
また一歩。
ゆっくりと歩き始める。
「歩ける……。」
信じられないように、自分の足を見る。
もう一歩。
さらに一歩。
ぎこちなさはある。
それでも。
自分の力で歩いている。
「歩けた……!」
その瞬間。
ララが飛びついた。
「千乃ぉぉぉ!!」
「わっ!」
「すごいすごいすごい!」
ライも珍しく微笑む。
「完成したな。」
アイシィは目を潤ませながら拍手した。
「おめでとうございます……。」
真銀は何も言わなかった。
ただ。
少しだけ目を伏せて笑う。
「……よかったな。」
その一言だけだった。
でも。
千乃には十分伝わった。
「うん。」
少し照れながら笑う。
「ありがとう。」
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宿の入口。
ずっと使ってきた車椅子が静かに置かれている。
千乃はその前まで歩き、ゆっくりと手を添えた。
「いっぱい助けてもらったね。」
戦いの日々。
怪我をした日。
仲間と笑った日。
全部、この車椅子と一緒だった。
「今までありがとう。また何かあったら…よろしくね」
小さく頭を下げる。
真銀たちも静かに見守っていた。
そして千乃は顔を上げる。
メタルピンクの髪が揺れる。
金とピンク。
そのオッドアイには、もう迷いはなかった。
自分の足で、一歩踏み出す。
コツッ。
コツッ。
コツッ。
コツッ。
ブーツが石畳を鳴らす。
その音は、小さい。
けれど。
新しい物語の始まりを告げる音でもあった。




