逃げろー!
「三。」
真銀が静かに数え始める。
恋愛ギルドの査定員たちは警戒し、一斉に身構えた。
「来ます!」
「包囲を狭めてください!」
「逃走経路を塞いで!」
ラブリー・スミスは腕を組み、自信満々に頷く。
「もう逃げられません!」
「二。」
真銀は小さく笑う。
千乃も口元を緩めた。
ララはぴょんぴょん跳ねながら準備運動。
ライは静かに地面を蹴る体勢に入る。
アイシィは小さな翼をぱたぱたと動かした。
「一。」
「今!」
その瞬間だった。
「散開!」
五人が一斉に別方向へ飛び出した。
「分かれたぁぁ!?」
「どっちを追えば!?」
「全部です!」
「無理です!」
王都のあちこちへ査定員が散っていく。
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ララは人混みの中をぴょんぴょん跳ね回る。
「こっちだよー!」
「待ちなさい!」
「追いつけるかなー!」
楽しそうだ。
完全に遊んでいる。
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ライは建物の影を音もなく駆け抜ける。
「右へ行ったぞ!」
「いや、左だ!」
「……違う。」
ライは屋根の上から静かに呟く。
「私は、ここだ。」
「うわぁぁぁ!?」
査定員たちは完全に振り回されていた。
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アイシィは空をふわふわ飛びながら、街の上をゆっくり旋回する。
「ドラゴンが上です!」
「誰か飛べませんか!」
「だから飛べません!」
「そうでした!」
「諦めるの早い!」
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そして。
真銀は千乃の車椅子を押しながら裏道を駆けていた。
「あと少しだ。」
「うん!」
車輪が石畳を軽やかに転がる。
「今回は逃げ切れるかな?」
千乃が笑う。
「……いや。」
真銀は苦笑した。
「たぶん無理だ。」
「なんで?」
「勘。」
「真銀まで!?」
二人が笑った、その時だった。
「見つけましたぁぁぁぁぁっ!!」
「やっぱり!」
ラブリー・スミスが角から飛び出してきた。
「恋愛観測は!」
「止まりません!」
「どこから来るんですか!」
「愛です!」
「絶対違います!」
そのやり取りを見ていた通行人が吹き出した。
「あははっ!」
「また恋愛ギルドだ!」
「今度は何日ぶり?」
「八日だって!」
「早すぎるだろ!」
街中に笑いが広がる。
査定員たちまで苦笑していた。
「ギルド長……。」
「やっぱり早いですよ。」
「いいえ!」
ラブリーは胸を張る。
「恋愛に早すぎるということはありません!」
「でも査定は早すぎます!」
職員からツッコミが飛ぶ。
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その様子を見ていた千乃は、小さく笑った。
「なんだか。」
「平和だね。」
真銀も周囲を見渡す。
世界修正体との死闘。
命懸けの戦い。
あの絶望を知っているからこそ。
こんな騒がしい日常が、少し愛おしく思えた。
「……そうだな。」
「平和だ。」
ララが戻ってきた。
「千乃ー!」
ライも静かに合流する。
「全員無事だ。」
アイシィもふわりと降りてくる。
「お待たせしました。」
五人が自然と並ぶ。
その姿を見たラブリーは、急に真剣な表情になった。
「……やっぱり。」
「この五人。」
「本当に素敵ですね。」
今までのような勢いはない。
静かに微笑みながら、ラブリーは続けた。
「恋人とか。」
「そういうものだけじゃありません。」
「仲間を信じること。」
「家族のように支え合うこと。」
「それも、大切な愛の形です。」
千乃は少し驚いたように目を瞬かせた。
「ラブリーさん……。」
「だから。」
ラブリーは、にっこり笑う。
「次の定期査定は!」
「三週間後です!」
「延びた!」
千乃が思わず声を上げる。
「八日じゃない!」
「職員のみんなに止められました!」
後ろでは査定員たちが一斉に頷いていた。
「さすがに八日は短すぎます!」
「ようやく説得できました!」
「ギルド長、お願いしますから予定は守ってください!」
ラブリーは照れくさそうに笑う。
「えへへ。」
その様子に、千乃たちも思わず笑ってしまう。
青空の下。
笑い声が王都に響いていた。
束の間の穏やかな日々は、まだしばらく続きそうだった。




