神魔境界の少女と三匹の従魔
王都の大通り。
世界を救った少女が歩いている。
その事実は、少しずつ人々へ広がっていた。
けれど。
すべての人が、尊敬の目で見るわけではない。
「おい。」
千乃たちが路地を抜けようとした時。
低い声が響いた。
振り返ると。
数人の男たちが道を塞いでいた。
冒険者というには装備が雑。
ただの荒くれ者。
街で有名なチンピラ集団だった。
「最近話題の英雄様ってのは、お前か?」
千乃は首を傾げる。
「えっと……。」
「英雄っていうか……千羽千乃だけど。」
その答えに、男たちは笑う。
「やっぱりか。」
「世界を救ったって言ってもなぁ。」
「そんな細い身体で何ができるんだ?」
真銀の表情が少し険しくなる。
「……。」
しかし。
千乃は手で制した。
「大丈夫。」
「話を聞くから。」
男はニヤニヤしながら近付く。
「へぇ。」
「意外と余裕あるじゃねぇか。」
その瞬間。
真っ白な影が前へ飛び出した。
「千乃に近付かないで!」
ララだった。
今は白い毛並みの小さなうさぎの姿。
しかし。
その瞳は完全に怒っている。
「うさぎ?」
男が笑う。
「こんなのが従魔かよ。」
次の瞬間。
ララの周囲に、ふわりと魔力が集まった。
「……。」
男たちの顔から笑みが消える。
ライが横に並ぶ。
青みがかった銀の毛並み。
蒼い瞳。
静かな声。
「忠告する。」
「今すぐ離れろ。」
「でないと。」
少し間を置く。
「後悔する。」
それでも男は引かなかった。
「狼が喋った!?」
「こいつら……普通の魔物じゃねぇぞ。」
アイシィがゆっくり前へ出る。
小さなアイスドラゴンの姿。
可愛らしい見た目。
でも。
放たれる魔力は、隠しきれない。
「……怒らせました。」
「千乃を。」
「傷付けようとした。」
その一言で。
空気が変わった。
男たちが一歩下がる。
「な、なんだよ……。」
千乃はため息をつく。
「ララ。」
「ライ。」
「アイシィ。」
「大丈夫だから。」
三匹は千乃を見る。
そして。
ララが頬を膨らませる。
「でも!」
「千乃、前も自分ばっかり傷付いたじゃん!」
ライも頷く。
「今回は守る側だ。」
アイシィも小さく翼を広げる。
「少しだけ。」
「反省してもらいます。」
千乃は苦笑した。
「ほどほどにね?」
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数分後。
路地には。
地面に座り込む男たちの姿があった。
服は汚れている。
武器は壊れていない。
ただ。
心は完全に折れていた。
「……。」
「……。」
男たちは目の前を見る。
そこには。
小さなうさぎ。
小さな狼。
小さなドラゴン。
三匹の魔物。
「災害級って……。」
「本当に存在するんだな……。」
ライが静かに言う。
「次は、人を見る目を持つことだ。」
ララは腕を組む。
「千乃を馬鹿にしちゃダメ!」
アイシィは少し申し訳なさそうに首を傾げる。
「少し怖がらせすぎましたか?」
千乃は笑う。
「うん……たぶん。」
その様子を見ていた周囲の人々。
最初は驚いていた。
しかし。
少しずつ笑顔が広がっていく。
「あの子……。」
「本当に優しいんだな。」
「従魔たちも、あの子を大切にしてる。」
その時。
遠くから声が響いた。
「発見しましたぁぁぁぁ!!」
嫌な予感。
千乃が振り向く。
そこには。
ピンクの髪を揺らしながら走ってくる女性。
ハート型メガネ。
満面の笑顔。
「千羽千乃さぁぁぁぁん!」
「恋愛ギルド定期査定のお時間でぇぇぇぇす!!」
「……。」
千乃の顔が固まる。
真銀は額を押さえた。
ララは耳を伏せる。
ライは静かにため息。
アイシィは小さく呟いた。
「また来ました。」
世界規模の異変より。
ある意味、英雄と呼ばれる千乃一行でも最も対応が難しい存在。
ラブリー・スミス。
再来。




