ただいま!
氷の大扉をくぐると、ひんやりとした空気が頬をなでた。
外から見ても十分大きかった城は、中に入るとその何倍もの広さを感じさせる。
高い天井には氷のシャンデリアが静かに輝き、磨き上げられた床には全員の姿が映り込んでいた。
「……すげぇ。」
真銀が思わず足を止める。
戦いの最中でも驚いた顔をあまり見せない彼が、素直に感心していた。
「こんなお城だったんだ。」
アイシィもゆっくりと周囲を見回す。
「氷なのに……暖かい。」
「うん。」
千乃が微笑む。
「魔法で温度を調整してるから。」
「氷は溶けないし、人は寒くないよ。」
「便利すぎるだろ……。」
真銀が苦笑した。
ララはというと、もう我慢できなかった。
「わぁぁぁぁっ!」
広いロビーを元気いっぱい走り回る。
「ララ!」
ライがすぐに呼び止める。
「転ぶぞ。」
「大丈夫だってば!」
そう言った次の瞬間。
つるっ。
「あ。」
見事に足を滑らせた。
「きゃぁぁぁっ!」
ずざぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
勢いよく床を滑っていき、そのまま遠くの柱にぺたっと張り付く。
「……。」
一瞬の静寂。
そして。
「ぷっ……。」
千乃が吹き出した。
「ふふっ……あははっ。」
笑いを堪えきれない。
真銀も肩を震わせている。
「お前……。」
ライは額に手を当てた。
「だから言っただろ。」
アイシィも口元に手を当てて笑う。
「ララらしい。」
柱から起き上がったララは、照れ笑いを浮かべた。
「えへへ……。」
「やっぱり滑った!」
「威張ることじゃねぇ。」
真銀が笑いながらツッコむ。
そのやり取りだけで、城の中の空気が一気に柔らかくなった。
千乃はその光景を見つめながら、小さく呟く。
「……よかった。」
「ん?」
真銀が振り返る。
「みんな、笑ってる。」
その言葉に、真銀も静かに辺りを見回した。
つい数日前まで、世界の命運を懸けて戦っていた。
誰が欠けてもおかしくなかった。
それなのに今は。
ララが笑って。
ライが呆れて。
アイシィが微笑んで。
千乃も笑っている。
その当たり前の景色が、何よりも尊かった。
「……そうだな。」
真銀も自然と笑みを浮かべる。
「こういう時間も悪くねぇ。」
千乃は嬉しそうに頷いた。
「うん。」
すると、その瞬間だった。
ゴゴゴゴゴ……
城の奥から、重々しい音が響く。
「……?」
ララが首をかしげる。
「何の音?」
ライはすぐに警戒して周囲を見渡す。
「誰かいるのか?」
アイシィも翼を少し広げる。
「違う……。」
千乃は音のする方を見つめると、ふっと笑った。
「あ。」
「思い出した。」
「そういえば、長いこと誰も来てなかったんだ。」
「……?」
全員が千乃を見る。
千乃は少しだけ照れくさそうに笑いながら言った。
「たぶん、お掃除ゴーレムが張り切ってる。」
「「「お掃除ゴーレム?」」」
その直後。
廊下の奥から、カタカタカタカタッ!と、何かがものすごい勢いで近づいてくる音が響いた。




