本来の姿
星の箱に帰ってきてから数日。
傷も少しずつ癒え、穏やかな時間が流れていた。
今日は特に予定もない。
城の大広間では、真銀がソファに腰掛け、本を読んでいる。
千乃は車椅子に座り、窓から広がる景色をぼんやり眺めていた。
その時だった。
ララが大きく伸びをする。
「ん~~~~っ!」
耳まで伸びるような勢いで背伸びをしたあと、不満そうに頬を膨らませた。
「やっぱり、人の姿って疲れる!」
「そうなの?」
千乃が首を傾げる。
「うん!」
ララは元気よく頷く。
「便利なんだけどね! やっぱり本当の姿の方が落ち着く!」
ライも静かに本を閉じた。
「俺も同感だ。」
「外では人目があるから人型でいるが、ここは星の箱。」
「誰に気を遣う必要もない。」
アイシィも穏やかに微笑む。
「私も、本当の姿になりたい。」
「本来ならもっと大きいけど……。」
「ここでも、お城を壊しちゃうから小さい姿で。」
千乃は三人を見て、にっこり笑った。
「もちろん。」
「ここはみんなのお家でもあるんだから、好きな姿で過ごしていいよ。」
その言葉を聞いた瞬間だった。
「やったぁ!」
ララの身体が真っ白な光に包まれる。
ふわり、と魔力が舞い上がり、人の姿がゆっくりと変わっていく。
光が消えると、そこにいたのは真っ白でもふもふの大きなうさぎ。
雪みたいに柔らかな毛並み。
ぴんと伸びた長い耳。
くりっとした赤い瞳が嬉しそうに細まる。
「やっぱりこの姿が一番!」
ララはぴょんっと跳ね、そのまま千乃の膝へ飛び乗った。
「わっ!」
「えへへ♪」
頬をすりすりともふもふ押し付けてくる。
「ララ、くすぐったいよ。」
千乃が笑うと、ララも嬉しそうに耳を揺らした。
続いてライが立ち上がる。
「では、俺も。」
青い魔力が身体を包み込む。
人の姿がゆっくりと変化し、現れたのは青みがかった銀色の毛並みを持つ、美しい狼。
澄んだ蒼い瞳は相変わらず落ち着いている。
尻尾がゆっくり揺れた。
「……やはり落ち着く。」
真銀は思わず見惚れる。
「綺麗な毛並みだな。」
「ありがとう。」
ライは少しだけ照れくさそうに目を細めた。
「手入れは欠かしていないからな。」
最後はアイシィ。
「私も戻るね。」
淡い氷色の光が舞い、次の瞬間、小さなアイスドラゴンが姿を現した。
本来なら街一つほどの身体。
けれど今は、猫くらいの大きさしかない。
透き通るような氷の鱗。
青白く輝く翼。
長い尻尾が楽しそうに揺れている。
「このくらいなら、お城の中でも安心。」
そう言って、ぱたぱたと飛び上がる。
ララが目を輝かせた。
「アイシィかわいい!」
「ありがとう。」
アイシィは照れ笑いを浮かべながら、ふわりと千乃の肩へ降り立った。
「軽い……。」
千乃は優しく頭を撫でる。
「鱗、つるつる。」
「気持ちいいでしょ?」
「うん。」
真銀は三匹を見回し、ふっと笑った。
「なんだか、こっちの方が自然だな。」
ライが頷く。
「人型も便利だ。」
「だが、本来の姿は落ち着く。」
ララも元気よく耳をぴこぴこさせる。
「必要な時だけ人型になればいいもんね!」
「うん。」
アイシィも翼をたたみながら微笑む。
「好きな姿で過ごせる場所。」
「それが星の箱。」
千乃はそんな三匹を見渡し、穏やかに笑った。
「ふふっ。」
「みんな、本当の姿もすごく素敵だよ。」
その言葉に、ララは照れくさそうに耳をぱたぱた動かし、ライは静かに尻尾を揺らし、アイシィは嬉しそうに小さく鳴いた。
戦いの傷跡はまだ残っている。
それでも、この場所には穏やかな笑顔があった。
星の箱は今日も、大切な仲間たちを優しく包み込んでいた。




