ちょっとそこまで
星の箱での生活が始まって、数日。
千乃の傷も少しずつ癒え、車椅子から立つ練習も始まっていた。
「よし……。」
庭へ続く石畳の上。
真銀がすぐ隣で支えながら、千乃はゆっくりと一歩を踏み出す。
「……できた。」
「すごいじゃねぇか。」
真銀が自然と笑う。
「でも、無理はするなよ。」
「うん。」
千乃も嬉しそうに笑った。
「今日は少しだけ、一人で歩いてみたい。」
「一人で?」
「すぐそこまでだから。」
指差した先は、庭の奥にある白い花畑。
歩いて数分もかからない距離だ。
真銀は少し迷ったが、小さく息を吐く。
「分かった。」
「でも、何かあったらすぐ呼べ。」
「うん!」
千乃はゆっくりと歩き出した。
まだぎこちない足取り。
それでも、自分の足で歩けることが嬉しくて仕方がない。
真銀はその後ろ姿を見送りながら、小さく笑った。
「……頑張れ。」
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数分後。
「……遅いな。」
真銀が時計を見る。
花畑まで行って戻るだけなら、とっくに帰ってくる時間だった。
「千乃?」
返事はない。
真銀は立ち上がる。
「ララ。」
「なぁに?」
「千乃見なかったか?」
「見てないよ?」
ララも辺りを見回した。
ライもすぐに異変を察する。
「戻っていないのか。」
「ああ。」
「嫌な予感がする。」
アイシィも小さなアイスドラゴンの姿で羽を広げた。
「探そう。」
四人は庭へ向かった。
花畑。
湖。
訓練場。
研究室。
氷の城の廊下。
どこにもいない。
「そんな……。」
ララの耳がしゅんと垂れる。
「千乃ー!!」
大きな声が庭へ響く。
返事はない。
ライは地面に鼻を近づけ、匂いを追う。
「……ここまではある。」
真銀も駆け寄る。
「どこだ。」
「ここで途切れている。」
ライの表情が険しくなる。
「まるで、この場所から消えたようだ。」
空気が張り詰める。
真銀はすぐに叫んだ。
「シリウス!」
遠くから氷の馬が駆けてくる。
白銀のたてがみを揺らし、真銀の前で止まった。
「悪い、付き合え。」
真銀はシリウスへ飛び乗る。
「星の箱中を探す!」
シリウスは力強く嘶き、一気に駆け出した。
同時にアイシィも光に包まれる。
小さな姿ではない。
本来ほど巨大ではないが、十分に大きなアイスドラゴンの姿へ変わる。
「乗って!」
「うん!」
ララが勢いよく背中へ飛び乗る。
ライも軽く跳躍し、その後ろへ着地した。
「東側は俺たちが探す!」
アイシィは大きな翼を広げる。
氷の粒が舞い上がり、次の瞬間には空高く飛び立っていた。
真銀はシリウスで城外へ。
ララたちは空から森や湖を見渡す。
城の中も。
城の外も。
氷の平原も。
星の箱の隅々まで。
何度探しても。
千乃は、どこにもいなかった。
夜になっても。
誰一人、諦めなかった。
ララは泣きそうな声で叫び続ける。
「千乃ーーっ!!」
ライは冷静さを保ちながらも、拳を強く握り締める。
「どこへ行った……。」
アイシィは何度も空を旋回し、魔力の気配を探した。
「見つからない……。」
真銀はシリウスの手綱を握る手に力を込める。
「……千乃。」
その声だけが、静かな星の箱に消えていった。




