星の箱の晩餐会
「歓迎会を開催します!」
ノエルの声が響いた。
「……え?」
千乃が瞬きをする。
「いや、待って。」
「今帰ってきたばかりなんだけど……。」
しかし。
十体のゴーレムたちは、すでに動き始めていた。
『準備開始!』
『料理担当、移動します!』
『食堂の整備を開始!』
『照明調整!』
『歓迎用装飾、展開します!』
カタカタカタカタッ!
小さな体からは想像できないほどの速度で、城の中が変わっていく。
「……。」
真銀はその様子を見て、呆然としていた。
「すごいな。」
ライも頷く。
「統率が取れている。」
「戦闘部隊より動きがいいかもしれない。」
「褒めてるの?」
ララが首を傾げる。
「半分は。」
「半分なんだ。」
アイシィは楽しそうに城内を見回す。
「賑やか。」
少し前まで。
ここは静かな場所だった。
千乃が一人で作った、誰にも知られていない場所。
それが今は。
仲間たちの声で満たされている。
しばらくすると。
『準備完了です!』
フレアとソルが胸を張った。
案内された先。
そこには、大きな食卓があった。
氷で作られた長いテーブル。
その上には、たくさんの料理が並んでいる。
「えっ……。」
千乃が目を丸くする。
「これ……。」
料理は普通のものだった。
温かいスープ。
焼きたてのパン。
色とりどりの料理。
果物。
そして、甘いお菓子。
「すごい……。」
ララの目が完全に輝く。
「食べていい!?」
「待て。」
ライが止める。
「まだ座ってない。」
「でもいい匂い!」
「だからだ。」
アイシィは小さく笑った。
「ララらしい。」
全員が席につく。
千乃の隣には真銀。
向かいにはララ、ライ、アイシィ。
そして、その周囲を十体のゴーレムたちが囲んでいる。
『お嬢様。』
ノエルが静かに言う。
『本日は特別な日です。』
「特別?」
『はい。』
『お嬢様がお仲間と共に帰還された日です。』
千乃は少し黙った。
その言葉が、胸に響いた。
昔。
この場所にいた時。
いつか誰かをここに招くなんて、考えたこともなかった。
ただ一人で。
魔法を研究して。
失敗して。
成功して。
この場所を作った。
でも今は。
「……そっか。」
千乃は小さく笑う。
「帰ってきたんだね。」
真銀が横を見る。
「?」
「いや。」
千乃は首を振る。
「なんでもない。」
その瞬間。
ララが勢いよく手を挙げた。
「いただきます!!」
「早い。」
全員が笑う。
そして。
久しぶりの食事が始まった。
「おいしい!」
ララが満面の笑みを浮かべる。
「普通の料理なのに、なんかすごい!」
「ちゃんと作ったから。」
ソルが胸を張る。
『お嬢様がお戻りになる日を想定し、毎日練習していました。』
「毎日!?」
千乃が驚く。
ライも少し表情を変える。
「……ずっと?」
『はい。』
『いつ帰られてもいいように。』
千乃は言葉を失う。
「……。」
そして。
「ありがとう。」
小さく、でもはっきり言った。
十体のゴーレムたちは、嬉しそうに頭を下げる。
『もったいなきお言葉です。』
真銀はその光景を静かに見ていた。
戦いの中で見た千乃とは違う。
世界を救うために戦った少女。
傷だらけになっても立ち上がった少女。
その千乃が今。
ただ笑っている。
それが何より嬉しかった。
「真銀?」
「ん?」
「どうしたの?」
「いや。」
真銀は少しだけ笑う。
「……ここ、いい場所だなって思っただけだ。」
千乃も笑った。
「うん。」
「私もそう思う。」
氷の城の食堂に、笑い声が響く。
外の世界では。
まだ恋愛ギルドが「特別観察対象」を探しているかもしれない。
でも今だけは。
追いかけてくる声も。
戦いの記憶も。
全部忘れて。
ただ穏やかな時間が流れていた。




