れーんあいぎるどーは、どーこまーでーもー
風が強い。
いや、正確には――強すぎる。
アイシィの巨大な氷の翼が空を裂き、街の上空を一直線に駆け抜けていく。
その背に、千乃・真銀・ララ・ライが乗っていた。
千乃はまだ真銀の腕の中。
揺れないように支えられながら、空を見上げている。
「……これ、ほんとに逃げてるよね?」
「逃げてる。」
真銀は即答した。
その声は妙に疲れていた。
ララは翼の縁にしがみつきながら、目をキラキラさせている。
「すごいすごい!空飛んでる!」
「はしゃぐなって!」
ライが後ろで車椅子を固定しながら突っ込む。
「落ちたら終わりだぞ。」
「わかってるってー!」
たぶん分かってない。
アイシィの低い声が響く。
「後方、追尾あり。」
その言葉と同時だった。
空の下から声が上がる。
「発見しましたぁぁぁぁぁ!!」
「空中査定モード、正式起動!!」
真銀の顔が引きつる。
「……あいつら、飛べんのかよ。」
次の瞬間。
ハート型の魔法陣が街の上空に広がった。
そこから現れるのは、恋愛ギルド査定員たち。
普通に飛んでいる。
しかも、メモ帳片手に。
「飛行中の距離感、良好!!」
「抱っこ継続確認!!」
「尊さ空間拡大中!!」
「何の空間だそれ!!」
真銀のツッコミが風に消える。
千乃は腕の中で小さく身をよじる。
「真銀、重くない?」
「重いのは状況だ。」
即答。
ララが後ろで笑う。
「名言!」
「黙れ!」
ライが空を見ながら冷静に言う。
「このままだと、追いつかれる。」
アイシィが一瞬だけ翼を強く羽ばたかせる。
風圧が一気に増す。
「加速する。」
「うわっ!」
ララがしがみつく。
「落ちる落ちる!」
「だから言っただろ!」
真銀が千乃をさらに強く抱え直す。
その動きに、千乃が少しだけ顔を赤くする。
「……近い。」
「今は文句言うな。」
でもその声は、少しだけ優しかった。
後方。
恋愛ギルド査定員たちがさらに加速する。
「距離縮小中!!」
「心拍数上昇確認!!」
「恋愛濃度上昇!!」
「だから数値にすんな!!」
真銀が叫ぶ。
その瞬間だった。
ラブリー・スミスの声が空全体に響く。
「千乃さぁぁぁぁぁん!!真銀さぁぁぁぁぁん!!」
「空中デート査定に移行しまぁぁぁす!!」
「勝手にイベント追加すんな!!」
真銀の怒鳴り声が空に消える。
ララは爆笑している。
「空中デートだって!」
「笑い事じゃない!」
ライは真顔のまま。
「これは……長引くな。」
アイシィが低く言う。
「目的地変更推奨。」
真銀は一瞬だけ空を見た。
そして、決断する。
「アイシィ。」
「なに?」
「もっと上。」
「了解。」
翼がさらに広がる。
空気が薄くなるほど、一気に上昇。
風が鋭くなる。
下の街が小さくなっていく。
それでも――
「追いつきます!!」
「恋愛ギルド、高高度モード起動!!」
「何その適応力!!」
真銀は完全に遠い目をした。
「……こいつら、絶対諦めねぇな。」
千乃はその横顔を見て、ふっと小さく笑う。
「でも、ちょっと楽しそう。」
「どこがだ。」
即答。
でも、その声はもう怒っていなかった。
ただ、少しだけ呆れているだけだった。
空はどこまでも青い。
そしてその青の中を、恋愛ギルドと逃走中の一行が――
なぜか一番騒がしく飛んでいた。




