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ゲートオープン

 空はまだ、うるさいままだった。


「恋愛ギルド、高高度追跡継続!!」


「距離詰めます!!」


「まだ来るのかよ……!」


真銀の声に、空気が少しだけ荒れる。


アイシィの翼がさらに強く羽ばたき、氷の風が雲を裂いた。


そのときだった。


千乃の腕の中で、空気が変わる。


ほんの一瞬、真銀がそれに気づく。


「……おい」


低い声。


「今、何する気だ?」


千乃は答えない。


ただ、真紅の魔力が指先に集まっていく。


次の瞬間。


「”星の箱(アストラルボックス)ゲートオープン(門よ、我を受け入れよ)”」


詠唱と同時に、空間が“裂けた”。


真紅の渦が、空の一点に固定されるように開く。


まるで最初からそこに扉があったみたいに。


「……っ」


真銀の眉が動く。


「勝手に使うな」


短い怒り。


でも手は離さない。


千乃は少しだけ視線を逸らす。


「ごめん……でも」


「でもじゃねぇ」


真銀の声が少し強くなる。


「今のお前の状態で、それは負担だろ」


千乃の魔力は、まだ完全じゃない。


それを分かっているからこその怒りだった。


ララが後ろで目を丸くする。


「真銀、怒ってる……」


ライが小さく頷く。


「珍しいな」


アイシィは冷静に空を見ている。


「追跡継続中。時間がない」


その言葉が背中を押した。


真銀は一度だけ息を吐く。


「……次は俺に言え」


それだけ言って、千乃を抱え直す。


そして。


「行くぞ」


アイシィが頷いた。


氷の翼が一気に下降する。


真紅の渦へ突入。


視界が白く弾ける。


---


静寂。


空気が変わる。


世界の音が消えた。


そこは果てのない空間。


星のような光が漂い、遠くに巨大な氷の城が見える。


「……ここが」


ライが息を漏らす。


「空間収納か」


ララは目を輝かせる。


「すごい……お城だ!」


アイシィが静かに着地する。


氷の翼がゆっくりと収まる。


千乃はまだ真銀の腕の中。


そのまま、静かに息を吐いた。


ゲートクローズ(門よ、外界と隔離せよ)


真紅の渦が背後で閉じていく。


外の気配が完全に消えた。


真銀はようやく千乃を下ろす。


そして、軽く額を小突いた。


「……おい」


千乃がびくっとする。


「勝手に詠唱すんな」


「ごめん……」


「それと」


少し間を置く。


「今の、危ねぇだろ」


その声は怒ってるのに、ちゃんと心配が混じっていた。


千乃は小さく頷く。


「うん……でも、来てたから」


真銀は一瞬黙る。


そして、ため息をひとつ。


「……次は言え」


それだけ。


ララがそのやり取りを見て、ぽつりと笑う。


「なんかさ」


「ちょっと夫婦みたい」


真銀が即答する。


「違う」


千乃も小さく首を振る。


「違うよ」


でも、その空間の空気だけは、少しだけ柔らかかった。


遠く、氷の城が静かに光る。


ここから先は、外とは切り離された時間。


ようやく、追いかけてくる声のない場所だった。

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