消えた英雄〜ラブリー・スミスも真顔に?!〜
翌朝。
それでも、千乃は戻らなかった。
真銀は一睡もしていない。
シリウスの手綱を握り直し、真っ直ぐ前を見る。
「星の箱にはいない。」
「なら、外だ。」
ノエルが静かに一礼した。
「お嬢様がゲートを開いた形跡はありません。」
「ですが、他に可能性がない以上、外の捜索へ移るべきかと。」
真銀は頷く。
「ああ。」
「星の箱を出る。」
ライが立ち上がる。
「俺も行く。」
ララは勢いよく手を挙げた。
「もちろん!」
アイシィも頷く。
「空から探す。」
「よし。」
真銀は右手を前へ伸ばした。
「千乃。」
「絶対に見つける。」
---
「星の箱、ゲートオープン。」
真紅の魔法陣が静かに回転し始める。
千乃がいないため、本来なら開くはずのないゲート。
しかし、以前千乃が設定していた緊急権限により、真銀だけは開閉を許可されていた。
赤い渦がゆっくりと広がる。
「行くぞ。」
真銀はシリウスに跨り、そのままゲートを駆け抜けた。
続いてアイシィが翼を広げる。
「しっかりつかまって。」
「うん!」
ララが前へ。
ライが後ろへ乗る。
「飛ぶよ!」
巨大な翼が一度羽ばたく。
アイシィはそのまま空へ舞い上がった。
---
街へ着いた瞬間だった。
「真銀さん!?」
冒険者が目を丸くする。
「千乃さんは一緒じゃないんですか?」
その一言に。
真銀は短く答えた。
「行方不明だ。」
一瞬。
街の空気が止まった。
「……え?」
「嘘だろ。」
「世界修正体を倒した、あの千乃さんが?」
その話は、一瞬で広がった。
冒険者ギルド。
受付嬢が慌てて鐘を鳴らす。
「緊急招集!」
「SSS級冒険者・千羽千乃さんが行方不明です!」
ギルド中が騒然となる。
「総出で探せ!」
「目撃情報を集めろ!」
「伝令を飛ばせ!」
依頼掲示板には新しい紙が貼られた。
**《特別緊急捜索依頼》**
**対象:千羽千乃**
**報酬:冒険者ギルド特別支給**
誰も迷わなかった。
「あの人には恩がある。」
「探そう。」
「今度は俺たちが助ける番だ!」
街中の冒険者たちが、一斉に動き始める。
---
その頃。
「た、大変です!!」
恋愛ギルド本部。
勢いよく扉が開く。
査定員が息を切らしながら飛び込んできた。
「ギルド長!!」
ラブリー・スミスは優雅に紅茶を飲んでいた。
「どうしました?」
「落ち着いて。」
「恋は逃げません。」
「恋じゃありません!!」
査定員が叫ぶ。
「特別観察対象No.001!」
「千羽千乃さんが行方不明です!!」
カシャン。
ティーカップが止まる。
部屋が静まり返った。
ラブリー・スミスはゆっくり立ち上がる。
いつもの笑顔はない。
「……本当ですか。」
「はい!」
「真銀さんたちが総出で捜索しています!」
「星の箱にもいません!」
「どこにも……!」
ラブリー・スミスは静かに目を閉じる。
数秒後。
ぱちり、と目を開いた。
その瞳には、迷いがなかった。
「恋愛ギルド、総動員。」
部屋中がどよめく。
「えっ!?」
「恋愛案件じゃ……。」
「いいえ。」
ラブリー・スミスは真っ直ぐ前を見据えた。
「これは。」
「恋愛ギルド史上、最優先案件です。」
「特別観察対象No.001。」
「絶対に見つけ出します。」
「恋は。」
そこで一度言葉を切り、小さく微笑む。
「世界だって動かすんですから。」
その号令とともに、恋愛ギルドもまた、一斉に動き始めた。
世界を救った少女を探すために。
そして、その頃。
誰も知らない、誰も辿り着けない白い空間で。
千乃は、ゆっくりと目を開けようとしていた。




