お嬢様っ、お嬢様っ♬
カタカタカタカタッ!
音はどんどん近づいてくる。
「来るぞ。」
ライが一歩前へ出る。
ララも身構えた。
「敵?」
アイシィも静かに視線を向ける。
「魔力反応……複数。」
真銀は反射的に千乃の車椅子の前へ立つ。
「千乃。」
「うん、大丈夫。」
当の本人だけは慌てていなかった。
やがて廊下の奥から、小さな人影が飛び出してくる。
一体。
二体。
三体。
全部で十体。
小さな氷のゴーレムたち。
頭には小さな執事帽やメイドキャップを被り、それぞれがモップやほうき、ティーセット、工具などを抱えている。
「おぉ……。」
真銀が目を丸くした。
ゴーレムたちは千乃を見つけるなり、一斉に立ち止まる。
数秒の沈黙。
そして。
『『『おかえりなさいませ、お嬢様!!』』』
声がぴったり揃った。
そのまま一斉にぺこりと頭を下げる。
「えぇぇぇぇ!?」
ララが思わず叫ぶ。
「しゃべった!」
ライも少し驚いたように目を細める。
「意思があるのか……。」
アイシィは優しく微笑む。
「かわいい。」
千乃は嬉しそうに笑った。
「ただいま。」
その一言だけで十分だった。
ゴーレムたちは飛び跳ねるように喜び始める。
『お嬢様がお帰りになられました!』
『本当にお久しぶりです!』
『二千三百四十八日ぶりです!』
『お掃除完了率、百パーセント維持!』
『お部屋、毎日磨きました!』
『お料理の準備もできます!』
『歓迎会を開催します!』
「えっ。」
千乃が固まる。
「二千……?」
真銀がゆっくり振り返る。
「おい。」
「何年放置してた。」
「あ、あはは……。」
乾いた笑いしか出ない。
「ちょっと忙しくて……。」
「『ちょっと』の規模じゃない。」
ララはゴーレムたちの輪に入っていた。
「すごーい!」
「みんな名前あるの?」
その言葉に、十体のゴーレムたちは一斉に胸を張った。
『もちろんです!』
一番前にいた、少し大きめのゴーレムが一歩出る。
胸元には金色のプレート。
『私はノエル。』
『この星の箱の管理を担当しています。』
続いて、隣のゴーレムが小さく礼をする。
『私はフレアです。料理とお茶の準備を担当しています。』
『シュネです。お掃除担当です。』
『ルークです。警備担当です。』
『クロムです。工房と修理担当です。』
『リーフです。庭園と畑の管理担当です。』
『アクアです。湖と温泉の管理担当です。』
『ソルです。厨房担当です。』
『ミントです。洗濯と裁縫担当です。』
『ステラです。図書室と記録管理担当です。』
ララが目を輝かせる。
「すごい!」
「ちゃんとみんな違うんだ!」
ライも感心したように頷く。
「役割まで分けているのか。」
アイシィは小さなゴーレムたちを見ながら微笑む。
「大切にされていたんだね。」
その言葉に、千乃は少しだけ照れた。
「うん。」
「私が作った時に、一体ずつ名前を付けたの。」
真銀が千乃を見る。
「名前まで?」
「うん。」
千乃は城の中を見回す。
「ずっとここを守ってくれてたから。」
ノエルが静かに頭を下げる。
『お嬢様からいただいた名前。』
『我々にとって、何より大切なものです。』
千乃は少しだけ目を細めた。
その横で、ララが嬉しそうに笑う。
「だからみんな千乃のこと好きなんだね!」
『はい!』
十体のゴーレムが即答する。
『『『お嬢様は、我々の大切な主です!』』』
その声に、千乃は少しだけ照れくさそうに笑った。
真銀はその光景を見て、静かに息を吐く。
「……なるほどな。」
「ここが、お前の帰る場所ってわけか。」
千乃は頷く。
「うん。」
「星の箱は、私が作った場所だけど。」
「みんながいるから、帰ってきたい場所になったんだと思う。」
氷の城の中に、優しい空気が広がる。
長い間待ち続けた十体のゴーレムたちは。
ようやく帰ってきた主を、もう一度迎えることができた。
名前担当
ノエルリーダー・執事長
フレアメイド長・お茶担当
シュネお掃除担当
ルーク警備担当
クロム工房・修理担当
リーフ庭・畑担当
アクア温泉・水管理担当
ソル厨房担当
ミント洗濯・裁縫担当
ステラ図書室・記録担当




