星の箱の夜
食事が終わっても。
星の箱の中には、まだ明るい声が響いていた。
「ねぇねぇ!」
ララが目を輝かせながら千乃を見る。
「このお城、全部見ていい?」
「全部?」
千乃が少し考える。
「うーん……。」
「広いよ?」
「どのくらい?」
ララが首を傾げる。
千乃は少しだけ視線を逸らした。
「……歩いて回るなら、一日じゃ足りないかも。」
「え?」
「え?」
ララと真銀の声が重なる。
ライが静かに息を吐いた。
「やはり規模がおかしい。」
アイシィも頷く。
「空間収納ではない。」
「もう住める場所。」
千乃は苦笑する。
「そんなつもりじゃなかったんだけど……。」
「作っていたら広がった。」
真銀がすぐに返す。
「その言葉、便利すぎるだろ。」
「本当に広がったんだもん。」
「普通は広がらねぇよ。」
そんな会話をしていると。
ノエルが近づいてきた。
『お嬢様。』
「なに?」
『ご案内したい場所がございます。』
千乃が首を傾げる。
「まだ何かあるの?」
ノエルは小さく頷く。
『はい。』
『お嬢様がお帰りになった時、一番最初に見ていただきたいと思っていた場所です。』
その言葉に、千乃の表情が少し変わる。
「……?」
ノエルが先頭に立つ。
城の長い廊下を進む。
氷の壁には、星のような光が流れていた。
ララはきょろきょろしながら歩く。
「すごい……。」
「壁が光ってる。」
ライは周囲を観察する。
「魔力循環式か。」
アイシィは静かに呟く。
「きれい。」
やがて。
一つの扉の前に着く。
他の扉とは違う。
大きく、中央に真紅の紋章が刻まれている。
ノエルが扉の前で止まった。
『ここです。』
千乃が近づく。
そして。
扉に手を触れた。
魔力が反応する。
カチッ。
静かな音。
扉が開く。
その先にあったのは――
巨大な部屋。
壁一面に、本。
魔法具。
研究資料。
そして。
たくさんのノート。
「……。」
千乃が固まる。
「ここ……。」
ノエルが答える。
『お嬢様の研究室です。』
「研究室……。」
ララが中を覗き込む。
「すごい量!」
ライも驚いた。
「これ全部、千乃が?」
「うん。」
千乃はゆっくり中へ入る。
懐かしい。
ここは、千乃が一人で魔法を作っていた場所。
まだ異世界に来る前。
まだ何も知らなかった頃。
ただ想像して。
書いて。
形にしたもの。
その中には。
あのノートもあった。
「……。」
千乃は机を見る。
そこには、一冊の古いノートが置かれていた。
真紅の表紙。
見覚えがある。
真銀が気づく。
「それ……。」
千乃は頷く。
「うん。」
「最初のノート。」
世界を変えた始まり。
厨二病だった頃の想像。
それが、今では本物の力になった。
千乃はそっと表紙に触れる。
「まさか。」
「こんな未来になるなんて思わなかったな。」
真銀は隣に立つ。
「でも。」
「なった。」
千乃を見る。
「お前の書いたものが。」
「全部、誰かを守る力になった。」
千乃は少し黙る。
そして。
「……そっか。」
小さく笑った。
その時。
ララが机の横から声を上げる。
「あ!」
「これなに?」
全員が振り向く。
ララが指差しているのは。
一枚の紙。
そこに書かれていたのは――
まだ誰にも使われていない。
新しい技名。
千乃のノートの。
空白だったページ。
その一番上に。
新しい文字が、ゆっくり浮かび始めていた。




